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魔剣士誕生編

ep22 夜空

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 深夜の街。
 繁華街を抜けて住宅街に入っていくと、辺りはすっかり寝静まっている。
 時々、遠くのほうから野良犬の声がむなしく響きわたるだけ。

「俺、どこに向かって歩いてんだろ......」

 今のハナシ?
 人生のハナシ?
 それとも両方?

「ヤバい。けっこう寒いな......」

 この地方では、めったに雪は降らないらしいけど、今年はどうなんだろう。
 思えば、こっちの世界に来てから遊んでしかいないから、基本的なことがすっぽり抜けているんだよな。
 でも、色々なことを知ったところで、死にゆく俺に、なんになる?

「ああ......ダメだ。これ、ダメなやつだ......」

 俺は道端で立ち止まると、その場でしゃがんでうずくまった。

「うぅ......」

 酔って気持ち悪くなったわけじゃない。
 疲れて歩けないわけでもない。
 ただ、凍てつくような寒さが、俺の身体を重々しくさせるんだ。
 俺は子どもみたいに泣きじゃくりそうになっている自分に気づく。

「さびしい......さびしい......」

 こんな思い、異世界に来てまで味わいたくなかった。
 結局、俺はどこまでいっても俺だったんだ。
 転生しようがどうしようが、ダメな俺はダメなままだ。
 そう思えば思うほど、残酷な寂しさが心身を包んでゆく。

「うぅ......うぅ......」

 その時。

「ぼっちゃま」

「......?」

「お寒いでしょう」

「そ、その声......」

 しゃがみこむ俺の肩にあたたかい布をかけ、覗きこむように俺に向かって話しかける男が現れた。
 俺は顔を上げる。

「パ、パトリス」
「ぼっちゃま」

「なぜ、ここに?俺、今日は帰らないって......」
「なにか、妙に気になりましてね。それで、ぼっちゃまを捜して街を歩いていたわけです」

「それ、勘がイイにもほどがあるじゃん......」
「私は、昔から勘は良いほうでして」

「な、なんだよそれ。ハハハ...」
「ぼっちゃま。私と一緒に戻りましょう」

「うん......」
「といっても、歩きですがね。ハハハ」

「......おととい、酔っ払った俺が、フザけて馬車をブッ壊しちまったから」

「そのとおりです」

「だから歩いて帰るのも自業自得ってことだよな。わかってるよ」

「おや?自覚はあるので?」
「な、なんだよ?急に」

「フフフ」
「からかうなよ!」

「良かった」
「な、なんだよ!」

「今日のぼっちゃまは、少しぼっちゃまらしいですね」
「え?どういう意味?」

「なんでもありません。さあ、お立ちください。外は冷えます。早く参りましょう」

 立ち上がる俺に、パトリスは目を細めて優しく微笑みかけた。
 俺はなんだか無性に気恥ずかしくなり、ひとりさっさと歩きはじめる。
 が、すぐにピタッと足を止め、前を向いたまま、
「いろいろ......ホントに......ゴメン」 
 言葉を吐いてから、再び歩き出した。

 その時、パトリスがどんな顔をしているかはわからなかった。
 だけど一言、
「ぼっちゃま......」
 発したその声には、どこか優しい感動の響きがこもっているような気がした。
 あるいは俺がそういう気持ちだったからそう聞こえたのか、もしくは両方か、それはわからない。

 夜空には星が煌めいている。
 澄んだ月が力強く輝いている。
 俺には関係ない。
 関係ないけど、このとき俺は、綺麗だなって、思ったんだ。
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