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「たしかに、そういうとこあったと思う。俺、あんまり喋るの上手くないだろ?」
「そうかも」

 躊躇なく言われ、苦笑する。

「…両親がさ、小さい頃に離婚して。ずっとその原因、俺だと思ってた」
「どうして?」
「俺が、言ったから。喧嘩していた両親に」

『どうして喧嘩するの?お父さんとお母さんって、好き同志なんだよって竜くんが言ってたよ』

 当時はまだ小学生だった。三年生ともなれば、物事の概念がそれなりにわかってくる。
 きっかけは家族の思い出を絵にして書くという、よくありがちな授業だった。まだ、シングルマザーファザーが一般的ではなかった時代、もちろん先生もそしてクラスメイトもそんなことを気にはしていない。

 両親の喧嘩は必ず、惣一郎と弟が寝静まってからだった。思えば、子どもには喧嘩をしているところを見せたくはなかったのだろう。

 ある日、夜中、トイレに起きた惣一郎が偶然、聞いた。内容はよく、覚えていないけれどいつもは聞かない、怒ったような声が飛び交う部屋は、扉一枚が隔たれているとはいえ、とても重苦しいものに思えた。
 けれど起きれば両親はいつも通りに仲が良く、惣一郎は昨日見たことが夢ではないのかと、何度も思った。夢のはずだ、そうでなければおかしいだろうと。

 それから何度も、惣一郎は夜中に起きるようになった。起きては両親二人の罵り合いを盗み聞いて、朝起きてはまた、夢だと言い聞かせる。そんな毎日がしばらく続いていた。

 だから、つい、そんなことを口走っていたのだ。

『仲良いよ?ね、お父さん』
『あ、ああ』

 そう、言ってくれた半年後、両親は離婚した。

「隠れて泣く妹を見て、何回も何回も、自分を責めた。なんで俺、あの時、あんなこと言ったんだって」
 無邪気な子どもの探求心だった。けれどそれは、確実に壊れてしまいそうだった家のヒビを深くさせた。

「両親が離婚したこと、今はもう恨んではいない。けど、ずっと、多分怖かったんだ」
「今も?」
「今も、俺の言葉がきっかけで、誰かが傷ついたり、何かが壊れていくって考えたりすると正直、怖いな」

 ようやく、言葉に出来た。惣一郎の心は軽く、けれど気付かないようにしていたことに気付いてしまったことが怖かった。認めることが怖いわけではなく、ただ、認めたからといって自分が変わることができるのか。変われなかったらと思うと怖い。

 所詮、それだけの人間だと、その時こそ自分を嫌いになりそうで、自信すらも失われていく。

 誓ったのに、詩音に。言葉にするとそう、誓ったのに。
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