79 / 79
(10)
(10)-11
しおりを挟む
しかし、二つ目の説はほぼあり得ない仮説だ。もし、それが正しければ詩音は惣一郎のことを気になっていることになるのだ。
今、この状況でそれはあり得ない。気になる気の気配を全く感じないのに。
ならば、三月のことを気になっているのだろうか。
たしかに、三月は詩音と雰囲気も似ているし、話も合う。何度か一緒に話している姿を見たが、お互いに楽しそうに笑い合っていた。
しかし、もしもそうだとしたら、その恋はもう既に叶わない。三月に恋人がいるとさり気なく伝えようか。逡巡していると、ふと、綺麗すぎる食卓テーブルが目に付いた。
「なあ、夕飯食べたんだよな?」
時刻はもう二十一時は過ぎている。普段、遅くても二十時には食べるようにしていた。
「食べたんだよな?」
無言でソファに座る詩音の後ろ姿に、もう一度問いかけた。こういう時、大抵、記憶を失う前の詩音なら食べていなかったのだ。
小さな声で背中を丸め、何かをぼそぼそ呟く声が聞こえたが、上手く聞き取れずにもう一度聞き直した。
すると、詩音は「食べてないけどッ!」と、声を張り上げて言った。しかも、堂々と、だ。
「詩音~飯はちゃんと食べろって言ってるのに」
「だって、お腹空いてなかったから」
「それでもダメだろ?三食きちんと食べないと」
「なんか…ばあちゃんみたい、三田くん」
「はあ?なんだそれ!」
軽口を叩く詩音が幼く見えて、可愛らしくて。惣一郎もソファへと飛び乗っていた。怪我人なのに脇を擽り、擽られ、笑う。
今はいいか、たとえ詩音が三月を気になっていたとしても。今、この瞬間だけはまるで学生の頃のように、無邪気な雰囲気に身を流されてしまうことにしよう。
「わかった、わかったよ!もうギブ!」
「じゃあ、ちゃんと飯、食べるんだろうな?」
「わかりました、ちゃんと食べます」
言質取ったぞ、と惣一郎が言うと、詩音はまた笑った。おかしそうに、けれど楽しそうに。
「雑炊でいい?」
「作ってくれるの?」
「ああ、こんな時間だしな」
キッチンに向かおうと惣一郎が立ち上がると、詩音がその腕を掴む。
「じゃあ、僕も手伝うよ」
「…なら、詩音は座っててくれ」
言うと「それ、手伝いになってない!」と憤る姿に笑みが込み上げてくる。
火をかけた鍋を見つめながら、惣一郎はこの愛しい時間がいつまでも続けばいいのにと、願わずにはいられなかった。
今、この状況でそれはあり得ない。気になる気の気配を全く感じないのに。
ならば、三月のことを気になっているのだろうか。
たしかに、三月は詩音と雰囲気も似ているし、話も合う。何度か一緒に話している姿を見たが、お互いに楽しそうに笑い合っていた。
しかし、もしもそうだとしたら、その恋はもう既に叶わない。三月に恋人がいるとさり気なく伝えようか。逡巡していると、ふと、綺麗すぎる食卓テーブルが目に付いた。
「なあ、夕飯食べたんだよな?」
時刻はもう二十一時は過ぎている。普段、遅くても二十時には食べるようにしていた。
「食べたんだよな?」
無言でソファに座る詩音の後ろ姿に、もう一度問いかけた。こういう時、大抵、記憶を失う前の詩音なら食べていなかったのだ。
小さな声で背中を丸め、何かをぼそぼそ呟く声が聞こえたが、上手く聞き取れずにもう一度聞き直した。
すると、詩音は「食べてないけどッ!」と、声を張り上げて言った。しかも、堂々と、だ。
「詩音~飯はちゃんと食べろって言ってるのに」
「だって、お腹空いてなかったから」
「それでもダメだろ?三食きちんと食べないと」
「なんか…ばあちゃんみたい、三田くん」
「はあ?なんだそれ!」
軽口を叩く詩音が幼く見えて、可愛らしくて。惣一郎もソファへと飛び乗っていた。怪我人なのに脇を擽り、擽られ、笑う。
今はいいか、たとえ詩音が三月を気になっていたとしても。今、この瞬間だけはまるで学生の頃のように、無邪気な雰囲気に身を流されてしまうことにしよう。
「わかった、わかったよ!もうギブ!」
「じゃあ、ちゃんと飯、食べるんだろうな?」
「わかりました、ちゃんと食べます」
言質取ったぞ、と惣一郎が言うと、詩音はまた笑った。おかしそうに、けれど楽しそうに。
「雑炊でいい?」
「作ってくれるの?」
「ああ、こんな時間だしな」
キッチンに向かおうと惣一郎が立ち上がると、詩音がその腕を掴む。
「じゃあ、僕も手伝うよ」
「…なら、詩音は座っててくれ」
言うと「それ、手伝いになってない!」と憤る姿に笑みが込み上げてくる。
火をかけた鍋を見つめながら、惣一郎はこの愛しい時間がいつまでも続けばいいのにと、願わずにはいられなかった。
0
お気に入りに追加
13
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
交換条件~Barter.1~
志賀雅基
BL
◆貴方を護る/その手段がある/僕は人殺しに向いている◆
〔ビーボーイ小説大賞A評価作〕
キャリア×ワケあり刑事のバディシリーズPart1[全45話+SS]
刑事でありながら警察幹部・企業・政界まで絡んだ暗殺組織に脅迫され人命を奪うアンビヴァレントを淡々と呑み込んだ振りをしている天才スナイパー京哉は、大企業御曹司でキャリア機動捜査隊長の霧島に婦警らの前でキスされ、更に暗殺狙撃を見られてしまう。だが連行されたのはウィークリーマンションの一室だった。
▼▼▼
【シリーズ中、何処からでもどうぞ】
【全性別対応/BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能です】
【Nolaノベル・小説家になろう・ノベルアップ+・ステキブンゲイにR無指定版/エブリスタにR15版を掲載】
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】
【続編も8/17完結しました。】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
ポメラニアンになった僕は初めて愛を知る【完結】
君影 ルナ
BL
動物大好き包容力カンスト攻め
×
愛を知らない薄幸系ポメ受け
が、お互いに癒され幸せになっていくほのぼのストーリー
────────
※物語の構成上、受けの過去が苦しいものになっております。
※この話をざっくり言うなら、攻めによる受けよしよし話。
※攻めは親バカ炸裂するレベルで動物(後の受け)好き。
※受けは「癒しとは何だ?」と首を傾げるレベルで愛や幸せに疎い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる