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魔剣士誕生編

ep21 自覚

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 外は暗い。
 当然だ。
 まだ夜だから。
 それどころか、まだ日もまわっていない。
 オンナの家に泊まる予定が、まさかのその日解散。
 
「どうすっかな......でも、家に帰りたくはないなぁ」

 俺はポケットに手をつっこみ、肌寒い夜道を繁華街に向かってフラついていった。

 夜空がやけに澄み渡っている。
 綺麗な月が爛々と輝いている。
 今夜は星もよく見える。

 だが、俺には関係ない。
 俺はうつむいて肩をすぼめ、ひとりトボトボと歩いてゆく。

 飲み屋が軒を連ねる通りに出ると、なんだかいつもとは違う心持ちに気づく。

「なんだろう。なんか、景色が遠く感じるような......。おっ、あのバー、あそこなら落ち着けそうだな」

 適当なバーを見つけ、中に入る。
 客が少なく、静かで、ちょうどいい。
 女もいない。
 バッチリだ。

「ビールを」
「はい」

 口髭を生やした店主も、実に落ち着いている。
 俺はバーカウンターに座ってゆっくりと酒を飲みながら、フーッとひとつため息をついた。

「今日はいったい何なんだろう......」

 本当にこれでいいのか......だって?
 そんなこと、俺にわかるわけがない。
 だけど、なんでいきなり、こんな気持ちになったんだ......。
 
 いや、いきなりではないんだ。
 少し前から、薄々だけど、むなしさは感じていた。
 そこへ今日、パトリスがあんな顔と目であんなふうに言ってきたから......。

「残り少ない人生、遊び尽くす......」

 まさに、むかし夢に見た、酒池肉林の日々。
 肉欲のまま快楽に身をゆだねる毎日。
 元の世界では決して味わえなかったモノ。
 俺は生まれてはじめて、人生を謳歌しているような気がしていた。

「酒も、ずいぶん飲んだよな」

 俺は目の前のグラスを手に持つと、残りをいつもどおりグーッと一気に飲み干してみた。
 そして空になったグラスを勢いよくテーブルへ置こうとすると、
「あっ」
 勢いあまって投げ出して転がしてしまい、床に落としてしまう。
 俺はあわててグラスを拾うと......ハッとする。
 そのグラスが、パトリスの持っていた、ヒビの入った空のグラスと重なったから。

"本当にそれで、よろしいんですか?“

 そうか。
 そういうことか......。
 俺は気づく。

「なにも......ないんだ。空っぽなんだ」

 今の俺は、空っぽ。
 二度と注がれることのない、ヒビの入った空っぽのグラス。
 それが俺。
 残り少ない人生の時間を、酒を流し込むようにイタズラに浪費して、カラッポに過ごしているだけ。

「なにやってんだろうな、俺......」

 俺は、ミックやナオミや他の連中たちと楽しくアソんでいた。
 元の世界での俺にはロクな友達もいなかったから、仲間がたくさんできたみたいで嬉しくもあった。
 だけど、心の中で俺は、
「俺はアイツらとはちがう......」
 そう思っていた。

 アイツらのことを仲間みたいに思いながらも、どこかで自分とは線引きをし、見下していた。
 そうすることで、つまらない自分の自尊心を保っていたかったから。
 自分でもそれがバカらしいってことはわかっている。
 今さらプライドもクソもあったもんじゃない。
 だけど俺は昔からずっとそうやってきたから、それこそ今さら変えることができないんだ。

「結局、一番にイタイのは俺なんじゃないか......」

 アイツらだって、いずれはあんな場所から卒業していくんだろう。
 チャラ男のミックも、ナオミも、いずれはあんな場所から足を洗って、人並みにマトモに人生を真っ当していくのだろう。
 アイツらは俺と違ってたくましいし、まだ若い。いくらでもやり直せるチャンスだってある。

「それにひきかえ俺は......」

 身体は若いが、魂はイタイ中年のおっさん。
 なにより、もう先がない。
 タイムリミットはあと三カ月ぐらい。
 でも、だからといって、どうすることもできない。

「本当に、これでいいのか......だったら、いったいどうすればいいんだ?なにができるっていうんだ?」

 チクショウッ!
 気づきたくなかった。
 いや、そうじゃない。
 まったく気づいてないわけでもなかったんだ。 

 そう......。

 自覚したくなかったんだ!
 今さらこんなふうに考えたくなかったんだ!
 だから狂ったままでいたかったんだ!
 それをパトリスがあんな顔と目であんな言葉をかけてくるから......。

「結局、俺は、遊んでも、中途半端だったんだなぁ......」

 日をまわったころ......。

 勘定を済ませ、俺はバーを後にした。
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