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魔剣士誕生編

ep17 パーティー②

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 すでに外は夕闇に覆われている。
 屋敷から門に向かう庭道を、設置されたランプの灯りがボンヤリと照らしている。

 俺は門に向かって進みながら、
「......ん?」
 ふと庭の木立のあたりに人影のようなものを感じた。 
  
「なんだろう?」
 妙に気になり、ゆっくりと近づきながら目を凝らすと......俺はハッとして、即座に身を隠すように側の草木の影へ滑りこんだ。

『あれは......ミックとナオミ!』

 なんで俺は身を隠すんだ?
 声をかければいいじゃないか。
 でも、反射的に、直感的に、そうしてしまった。

「......」

 ふたりは俺に気づいていなかった。
 俺は息をひそめ、隠密に、ふたりの声が聞こえる位置まで移動してゆく。

「......ヤ!」
「......なって!」

 ふたりの会話が聞こえてきた。
 
「イヤだって言ってるの!」
「だからそう言うなって!おれの顔が立たなくなるだろ?アイツはおまえのことが気に入っちまったんだ」

「ただのアソビをホンキにされてマジで勘弁なんだから!あたし、そういうメンドクサイのホントにイヤなの!」

「ここまで来たんだからもういいだろ?」

「だってさ?ここにきて、アンタがフォローする気がなさそうなのがわかったから」

「そんなことねーって!おれはちゃんとナオミをフォローするさ!おまえは大事なオンナだからな」

「ホントに?信じていい?」

「ああ、もちろんだ!だから、今日ぐらいはクローの相手してやってくれよ!」

「ええ~、でもカレ、あんまり気持ちよくないし。なんか背中に気味の悪いアザあるし」

「そんなこと言ってやるなよ!アイツはおれの大事なダチなんだ」

「はぁ?アンタのアソビに利用できるダチ、でしょ?アンタのアソビのためのパーティーに来て、なんであたしがアイツと...」

「否定はしねえさ。そのとおりだからな。でもおまえにだって得はあるだろ?なんせアイツは金持ちのぼっちゃんなんだ。とにかく、今日はたのむ!」

「ええ~、でもぉ、今日はまたアンタがいいなぁ」 

「おいおい!よりによってここでおれとはマズいだろ?クローに見られたら気マズイだろ?それはまた別の日にしてくれよ」

「いっそアイツもその方があきらめつくんじゃない?ねぇミックぅ」

「お、おい、やめろって、あっ......」

 ふたりの体が絡み合っていくのが見えると、俺は目をふせて、そっと、静かに、その場から離れていった。

「......」

 屋敷に戻った俺は、トイレに入り、壊れかけた人形のようにグッタリと尻もちをついた。 

「マジか......」

 俺の中では様々な感情が、まるで泥をブチ込んだ洗濯機のごとくうずまいている。

 クソチャラ男のミックをブン殴りたい?
 クソビッチのナオミに怒鳴りつけたい?
 思いきり泣き叫びたい?

 色々あるけど、俺の感情ランキング堂々第一位は......

「俺がバカだったぁー!!」

 これだ。
 ミリオンセラーでダントツのトップだ。
 おそらく翌週も翌々週もトップに君臨し続けること間違いなしだ。
 賞も取っちゃうかもしれない。

 俺は悔しさと恥ずかしさと自己嫌悪に拳を握りしめた。

「なにやってんだ俺はぁぁ!」
 
 ......確かにミックはチャラ男だ。
 ナオミはビッチなんだと思う。
 でも、そいつらに、
「バカな俺が、自分から勝手にもてあそばれた」
 だけなんだ。

 二度目の人生の今に至って、
「人間、アソビの経験も大事なんだな......」
 しみじみと痛感する。

 そうだ。
 俺は社会経験も乏しいが、ソッチの経験も乏しいんだ。
 俺の人生、周回遅れもいいとこだ。
 つくづく自分がイヤになる。

「はぁ......」
 
 ......そもそも、今さら恋とかじゃないよな。
 もう死ぬまで一年もないんだぞ?
 そうだよ......。
 そうなんだよ!
 
 だから俺は、残りわずかな人生、遊び尽くすんじゃなかったのか?
 ナオミに恋なんかしてる場合じゃないんだ!

 ......よし。
 今日からだ。
 今日から、本当に、本格的にアソんでやる。

「......今日のパーティーにも、けっこうカワイイ子、いたよな......」

 俺はすっくと立ち上がった。
 体の芯が妙にムラムラと熱くなっているのを感じる。
 ガチャッとドアを開け、俺はスタスタと広間に向かった。

「ぼっちゃま......」

 ちょうど執事のパトリスが廊下に立っていて、なにかもの問いたげな表情で俺を見たが、
「なにかあれば声かける」
 そうとだけ言って、俺はスッと広間パーティーに入っていった。
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