70 / 105
俺の彼氏へ、バレンタイン
(3)-3
しおりを挟む
モールは広く、午後に向けて徐々に人が増えて来た。
あれから、とりあえず本屋だねと言う謎の声掛けにより、みんなで本屋へと向かった。本屋は二階、カフェの隣にあり、広く、多様なジャンルの本が取り扱われていると有名だ。
女子は二人して菓子作りのコーナーへと消える。女子の決断力は早く、最早感心するレベルだ。
本当は雪も菓子作りのコーナーへ行きたかった。姉がレシピを教えてくれるとは言っても、少しくらい自分で勉強したい。
なのに結局、本屋に入ってすぐの、今月の一押しコーナー、同じ本が積み上げられている前で立ち止まっている。隣には榊も、いる。
本は普段読まないわけではないが、あまり興味はない。入学当初、声を掛けた榊が読んでいた本が気になり、買って読んだくらいで自ら買うのは漫画くらいだ。
ぱらぱらと活字だらけの本を読みながら、やはり後悔していいた。隣に立つ榊の視線が痛いのだ。
東側入り口で何かを言いかけていたからきっと、何か雪に言いたいのだろう。が、雪は今は聞きたくない。
さっきまでは聞きたいと迫ったくせに今度は聞きたくはないなんて、自分でも思うが矛盾している。
榊の口から事実を聞くときは、もっと、気持ちに余裕のある時がいい。蓋が半分開いた今ではなく、しっかりと閉まってもう二度と開かないくらい、きつく閉まった時。
そうでなければきっと、涙となって溢れてしまう。そんな自信だけがあった。
「南沢」
「なに?」
「さっきのことだけど」
榊が言いにくそうに言葉を紡ぐ。
「ああ、さっきのこと気にしてないから、俺は。それより、女子たち遅いから俺、様子見てくるわ」
上手く言えた。そう思っていたのに、榊に腕を握られた。
「南沢、待って!ちゃんと話がしたい」
思いのほか、大きく響いた声は、しっかりと雪の耳に届いている。
けれど、雪は頷けず、振り返ることもできず、ただ、その手を振り払うことしかできない。
「…いいよ、榊。無理しなくて」
ただ、そう言って女子の元へと足を急がせる。
追いかける榊を待つことはしなかった。
それから、催事イベントであるチョコ売り場へと行き、ショーケースに並ぶ艶々としたチョコを見ながら、あれがいい、これがいいと盛り上がる女子に混ざった。
「榊はどんなチョコがいいの?」
「俺は、甘いものならどれでも」
「そうじゃなくてさ、種類とかあるでしょ?たとえばこれとか」
と、斉藤が指さしたのは四角い形のチョコ。その上にはパウダーなのか、ふわふわとした絨毯のようにチョコと同じ色の何かが降りかけられているように見える。
すると、見兼ねた店員が説明してくれた。
「そちらは生チョコですね。お客様は甘いものがお好きでしょうか」
「あ、えっと、そうですね」
「でしたらこちらは、いかがでしょうか」
綺麗にネイルされたピンクの指の先。そこにはマフィンのカップに入った小ぶりなチョコレートケーキがあった。その上には、綺麗に盛り付けられた白いクリームが乗っている。
「一口食べると中はフォンダンショコラのようにスイートなチョコがとろりと蕩けます。甘いものがお好きでしたら、上のクリームもくどくなく、むしろ甘さの過剰摂取となり、大変美味しくお召し上がりいただけるかと思います」
甘さの過剰摂取-。甘い誘惑すら感じさせる店員の言葉に、雪も女子も、そしてちらりと見た榊も虜になり、じっとショーケースを除いていた。
「榊はこれが好きそうなの?」
追い打ちをかけるように斉藤が聞く。と、榊は「そう、だな。俺はこれが一番好きかも」と言った。
あれから、とりあえず本屋だねと言う謎の声掛けにより、みんなで本屋へと向かった。本屋は二階、カフェの隣にあり、広く、多様なジャンルの本が取り扱われていると有名だ。
女子は二人して菓子作りのコーナーへと消える。女子の決断力は早く、最早感心するレベルだ。
本当は雪も菓子作りのコーナーへ行きたかった。姉がレシピを教えてくれるとは言っても、少しくらい自分で勉強したい。
なのに結局、本屋に入ってすぐの、今月の一押しコーナー、同じ本が積み上げられている前で立ち止まっている。隣には榊も、いる。
本は普段読まないわけではないが、あまり興味はない。入学当初、声を掛けた榊が読んでいた本が気になり、買って読んだくらいで自ら買うのは漫画くらいだ。
ぱらぱらと活字だらけの本を読みながら、やはり後悔していいた。隣に立つ榊の視線が痛いのだ。
東側入り口で何かを言いかけていたからきっと、何か雪に言いたいのだろう。が、雪は今は聞きたくない。
さっきまでは聞きたいと迫ったくせに今度は聞きたくはないなんて、自分でも思うが矛盾している。
榊の口から事実を聞くときは、もっと、気持ちに余裕のある時がいい。蓋が半分開いた今ではなく、しっかりと閉まってもう二度と開かないくらい、きつく閉まった時。
そうでなければきっと、涙となって溢れてしまう。そんな自信だけがあった。
「南沢」
「なに?」
「さっきのことだけど」
榊が言いにくそうに言葉を紡ぐ。
「ああ、さっきのこと気にしてないから、俺は。それより、女子たち遅いから俺、様子見てくるわ」
上手く言えた。そう思っていたのに、榊に腕を握られた。
「南沢、待って!ちゃんと話がしたい」
思いのほか、大きく響いた声は、しっかりと雪の耳に届いている。
けれど、雪は頷けず、振り返ることもできず、ただ、その手を振り払うことしかできない。
「…いいよ、榊。無理しなくて」
ただ、そう言って女子の元へと足を急がせる。
追いかける榊を待つことはしなかった。
それから、催事イベントであるチョコ売り場へと行き、ショーケースに並ぶ艶々としたチョコを見ながら、あれがいい、これがいいと盛り上がる女子に混ざった。
「榊はどんなチョコがいいの?」
「俺は、甘いものならどれでも」
「そうじゃなくてさ、種類とかあるでしょ?たとえばこれとか」
と、斉藤が指さしたのは四角い形のチョコ。その上にはパウダーなのか、ふわふわとした絨毯のようにチョコと同じ色の何かが降りかけられているように見える。
すると、見兼ねた店員が説明してくれた。
「そちらは生チョコですね。お客様は甘いものがお好きでしょうか」
「あ、えっと、そうですね」
「でしたらこちらは、いかがでしょうか」
綺麗にネイルされたピンクの指の先。そこにはマフィンのカップに入った小ぶりなチョコレートケーキがあった。その上には、綺麗に盛り付けられた白いクリームが乗っている。
「一口食べると中はフォンダンショコラのようにスイートなチョコがとろりと蕩けます。甘いものがお好きでしたら、上のクリームもくどくなく、むしろ甘さの過剰摂取となり、大変美味しくお召し上がりいただけるかと思います」
甘さの過剰摂取-。甘い誘惑すら感じさせる店員の言葉に、雪も女子も、そしてちらりと見た榊も虜になり、じっとショーケースを除いていた。
「榊はこれが好きそうなの?」
追い打ちをかけるように斉藤が聞く。と、榊は「そう、だな。俺はこれが一番好きかも」と言った。
0
お気に入りに追加
83
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる