俺の彼氏

ゆきの(リンドウ)

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俺の彼氏がモテすぎる件について

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 俺の隣を歩く榊、榊の隣を歩く俺。
 デコボコがぴったりと嵌まるような感覚に安堵を感じ、歩道を歩く。

 着いたのは花火大会の会場、川の河口付近。既に人で賑わいすぎているそこは、最早戦場と化している。
 時刻は18時45分。どデカい花火が上がるまで残り僅か15分。
 すっかり食べるタイミングをなくしていたお好み焼きが袋に入れられたまま、時々カサカサと音を立てていた。

「なんか買ったか?」
 榊がそう言い目線を配ったのは、まさしく手提げ袋に入れられたお好み焼きだ。

「買ったっていうか、斉藤がな。榊は?なんか買えた?」
「いや、俺は結局、なにも買わなかった」
 買えなかった、ではなく買わなかった、と言うところがやはり、榊らしい。

「じゃあこれ、やるよ。冷めちゃったけど」
「え、いい。それは南沢のだ」
「いいんだって。俺、お好み焼きは広島風派だって言ってんのに、斉藤が買っちゃったんだ。だからお前にやっても俺的には損ないの。ほら」
「え、でも。じゃあせめて代金を支払わせてくれ。いくらだ?」
 側から見れば馬鹿な押し問答をしていた。けれども、その中身のないやり取りが俺は楽しくてしょうがない。
 俺は榊に、榊は俺にと、お互いどちらかが折れるまで譲らない頑固さに、ふと笑いが込み上げる。

「じゃあさ、金はいらないからその代わり、榊が俺の分のお好み焼き買ってよ!それでいいだろ?」
「南沢がそれでいいなら、俺はいい。…ありがとう、これ」
 そう言ってカサカサと音を立て、行き場をなくしたお好み焼きを榊が受け取る。
 良かったな、お好み焼き。と、本心から喜ぶ一方で俺の胸はバクバクと鼓動を強くしていた。

 なんだ、あの「ありがとう」は?それに、あの微笑みは!
 あんなの見せられたら、もう今度こそ、認めざるを得ないじゃないか。
 どこ行ってたんだよ、と半ばキレかけたり、かと思えばあんな風に柔らかく微笑んだり、榊という男は不思議な奴だ。
 そう思いながらも、自分だって難解な奴だと思う。
 以前は確実に女子が好きだった。可愛い髪型も華奢で柔らかそうに曲線を描く身体も笑顔も、甲高い声も、全てが可愛かったし、好きだった。
 けれども今、俺の心を占めるのは確実に過去のそれらとは正反対に異なるものだ。
 身体だってめちゃくちゃデカいし見るからに硬そうで柔らかさの欠片もない、愛想だって良くない、口数も少ない、可愛さの要素は皆無だ。

 それなのに何故か、気になってどうしようもなくなってしまうんだ。
 今、お前がどこにいるかとか、今日は何していたかとか、バイト先で仲の良い人はいるのかとか、弓道はいつしてきたのかとか。
 誤魔化しきれない心がまるで、打ち上げ寸前の花火のようにジリジリと、ジワジワと確実に導火線を短くしていく。

「南沢、もう花火上がるみたいだ」
「まじか、意外とすぐだったな」
 見上げる夜空は薄暗く、肌に纏わりつく湿度が夏を物語っている。

「あの、さ。今日はありがとう」
「何?なんの礼だよ」
「今日、俺が無理言ったせいで付き合ってくれたんだろう?」
「ああ、そんなの気にすんなよ。俺も見に行きたかったからさ」
「南沢と見に来れて、本当に良かった。だから、ありがとう」
 瞬間、ドン!と腹の底から響く音がした。どうやら、一発目の花火が上がったようだ。
 漆黒になりきらない夜空に浮かぶ発色した花火が、綺麗に目に映る。

「本当に、綺麗だ。花火は」
「あぁ、綺麗だ」
 夏の風情に心が動いたのか、あまりに大きすぎる音に驚いたのか。
 それか、榊の真心が込められた言葉か、気付けば視界が滲んでいた。
 もう、認めざるを得ない。どれだけ難解な心でも過去とは違う気持ちでも、それは全部俺なんだ、と。
 
 榊、俺、お前が好きだ。
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