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俺の彼氏のお友達
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付き合って八年、同棲して三年。なんだかんだと小さないざこざはありつつも、こうやって仲睦まじく過ごせていられるのは雪が好きで俺を好きな雪の想いのおかげなのだろう。
だが、何事にも想定外という事態が起こり得る。
「そうだ、哲ちゃん。今月末は俺、いないからね」
「は?何、どういうこと」
「いつも言ってるじゃん!10月は結人と旅行行くよって」
雪が言う結人とは、雪の4個上の親友だ。
そして俺にとってはある意味、一生敵わないライバルでもある。
雪が言う旅行とは、年に一度この時期になると雪と結人二人で行く旅行のことだ。
旅行という形になったのは二人とも働き始めてからだが、それ以前も文化祭や町内会のイベントにと随分仲良くしていた。
「その、それは今年も行く、んだよな?」
煩いことは言いたくない、けれど毎年一週間も不在にされれば閉じようとした口が開いてしまうものだろう。
「行くよ?もうホテルとか予約したし。ってか今更じゃん。どうしたの?」
「まあ、確認?みたいな」
つい、言葉を濁したのは精一杯の去勢を張りたかったとしか言えない。
雪は一人になる時間が欲しいとは言いながらも、友人を大事にするタイプの人間だ。
つまり俺は、女性社員がよく給湯室でする「友達と彼女どっちが大事なのよ」論の通りに、ヤキモチを妬いている。
しかし、先日も春日井に言った通り、俺は雪に対して不満は一つもない。それどころか、雪といれば幸せになるばかりだ、それは間違いないのだ。
なのに、この時期だけはどうしてもナーバスになってしまう。それはもう何年も前からのことだから否定しようがない。
ただ、その原因が雪の一番の親友であることが、そこにヤキモチを妬いている自分が許せない。
「もしかして…妬いてる?」
「はあ?んな訳ねーだろ。結人くんに妬くとか」
勢い、だった。考えるよりも先に言葉が出ていた、しかも冷たくも聞こえる言葉が。
はっとして雪を見れば、驚いたような怯えたような目をして俺を見ていた。
クソッ、まずい。心を読まれたようで悔しくなって口走ってしまったと、つい何分か前に持ったばかりの鞄を放り投げて雪に近寄る。
「雪、すまん」
「…何が」
「言い方キツかった。すまない」
雪の口調が素っ気ないことに、俺は更に不安になる。
いつも明るく哲ちゃんと寄ってくる雪が素っ気ない時は、大抵怒っている時だ。
***
秋といえども、日中20度前後を彷徨う気温。加えて古めかしい造りの役所のおかげで、じんわりと汗が滲む中、俺は深い溜息をついていた。
「あれ、榊。今日は随分と暗い雰囲気だな?」
「…春日井か。いや、別にいつもと変わらない」
「変わらない?んな訳あるか!一応な、同期だぞ?俺たち。どうせ彼女と喧嘩でもしたんだろ?」
思うが春日井は人の観察力に長けている。そう関心していると、話してみろよと春日井が言う。
つい、春日井に聞かれると口をぺらぺらと滑らせてしまうのは何故だろうと、やや疑問に思いながらも俺は今朝の雪との喧嘩を語り始める。
「それは、うん、まあ榊も悪いよな?」
「…そうだな、というか俺が全面的に悪い」
「なんだ、わかってんじゃん」
一通り事情を聞いた春日井の感想はもうその通り過ぎて、自分の不甲斐なさにへこむしかない。
「けどさ、彼女さんもすごいよな?他の男と一週間も2人きりで旅行って、俺が彼氏だったら、ん~多分、許せないかも」
「そうか、やっぱりそうだよな」
「なに、榊、そんな涼しい顔して許せてないってことか?」
そんな単純な問題じゃない、とまたしても口が滑りそうになるが、ここで言っても仕方ないと緩みそうになった口を結び直す。
しかし、雪はまだ怒っているのだろうか。
家を出る間際、俯いていた雪がどんな顔で俺を見送ってくれたかは定かではないが、思わずそう過るのは過去にやらかしたあることのせいだ。
だが、何事にも想定外という事態が起こり得る。
「そうだ、哲ちゃん。今月末は俺、いないからね」
「は?何、どういうこと」
「いつも言ってるじゃん!10月は結人と旅行行くよって」
雪が言う結人とは、雪の4個上の親友だ。
そして俺にとってはある意味、一生敵わないライバルでもある。
雪が言う旅行とは、年に一度この時期になると雪と結人二人で行く旅行のことだ。
旅行という形になったのは二人とも働き始めてからだが、それ以前も文化祭や町内会のイベントにと随分仲良くしていた。
「その、それは今年も行く、んだよな?」
煩いことは言いたくない、けれど毎年一週間も不在にされれば閉じようとした口が開いてしまうものだろう。
「行くよ?もうホテルとか予約したし。ってか今更じゃん。どうしたの?」
「まあ、確認?みたいな」
つい、言葉を濁したのは精一杯の去勢を張りたかったとしか言えない。
雪は一人になる時間が欲しいとは言いながらも、友人を大事にするタイプの人間だ。
つまり俺は、女性社員がよく給湯室でする「友達と彼女どっちが大事なのよ」論の通りに、ヤキモチを妬いている。
しかし、先日も春日井に言った通り、俺は雪に対して不満は一つもない。それどころか、雪といれば幸せになるばかりだ、それは間違いないのだ。
なのに、この時期だけはどうしてもナーバスになってしまう。それはもう何年も前からのことだから否定しようがない。
ただ、その原因が雪の一番の親友であることが、そこにヤキモチを妬いている自分が許せない。
「もしかして…妬いてる?」
「はあ?んな訳ねーだろ。結人くんに妬くとか」
勢い、だった。考えるよりも先に言葉が出ていた、しかも冷たくも聞こえる言葉が。
はっとして雪を見れば、驚いたような怯えたような目をして俺を見ていた。
クソッ、まずい。心を読まれたようで悔しくなって口走ってしまったと、つい何分か前に持ったばかりの鞄を放り投げて雪に近寄る。
「雪、すまん」
「…何が」
「言い方キツかった。すまない」
雪の口調が素っ気ないことに、俺は更に不安になる。
いつも明るく哲ちゃんと寄ってくる雪が素っ気ない時は、大抵怒っている時だ。
***
秋といえども、日中20度前後を彷徨う気温。加えて古めかしい造りの役所のおかげで、じんわりと汗が滲む中、俺は深い溜息をついていた。
「あれ、榊。今日は随分と暗い雰囲気だな?」
「…春日井か。いや、別にいつもと変わらない」
「変わらない?んな訳あるか!一応な、同期だぞ?俺たち。どうせ彼女と喧嘩でもしたんだろ?」
思うが春日井は人の観察力に長けている。そう関心していると、話してみろよと春日井が言う。
つい、春日井に聞かれると口をぺらぺらと滑らせてしまうのは何故だろうと、やや疑問に思いながらも俺は今朝の雪との喧嘩を語り始める。
「それは、うん、まあ榊も悪いよな?」
「…そうだな、というか俺が全面的に悪い」
「なんだ、わかってんじゃん」
一通り事情を聞いた春日井の感想はもうその通り過ぎて、自分の不甲斐なさにへこむしかない。
「けどさ、彼女さんもすごいよな?他の男と一週間も2人きりで旅行って、俺が彼氏だったら、ん~多分、許せないかも」
「そうか、やっぱりそうだよな」
「なに、榊、そんな涼しい顔して許せてないってことか?」
そんな単純な問題じゃない、とまたしても口が滑りそうになるが、ここで言っても仕方ないと緩みそうになった口を結び直す。
しかし、雪はまだ怒っているのだろうか。
家を出る間際、俯いていた雪がどんな顔で俺を見送ってくれたかは定かではないが、思わずそう過るのは過去にやらかしたあることのせいだ。
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