俺の彼氏

ゆきの(リンドウ)

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俺の彼氏のバースデイ

(4)-1

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 9月3週目の日曜日。一面に緑のカーテンを彩らせていた木々の葉が、所々赤だったり茶色だったりと色を変えている。
 本格的に秋の訪れを感じるべきだろうか。

 クローゼットから秋の洋服の長袖フランネルシャツとこれさえあれば何とでもなると叔父が言うチノパンを取り出し、ついでに帽子も被っていけというアドバイス通り、俺はきちんと秋の装いを身につけながら、情緒的なことを思っていた。

 向かう先はここら辺で一番規模が大きいショッピングモール、何故かというと今日はここで例のパーティの最終準備と買い出しをするためである。
 待ち合わせ時刻は午後1時、南沢がもし来てくれるとすれば4時間の猶予だ、それなら充分に間に合うだろう。
 最終準備となるとやることは限られている、というのは俺のチーム装飾係兼プレゼント係のリーダー三浦さんが声を高々に言っていた。
 時刻は12時45分、少し早かったかと思いつつも待ち合わせ場所の南側入り口に着いた。
 すると、「榊くん?」と、最近では貴重なくん付けでしかもまた珍しいことに控えめに呼ばれる。

「やっぱり、榊くんだった。私も早く着きすぎちゃったんだ」
「…吉井さんも早く着いちゃう性格?」
「そうなの!遅れるよりいいかなってつい張り切りすぎちゃって」
 吉井さんとは花火大会以来、仲良くしてもらっている。とは言え、南沢ほどでもなく、時々会話をする程度のものだが。
 たとえば朝のおはようとか放課後のバイバイとか、最近では例のパーティの打ち合わせがあるためここでも話題の中心は南沢だった。

 他のメンバーが来るまで立ち話もなんだから、と入り口付近のベンチに座ることにした。
 お互いに口数は多い方ではないが、ぽつりぽつりと話す感覚が俺には心地良いものだ。それはきっと、吉井さんという人が優しい性格の持ち主であったからだろう。
 唐突に俺が今回のパーティに何故参加することにしたのか聞くと彼女は小さく笑いながら、「雪くんとあかりちゃんが似ているから、かな?」と、自分にはない快活さに憧れているからだと教えてくれたのだ。

 ここにも南沢に憧れる人がいる、それが純粋な憧れなのかそれともそういう意味での好きなのか。

 そう思いまた俺の頭には、晴れない残りの2割の霞が頭を過る。
 彼女がたとえ、南沢を好きだとしても俺にとっては何の支障もないはずだ。南沢が誰を好きでも誰を彼女にしたとしても。
 最近の俺は少しばかり様子がおかしい。何故なら大好きだった勉強より弓道より何より、あいつのことを考える時間が増えている。

 結局、待ち合わせ時間を15分遅れて着いたメンバーと合流し、買い出しやら当日の段取りやらをフードコートでフライドポテトと炭酸をつまみに話し、リーダーがよし!これで完璧だね!と解散の掛け声を告げたのは16時30分頃だった。

「榊くん、この後用事ある感じ?」
「あぁ、これからちょっと…」
 言い淀んだのはみんなが南沢のためをと準備しているのに、自分だけが当の本人と会うのはどうなのか、と良心にチクリと針が刺さったからだ。

「そうなんだ、じゃあ片付けは私たちがやるから行って大丈夫だよ?」
「え、それはダメだろ?」
「せっかく吉井ちゃんがいいって言ってんだろ?遠慮は無用、素直に受け取る!」
 リーダーの物を言わさぬ発言に俺は感心しながら、急いで鞄に担当分の制作物を詰め込んだ。

 腕時計を見る、時刻は16時40分。まだ待ち合わせ時刻には20分の猶予がある。
 基本的に待ち合わせには15分早く着いていたいというポリシーが俺を小走りにさせ、待ち合わせ場所の南側入り口へ急ぐ。
 着いたのは16時45分、とりあえず予定通りに着いたとほっと息を整える。

「よっ!もしかして、待たせてた?」
 瞬間、俺の身体から一気に力が抜けようとしている感覚に襲われ、気付けば南沢の肩を俺の両手ががっちりとホールドしていた。
 当然、南沢は唐突すぎる俺の行動に驚いたのだろう、身体をカチカチに硬直させ「ど、どうかした?榊。大丈夫か?」と、しどろもどろに問いかけてきた。

「あぁ、悪い。つい、身体から力が抜けそうになって」
「なんだそれ、どんな状況だよ」
 こんな近距離で話すのは、夏休み以来のことで時間にすれば一ヶ月も経っていない。というのに何故、こんなにも胸が高鳴るのだろうか。これではまるで俺がずっとこの時を待ち望んでいたみたいではないか。

 夕方のモールは混むぞ、という叔父の忠告通り、入り口付近にはカートを抱えた人々が行き交い始めている。
賑やかな場所でする話ではないと、一旦外に出ようかと南沢を誘導し歩き始めた。

「あれ、用事って雪くんと約束してたんだね?ごめんね、邪魔しちゃった」
 後ろから息を切らした吉井さんが帽子を渡してくれた。
 どうやら、慣れない装いをしてきたせいで、帽子の存在を忘れていたみたいだ。
 礼を言いながら受け取り、今度こそ忘れないようにと帽子を頭に被せる。
 吉井さんは朗らかに元いた場所に向かって駆け上がっていく、その後ろ姿を見送り俺は南沢の隣へと急いだ。

「悪い、南沢。待たせたな、じゃあ行こうか」
「…うん」
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