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俺の彼氏とメリークリスマス
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南沢 雪という男はとにかくモテる。そして恐ろしく顔も性格も良い。
学生時代は誰に言われるまでもなく、気付けば人の輪の中心にいるようないわゆる陽キャと呼ばれる人種だった。
明るく誰にでも優しく飾りっ気のない男、それが南沢 雪だ。
一方で榊はといえば雪とは真逆の性格だ。必要なこと以外には口を閉ざし、読書を好む。いわゆる陰キャという種族である。
そんな二人がまさか恋人になるとは、今になっても信じられないと時々思う。
感情表現が豊富な雪、口下手で鈍感な榊。正反対の二人が喧嘩をする時はいつも、榊の鈍感さとそして嫉妬心が原因だ。
前回もそうだった。雪の友人、結人に妬いてみっともない醜態を晒したのだ。
「…意見の相違とかか?」
だが、他人にまさか自分が嫉妬したからとは言いづらく、カッコつけてそう言う。
「意見の相違ねぇ。じゃあ仲直りは?もちろんするよな?榊なら」
榊なら、とは一体どういうイメージだ。疑問に思いつつも、問われた答えを考える。
「俺の場合は結局、恋人のお陰だろうな」
「…と言うと?」
「要するに恋人の懐の広さと深さに助けられている」
前回も雪の手紙に突き動かされたのだ。榊がしたことといえば、ただ雪を迎えに走っただけだ。そう考えるとなんだか不甲斐ないと思わされ、落ち込みそうにもなる。
俺なんかが雪の恋人でいいのだろうか。
時々過ぎるそれに榊はまた、思考を囚われる。
みんなのアイドルである雪を果たして自分が独占していい訳がない、だけど独占していたい。
「なるほど。榊の彼女は榊よりも大人ってことか」
「まあ、そうなるな。で、お前は?何に悩んでんだ」
気付けば自分の話になっていたと、榊は軌道修正するように話を切り出した。
「俺さ、実は三ヶ月前くらいから付き合って
る人がいてさ」
正直、驚いた。春日井とそういう話をすることはなくはないが、最近の記憶では夏季休暇明けの九月に彼女はいないと話したばかりだった。
となるとあれからすぐに、そういう人が出来たということだ。
素直に嬉しい、喜ばしい。だがこの感触だと、今は祝いの言葉を告げるべきではない。
「そうだったんだな」
榊はただ、受容の言葉を一言告げ、春日井の言葉を待つことにした。
「その彼女とさ、喧嘩しちゃったんだよ」
すると程なくして覇気のない声で呟いた。
なるほど、だから聞いてきたのか。話の流れに辻褄を感じながら、こういう話を得意としない榊はどんな言葉を返そうかと悩む。
「俺たち今、とんでもなく忙しいだろ?」
「そうだな、繁忙期だからな」
「だろ?けどさ、そこんとこあんまり理解してくれないんだよな」
春日井によると彼女は四歳年上で、聞けば誰でも知っているという会社に勤める人だとか。
「だからさ、俺が仕事が終わらないとか言ってもわからないんだよ。あなたの要領の問題ねとか言われちゃって…」
つまり、春日井の彼女はできる人種という訳だ。
「でもさ、俺だって毎日毎日早く帰れるようにって必死こいて頑張ってるわけ。それでも終わらないもんは終わらない。だろ?榊」
「ああ、どんなに頑張っても終わらないもんは終わらないよな」
春日井の同情を誘う言葉に、本気で共感する。
こればかりは同じ立場にならないとわからないと思うが、どんなに要領良く動いていても終わらない時は絶対にあるのだ。
現に鬼部長と裏でこっそり呼ばれている総務課のエースですら、毎日残業続きだ。
「なのにさ、どんだけ言ってもわかってくれないんだよ。しかも仕舞いには、浮気を疑われたりして。俺ってそんな軽く見える?」
泣きそうな声で言われ、改めて春日井を見る。
確かに派手目な容姿ではある。目立ち過ぎない程度に茶色く染められ爽やかにセットされた髪、美容室にある雑誌に載っているモデルのように端正な顔立ちは、ぱっと見れば浮ついて見られても仕方ないのかもしれない。
だが、実際には真面目で誤魔化しや嘘などもつかない、好青年である。
「いや、お前は大丈夫だ。全く軽さのカケラもない」
「…さ、榊ーッ!だよな?俺、軽くないよな?!」
「ああ、だからまずは飯を食べろよ」
半分も進んでいない定食を勧めると、春日井は「俺、軽くないよな」と言いながらガツガツとチキン南蛮を食べ始めた。
学生時代は誰に言われるまでもなく、気付けば人の輪の中心にいるようないわゆる陽キャと呼ばれる人種だった。
明るく誰にでも優しく飾りっ気のない男、それが南沢 雪だ。
一方で榊はといえば雪とは真逆の性格だ。必要なこと以外には口を閉ざし、読書を好む。いわゆる陰キャという種族である。
そんな二人がまさか恋人になるとは、今になっても信じられないと時々思う。
感情表現が豊富な雪、口下手で鈍感な榊。正反対の二人が喧嘩をする時はいつも、榊の鈍感さとそして嫉妬心が原因だ。
前回もそうだった。雪の友人、結人に妬いてみっともない醜態を晒したのだ。
「…意見の相違とかか?」
だが、他人にまさか自分が嫉妬したからとは言いづらく、カッコつけてそう言う。
「意見の相違ねぇ。じゃあ仲直りは?もちろんするよな?榊なら」
榊なら、とは一体どういうイメージだ。疑問に思いつつも、問われた答えを考える。
「俺の場合は結局、恋人のお陰だろうな」
「…と言うと?」
「要するに恋人の懐の広さと深さに助けられている」
前回も雪の手紙に突き動かされたのだ。榊がしたことといえば、ただ雪を迎えに走っただけだ。そう考えるとなんだか不甲斐ないと思わされ、落ち込みそうにもなる。
俺なんかが雪の恋人でいいのだろうか。
時々過ぎるそれに榊はまた、思考を囚われる。
みんなのアイドルである雪を果たして自分が独占していい訳がない、だけど独占していたい。
「なるほど。榊の彼女は榊よりも大人ってことか」
「まあ、そうなるな。で、お前は?何に悩んでんだ」
気付けば自分の話になっていたと、榊は軌道修正するように話を切り出した。
「俺さ、実は三ヶ月前くらいから付き合って
る人がいてさ」
正直、驚いた。春日井とそういう話をすることはなくはないが、最近の記憶では夏季休暇明けの九月に彼女はいないと話したばかりだった。
となるとあれからすぐに、そういう人が出来たということだ。
素直に嬉しい、喜ばしい。だがこの感触だと、今は祝いの言葉を告げるべきではない。
「そうだったんだな」
榊はただ、受容の言葉を一言告げ、春日井の言葉を待つことにした。
「その彼女とさ、喧嘩しちゃったんだよ」
すると程なくして覇気のない声で呟いた。
なるほど、だから聞いてきたのか。話の流れに辻褄を感じながら、こういう話を得意としない榊はどんな言葉を返そうかと悩む。
「俺たち今、とんでもなく忙しいだろ?」
「そうだな、繁忙期だからな」
「だろ?けどさ、そこんとこあんまり理解してくれないんだよな」
春日井によると彼女は四歳年上で、聞けば誰でも知っているという会社に勤める人だとか。
「だからさ、俺が仕事が終わらないとか言ってもわからないんだよ。あなたの要領の問題ねとか言われちゃって…」
つまり、春日井の彼女はできる人種という訳だ。
「でもさ、俺だって毎日毎日早く帰れるようにって必死こいて頑張ってるわけ。それでも終わらないもんは終わらない。だろ?榊」
「ああ、どんなに頑張っても終わらないもんは終わらないよな」
春日井の同情を誘う言葉に、本気で共感する。
こればかりは同じ立場にならないとわからないと思うが、どんなに要領良く動いていても終わらない時は絶対にあるのだ。
現に鬼部長と裏でこっそり呼ばれている総務課のエースですら、毎日残業続きだ。
「なのにさ、どんだけ言ってもわかってくれないんだよ。しかも仕舞いには、浮気を疑われたりして。俺ってそんな軽く見える?」
泣きそうな声で言われ、改めて春日井を見る。
確かに派手目な容姿ではある。目立ち過ぎない程度に茶色く染められ爽やかにセットされた髪、美容室にある雑誌に載っているモデルのように端正な顔立ちは、ぱっと見れば浮ついて見られても仕方ないのかもしれない。
だが、実際には真面目で誤魔化しや嘘などもつかない、好青年である。
「いや、お前は大丈夫だ。全く軽さのカケラもない」
「…さ、榊ーッ!だよな?俺、軽くないよな?!」
「ああ、だからまずは飯を食べろよ」
半分も進んでいない定食を勧めると、春日井は「俺、軽くないよな」と言いながらガツガツとチキン南蛮を食べ始めた。
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