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俺の彼氏へ、バレンタイン
(3)-1
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一日、一日が長く、待ち遠しいと思っている内に、土曜日になっていた。
待ち合わせは十時。家からモールまではそう遠くなく、バスで数分、いくつかの停留所を過ぎた先にある。
南沢家では土日の朝食と昼食は、子どもが各々用意することになっている。雪が幼い頃は姉や料理好きな妹が率先して用意してくれていたが、雪が小学校高学年になったあたりから当番制となり、朝食、昼食と姉が作った当番表が回されることになった。
今日の当番は雪。昼食は妹。料理をすることが嫌いではないが、味にうるさい姉と妹に出す料理をするのは少しだけ億劫に感じる。
前日の残りの味噌汁を温め、肉食な女性陣のために鶏肉と余った野菜を出汁で煮込み、軽く麺つゆで味付けした。姉と妹が起きるのは遅く、両親は早くに仕事に出ていくため、一人でもそもそと食べる。
おしゃれに気を遣っているつもりはないが、モールに行くならと少しだけ、普段は着ないような服を出した。姉が誕生日に贈ってくれたプレゼントだ。
シャツにベスト、流行りだと言う緩めのパンツ、それからベルトを付けた。
家を出ることには二人とも、起きて朝食を食べていた。一言、声を掛けて出る。
家を出る間際、目ざとい妹が「お兄ちゃんデートなんだ」と言っていたが、構うとしつこいので無視した。
バスに揺られ、着いた時刻は九時四十五分。時刻表の通りで、バスの運転手に感心した。
モールはもう開いているようで、既に駐車場には車が数台、止まっていた。土日のモールはいつでも混んでいると、母が愚痴をこぼしていた通りで思わず目を瞠った。
東側入り口に行くと、まだ、斉藤の姿は見えない。中で待とうかと思ったが、中に入れば見つけるのは難しいだろうと思い、結局入口付近にあるベンチに座ることにした。
こうして待っていると、デートみたいだな。ふと、今朝、妹に言われた一言が引っかかり、思い出す。
男女が二人、モールを歩いているだけでそう見えるものだ。モールにいくからという理由だけで普段より洒落た格好をしたわけだが、それすらもデートだからと思われるかもしれない。
きっと、あの二人もそうなんだろうな。入口に向かい、歩いてくる背の高い男性と背の低い女性を見ながらお似合いだなとか、榊と自分ではこうはならないだろうなとか、そんなことを思って少しだけ、心がしょげる。
たとえ、この先、仮に何百万分の一の確率で雪の想いが実ったとしても自分たちはきっと、周りからそういうふうに見られることはない、友人、親友、どこまでいってもその枠からは域を出ないだろう。
そう思って欲しいのだろうか。問いかけてみるが、その答えはまだわからなかった。そう見られたいと思うならきっとそれは、雪自身のエゴなのかもしれない。
認めて欲しい、わかって欲しい。それは雪が心の奥に閉じ込めていた、榊を想う気持ちにも似ている。
くだらないことを考えた。榊を好きだという気持ちは誰にもばれないように封印すると、決めたはずなのに、こうして欲望が顔を出す自分に嫌気がする。
と、振り切るように前を見ると、例のカップルが近くまで来ていた。女性の背に合わせ、男性が屈み、女性の話を聞いているようだった。
ドクン、と心臓が大きく鳴る。一歩一歩、近づくその姿、鮮明になるその姿に冷や汗が流れそうだ。
「もしかして、雪くん?」
待ち合わせは十時。家からモールまではそう遠くなく、バスで数分、いくつかの停留所を過ぎた先にある。
南沢家では土日の朝食と昼食は、子どもが各々用意することになっている。雪が幼い頃は姉や料理好きな妹が率先して用意してくれていたが、雪が小学校高学年になったあたりから当番制となり、朝食、昼食と姉が作った当番表が回されることになった。
今日の当番は雪。昼食は妹。料理をすることが嫌いではないが、味にうるさい姉と妹に出す料理をするのは少しだけ億劫に感じる。
前日の残りの味噌汁を温め、肉食な女性陣のために鶏肉と余った野菜を出汁で煮込み、軽く麺つゆで味付けした。姉と妹が起きるのは遅く、両親は早くに仕事に出ていくため、一人でもそもそと食べる。
おしゃれに気を遣っているつもりはないが、モールに行くならと少しだけ、普段は着ないような服を出した。姉が誕生日に贈ってくれたプレゼントだ。
シャツにベスト、流行りだと言う緩めのパンツ、それからベルトを付けた。
家を出ることには二人とも、起きて朝食を食べていた。一言、声を掛けて出る。
家を出る間際、目ざとい妹が「お兄ちゃんデートなんだ」と言っていたが、構うとしつこいので無視した。
バスに揺られ、着いた時刻は九時四十五分。時刻表の通りで、バスの運転手に感心した。
モールはもう開いているようで、既に駐車場には車が数台、止まっていた。土日のモールはいつでも混んでいると、母が愚痴をこぼしていた通りで思わず目を瞠った。
東側入り口に行くと、まだ、斉藤の姿は見えない。中で待とうかと思ったが、中に入れば見つけるのは難しいだろうと思い、結局入口付近にあるベンチに座ることにした。
こうして待っていると、デートみたいだな。ふと、今朝、妹に言われた一言が引っかかり、思い出す。
男女が二人、モールを歩いているだけでそう見えるものだ。モールにいくからという理由だけで普段より洒落た格好をしたわけだが、それすらもデートだからと思われるかもしれない。
きっと、あの二人もそうなんだろうな。入口に向かい、歩いてくる背の高い男性と背の低い女性を見ながらお似合いだなとか、榊と自分ではこうはならないだろうなとか、そんなことを思って少しだけ、心がしょげる。
たとえ、この先、仮に何百万分の一の確率で雪の想いが実ったとしても自分たちはきっと、周りからそういうふうに見られることはない、友人、親友、どこまでいってもその枠からは域を出ないだろう。
そう思って欲しいのだろうか。問いかけてみるが、その答えはまだわからなかった。そう見られたいと思うならきっとそれは、雪自身のエゴなのかもしれない。
認めて欲しい、わかって欲しい。それは雪が心の奥に閉じ込めていた、榊を想う気持ちにも似ている。
くだらないことを考えた。榊を好きだという気持ちは誰にもばれないように封印すると、決めたはずなのに、こうして欲望が顔を出す自分に嫌気がする。
と、振り切るように前を見ると、例のカップルが近くまで来ていた。女性の背に合わせ、男性が屈み、女性の話を聞いているようだった。
ドクン、と心臓が大きく鳴る。一歩一歩、近づくその姿、鮮明になるその姿に冷や汗が流れそうだ。
「もしかして、雪くん?」
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