俺の彼氏

リンドウ(友乃)

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俺の彼氏へ、バレンタイン

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年が明けた、と思えば、一月は過ぎ、二月。街もテレビもそして人も、次なる行事へと気持ちはまっしぐらだ。

「さあ、皆さんお待ちかねのバレンタインですね!」
料理教教室の講師、香坂がウキウキとした声で言う。
クリスマスのサプライズディナーのため、入った料理教室。母や姉に扱かれ、料理は嫌いではなかったこともあり、そして今は愛しのてっちゃんのためにもっと腕を上げたいと、あれからも通い続けている。

「今日から特別企画!バレンタインチョコを作りましょう!」
そう、声を張り上げて言うと、調理台にかかっている大きいクロスをばさっと勢いよく、取った。
道理で甘い匂いが立ち込めていたはずだ。
板チョコ、バター、砂糖など、調理台に乗る食材に、雪もここに通う生徒も感嘆の溜息を吐いた。

「先生、本当にチョコレシピを?」
「もちろん!皆さんのリクエストにお答えしました」
その言葉に生徒たちの目は一層輝いたものになる。というのも、年明けに配られたリクエスト用紙に書いたことが叶った喜びだろう。
実はあのリクエスト用紙を書く時、事前にみんなで話し合ったのだ。
リクエスト用紙は一か月に一度、翌月の作りたいものを書く形式で配られる。せっかく教室に通ってくれているのだから、生徒の好きなものを作りたいという、香坂の計らいによるものだ。
各々、作りたい料理を書く時もあるが、最近ではイベントがある時には、みんなで何が作りたいかを発表し、纏める方式を取っているらしい。いかにも、女性陣の集まりという感じに雪は見えた。
しかし、そこはお互い社会人。学生の頃のように忖度したり遠慮したりという雰囲気はなく、言い出した人が司会となり、それぞれの意見のすり合わせを行う。

たとえば、クリスマスの時、ポークかチキンかで意見が分かれた。学生ならば、多数決で決めることもあるが、社会人の集まりとなれば少し違って、ポークについて、チキンについての熱いディベートが行われた。
ポーク料理といえば、チキン料理といえば。時期的な魅力や作れるレシピなど。雪は男性が多く勤める会社に属しているため、女性優位の会議はあまり経験がない。もちろん、差別をしているわけではなく、菅のようにどんな場にも臆することなく、意見を出す人もいることは重々承知だ。
が、それでも、男性が雪ともう一人の男性だけとなると、少々、圧倒されてしまう。
次から次へと飛び交う意見の波、展開の速さに発想力。正直、何の話をしていたのか、今となっては思い出せないものである。

今回もそのディベートは、一月の年明け、料理教室の新年会と称して行われたのだ。
今回は雪も、もう一人の男性、斎賀も頑張った。何とか、話についていけるよう、事前にバレンタインレシピを調べ、作るメリットデメリットまで考えたものだ。考え、纏めながら、まるで仕事のようだとすら思う。
雪が出した案は、生チョコ。『バレンタイン チョコレシピ 簡単』で検索し、それがヒットしたということもあるが、これなら甘いものが好きなてっちゃんにも喜んでもらえるのではないかと思ったのだ。
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