44 / 105
俺の彼氏とメリークリスマス
(1)-3
しおりを挟む
時計を見れば時刻は20時。まだ先は長いと部長の一声で解散となった総務課の職員は、それぞれに重い腰を上げ帰りの支度をしている。
「じゃあお先!おつかれさま!」
「ああ、おつかれ」
朝とは見違えるようにすっきりとした表情で、春日井が急ぎ足で帰っていく。
定食を完食した後、どんよりとした雰囲気が嘘のように春日井はシャキッとした様子で山のような業務を遂行していた。
ということは、いくらか気が晴れたのだろう。
名前も顔も知らないできる彼女と今夜こそは上手くいくといいな。
そう思いながら榊も帰路に着く足を急がせていた。
「ただいま~」
「おかえり、てっちゃん!」
飛びつく勢いで出迎えてくれた雪を優しく抱きしめる。
「今日は割と早かった?」
「ああ。部長がもう帰っていいって」
「良かったじゃん。じゃあ一緒にご飯食べれるな」
そう言われて気付く。部屋に漂う香りは味噌汁の良い香りだ。
「悪いな。また飯作ってもらって」
「なんで謝る!俺の方が早く帰れたんだから当たり前!」
コートを脱ぐように言われ、ついでに部屋着へと着替えに寝室に向かう。
すっかり冬物へと様変わりしているクローゼットは、もちろん雪のお陰だ。
以前は勝手に服を捨てられほんの少し、憤ることもあったが、今となればそうでもしてくれなければこんなに綺麗なクローゼットには仕上がらなかっただろう。
細やかな気配りもできる雪に感謝しつつ、寝室を出ると更に良い香りがリビングに広がっていた。
「はい、できた。食べよ、てっちゃん」
食卓には味噌汁、生姜焼き、それからマカロニサラダが並べられていた。
「「いただきます」」
自然と重なる声でそう言う。いつからか、言う言葉もタイミングも重なるようになり、最初こそ気恥ずかしい気持ちでいっぱいだったが今となればそれも当たり前のようになっている。
「美味い。雪、また料理の腕上げたんじゃないか?」
「まさか!最近だよ?通い始めたの」
雪は最近、週に二回料理教室に通い始めた。
雪の職場の菅に誘われ、行くことになったと言われたのは一ヶ月前。聞けば前々から料理に興味があったそうなのだ。
けれど榊に言わせれば、雪の料理は充分に美味い。
叔父譲りのザ・男飯しか作れない、まあ雪の誕生日くらいにはそれなりのものを作りはするが。そんな榊に比べれば、雪の作る料理はとても繊細なものだ。
和食洋食中華問わず、見た目も美しく味も塩気が効きすぎないそれらに、今更通わなくてもと思いはしたが、案外頑固な雪に言ってもきっと納得はしないだろう。
結果、雪も楽しそうにしており、料理だってまるで惣菜屋で買う料理のように美味いのだから、文句を言うべきところがない。
「でも、美味いよ。さすが雪だな」
「…てっちゃん?褒めてもなんも出ないからな?」
照れたのか顔を赤く染め、憎まれ口を叩く雪はやはり可愛い。
昔から変わらない可愛さにいますぐキスをしたくなる気持ちを抑え、誤魔化すように一つ咳払いをする。
「やっぱりしばらく仕事忙しい感じ?」
「ああ、そうかも。12月は毎年繁忙期だからな」
「そっかぁ。じゃあクリスマスも?」
「…いや、なんとかするよ」
「本当に?!でも、やっぱり無理してるなら」
「いや、大丈夫だ。一日くらい」
やっぱり気を遣われていた。箸を止めて雪を見ると、雪もこちらを伺うようにじっと見ている。
11月に入ったばかりの頃、雪からクリスマスは一緒に過ごしたいと言われていた。
例年、そう約束しては急な仕事が入るばかりで、ここ数年は一緒に過ごせていなかったからか、遠慮がちに聞いているようだ。
昔から雪は自分の気持ちを押し付けない。それどころか、相手の気持ちを優先させてばかりであまり自分の欲を全面に出さない。
人に優しい雪を尊敬し、そんなところも好きな一方でもっと頼って甘えて欲しいと思う。
だから今回だけは、何としてでも守りたい。
「雪、本当に大丈夫だから。クリスマスは一緒に過ごそう」
願いを込めてそう言えば、雪はふんわりと優しく笑ってくれた。
「じゃあお先!おつかれさま!」
「ああ、おつかれ」
朝とは見違えるようにすっきりとした表情で、春日井が急ぎ足で帰っていく。
定食を完食した後、どんよりとした雰囲気が嘘のように春日井はシャキッとした様子で山のような業務を遂行していた。
ということは、いくらか気が晴れたのだろう。
名前も顔も知らないできる彼女と今夜こそは上手くいくといいな。
そう思いながら榊も帰路に着く足を急がせていた。
「ただいま~」
「おかえり、てっちゃん!」
飛びつく勢いで出迎えてくれた雪を優しく抱きしめる。
「今日は割と早かった?」
「ああ。部長がもう帰っていいって」
「良かったじゃん。じゃあ一緒にご飯食べれるな」
そう言われて気付く。部屋に漂う香りは味噌汁の良い香りだ。
「悪いな。また飯作ってもらって」
「なんで謝る!俺の方が早く帰れたんだから当たり前!」
コートを脱ぐように言われ、ついでに部屋着へと着替えに寝室に向かう。
すっかり冬物へと様変わりしているクローゼットは、もちろん雪のお陰だ。
以前は勝手に服を捨てられほんの少し、憤ることもあったが、今となればそうでもしてくれなければこんなに綺麗なクローゼットには仕上がらなかっただろう。
細やかな気配りもできる雪に感謝しつつ、寝室を出ると更に良い香りがリビングに広がっていた。
「はい、できた。食べよ、てっちゃん」
食卓には味噌汁、生姜焼き、それからマカロニサラダが並べられていた。
「「いただきます」」
自然と重なる声でそう言う。いつからか、言う言葉もタイミングも重なるようになり、最初こそ気恥ずかしい気持ちでいっぱいだったが今となればそれも当たり前のようになっている。
「美味い。雪、また料理の腕上げたんじゃないか?」
「まさか!最近だよ?通い始めたの」
雪は最近、週に二回料理教室に通い始めた。
雪の職場の菅に誘われ、行くことになったと言われたのは一ヶ月前。聞けば前々から料理に興味があったそうなのだ。
けれど榊に言わせれば、雪の料理は充分に美味い。
叔父譲りのザ・男飯しか作れない、まあ雪の誕生日くらいにはそれなりのものを作りはするが。そんな榊に比べれば、雪の作る料理はとても繊細なものだ。
和食洋食中華問わず、見た目も美しく味も塩気が効きすぎないそれらに、今更通わなくてもと思いはしたが、案外頑固な雪に言ってもきっと納得はしないだろう。
結果、雪も楽しそうにしており、料理だってまるで惣菜屋で買う料理のように美味いのだから、文句を言うべきところがない。
「でも、美味いよ。さすが雪だな」
「…てっちゃん?褒めてもなんも出ないからな?」
照れたのか顔を赤く染め、憎まれ口を叩く雪はやはり可愛い。
昔から変わらない可愛さにいますぐキスをしたくなる気持ちを抑え、誤魔化すように一つ咳払いをする。
「やっぱりしばらく仕事忙しい感じ?」
「ああ、そうかも。12月は毎年繁忙期だからな」
「そっかぁ。じゃあクリスマスも?」
「…いや、なんとかするよ」
「本当に?!でも、やっぱり無理してるなら」
「いや、大丈夫だ。一日くらい」
やっぱり気を遣われていた。箸を止めて雪を見ると、雪もこちらを伺うようにじっと見ている。
11月に入ったばかりの頃、雪からクリスマスは一緒に過ごしたいと言われていた。
例年、そう約束しては急な仕事が入るばかりで、ここ数年は一緒に過ごせていなかったからか、遠慮がちに聞いているようだ。
昔から雪は自分の気持ちを押し付けない。それどころか、相手の気持ちを優先させてばかりであまり自分の欲を全面に出さない。
人に優しい雪を尊敬し、そんなところも好きな一方でもっと頼って甘えて欲しいと思う。
だから今回だけは、何としてでも守りたい。
「雪、本当に大丈夫だから。クリスマスは一緒に過ごそう」
願いを込めてそう言えば、雪はふんわりと優しく笑ってくれた。
0
お気に入りに追加
85
あなたにおすすめの小説
孤狼のSubは王に愛され跪く
ゆなな
BL
旧題:あなたのものにはなりたくない
Dom/Subユニバース設定のお話です。
氷の美貌を持つ暗殺者であり情報屋でもあるシンだが実は他人に支配されることに悦びを覚える性を持つSubであった。その性衝動を抑えるために特殊な強い抑制剤を服用していたため周囲にはSubであるということをうまく隠せていたが、地下組織『アビス』のボス、レオンはDomの中でもとびきり強い力を持つ男であったためシンはSubであることがばれないよう特に慎重に行動していた。自分を拾い、育ててくれた如月の病気の治療のため金が必要なシンは、いつも高額の仕事を依頼してくるレオンとは縁を切れずにいた。ある日任務に手こずり抑制剤の効き目が切れた状態でレオンに会わなくてはならなくなったシン。以前から美しく気高いシンを狙っていたレオンにSubであるということがバレてしまった。レオンがそれを見逃す筈はなく、シンはベッドに引きずり込まれ圧倒的に支配されながら抱かれる快楽を教え込まれてしまう───
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
倫理的恋愛未満
雨水林檎
BL
少し変わった留年生と病弱摂食障害(拒食)の男子高校生の創作一次日常ブロマンス(BL寄り)小説。
体調不良描写を含みます、ご注意ください。
基本各話完結なので単体でお楽しみいただけます。全年齢向け。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる