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囚われの魔剣使い

ep161 クローの仲間たちは......

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 * * *


 クローが勇者によって捕えられた日の夜......。

「なに?軍の者が来ているだと?」

 カレンがアイに問い返した。

「ああ。ボスが街に入れても構わないと言うので、とりあえずそこの店で待たせている」

「わかった。キラースの連行のために連絡はしたが、少し早い気がするな......」

「または別件なのかもしれないな」

「別件...か」

 すぐにカレンはアイとともに店に入ると、数名の使いの兵士たちがガタッと立ち上がり、かしこまって挨拶した。

「カレン隊長!」

「用件はキラースの連行についてか?」

「キラースの連行...ですか?」

「違うのか?」

「違います!」

「ではなんだ?」

「魔剣使いを捕らえました!それに伴いカレン隊長には帰還命令が出ています!」

「魔剣使いが捕らえられただと!?それは本当なのか!?」

「本当です!」

「でも一体だれが...」

「勇者様です!アレス様が自らの手で魔剣使いを捕らえました!」

「兄様が!?」

 *

 ヘッドフィールド本部。
 めずらしくジェイズが真面目にボス専用の席に腰かけていた。

「で、カレン嬢は戻るんだな」

「ああ。キラースを連行する」

「おいカレン」

 エレサがカレンに突っかかった。

「クローが捕まったのにそれだけなのか?」

「ああ。そうだな...」

「フザけるな!カレンは隊長なんだろ!?ならその力でなんとかしろ!」

「私ひとりでどうにかできる問題じゃない...」

「そんなことどうでもいい!カレンはクローのことなんかどうでもいいんだな!」

「そ、それは違う!」

「ちがわない!」

 エレサがカレンにつかみかかろうとすると、シヒロが割って入った。

「エレサさん!落ち着いてください!」

「落ち着いてられるか!コイツの兄がクローを痛めつけて捕らえたんだ!」

「エレサさん!カレンさんが今一番苦しい立場なんですよ!」

「そんなの知らない!やっぱりわたしひとりでも今すぐクローを助けにいく!」

 もはや何を言っても通じないエレサ。
 見かねたジェイズがアイに彼女を落ち着かせるようにと目配せする。
 その時。

「いい加減にして!!」

 シヒロが激しく声を上げた。
 エレサは面食らってハッとする。
 いつも優しいシヒロの、そんな姿は見たことがなかったから。

「ぼくだって...ぼくだって...今すぐクローさんを助けに行きたいよ......でも、ぼくにそんな力はない......」

 シヒロは悲しくうなだれた。

「し、シヒロ......」

「こんな形で、クローさんと会えなくなるなんて、ぼくは絶対にイヤです。絶対にイヤ......」

 苦悶くもんするシヒロを見て、エレサは胸を締めつけられた。
 シヒロも自分と同じように辛いんだなと。
 それなのにシヒロは感情に任せて行動しないように抑えていたんだなと。
 それに比べて自分は......。
 そう思うとエレサは途端に自らが恥ずかしくなる。

「シヒロ。ごめんね」

 エレサはシヒロを抱きしめた。
 それからカレンの方に向き、
「カレン。すまない」
 と謝罪した。

「いや、いいんだ」

 カレンは歯痒かった。
 エレサの言うことはもっともだ。
 今の状況で何かできるとすれば、それは間違いなく自分の役割だ。
 けど、世界の英雄である勇者に逆らうことはできないし、ましてや勇者は兄でもある。
 兄のことは心の底から尊敬している。
 しかし、カレンのクローに対する考えは変化していた。
 この男は決して悪ではないと。
 むしろ世界の平和のためには捕らえるべきではないと。

「......一度、兄様に話してみる」

 カレンが言った。

「カレンさん!」
「カレン!」

 シヒロとエレサの顔がやや明るくなった。
 とはいえ、問題は何も解決していない。

「でも実際、隊長さん一人が何か言ったからってよ」
「どうにかなることなんだろうか......」

 トレブルとブーストが嘆くようにもらした。
 重苦しい空気は相変わらず続く。
 そんな時。
 ジェイズがすっくと立ち上がった。

「やっぱり選択肢はひとつしかねえな」

「ボス?」

「おいおいトボけるなよ、アイ。オレが何を言い出すかはわかってんだろ?」

「そうだな」

「オレがクローを助ける。奴にはヘッドフィールドを守ってもらった恩がある」

 ジェイズはクローの仲間たちに向かってニヤッと笑った。

「だが軍や勇者とまともにやり合うのは賢くねえ。だからお前らにも協力してもらうぞ」

 ジェイズの意思表示にシヒロとエレサは一瞬驚かされた。
 だが、即座に目を光らせて力強く頷いた。

「ぼくにできることはなんでもやります!」
「クローのためならなんだってする!」

 彼女たちに反して、トレブルとブーストはビビり気味だった。

「ゆ、勇者とは、やややり合わねえんだよな?な?」
「そ、そそそれならわかったぜ!」

 ジェイズは愉快そうに笑うと、カレンに視線を投げる。

「カレン嬢はどうだ?別に軍を裏切れとは言わねえが」

「軍も兄様のことも絶対に裏切らない。だが......」

 カレンは気を持ち直したのか、キッと鋭い目を見せた。

「難しい立場にいる私だからこそ、何かできることはあるはずだ」

「よし。これで全員一致だな。ちなみにヘッドフィールドの連中はどいつも思いは一緒だ。みんなクローに感謝している。アイツらはバカだがクズじゃねえ。てなわけだからアイも頼むぜ」

 アイはやれやれと思いながらも、ボスの決定に一切の口を挟まなかった。
 自分もクローに対する恩は感じていたし、このほうがボスらしいと思い嬉しく思う部分もあったから。
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