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ep74 田網伊嬬代
しおりを挟むなんとか家の中に入ってもらい、彼女をリビングのソファーに座らせた。
俺も斜向かいのソファーに腰をおろすと、改めて切りだす。
「それで......イヌヨさんもネーコたちと同じように愛国美少女アンドロイドとして俺のもとにやって来たってことだよね?」
「は、はい、そうです......」
彼女は遠慮がちに返答した。
俺は今までにないその引っ込み思案のアンドロイドに当惑する。
(てゆーか引っ込み思案のアンドロイドってなに!?)
どうコミュニケーションを取っていけばいいんだ?
ネーコの時もトラエの時もウサの時もすべて受け身だったから、そういう意味では楽だった。
でも今度は違う。
彼女は...言ってみればこっち側のタイプなんだ。
なおかつ俺は不登校児。
こんなふたりで会話を進めることができるのか??
「あの...フミヒロさん......」
沈黙に埋もれそうになっていたところ、彼女が口をひらいた。
「イヌヨさん?なんですか?」
「その、イヌヨのことは、イヌヨと呼んでください。さんはいらないので......」
「あ、は、はい」
「......」
「......」
再び会話が途切れてしまった。
俺はなにか言わなければと彼女をじっと見る。
改めて見ると、イヌヨは......清楚な和風美少女だった。
三つ編みに結った髪。
簡素な着物姿。
伏し目がちな顔から、薄紫色の瞳をたたえた憂いのある目が奥ゆかしく光っている。
(可愛いよな......)
エロ可愛いネーコとも、美人お姉さんなトラエとも、愛らしい妹なウサとも違う。
つい俺は弱々しく黙っている彼女に見入ってしまった。
「な、ななななに??」
俺の視線に気づいたイヌヨはびくびくして声を上げた。
「あ、いや」
「い、色々と質問したいですよね.......」
「まあ...はい」
とりあえず俺がまず知りたいのは......彼女が行う〔〇〇プログラム〕は何かということ!
「イヌヨは...将来の宰相となるフミヒロさんに、その...SPを行いにやって参りました......」
そうだよそれそれ!
俺が一番に知りたいのは!
「それで、そのSPはどんな〔プログラム〕なの?」
「イヌヨが行うのは......〔サッド・プログラム〕です」
「サッド??」
「はい。つまり、〔悲しいプログラム〕です」
「は??」
「または、〔死にたいプログラム〕とも言います〕
「えっ......えええ??」
悲しい?死にたい?
なんだかえらいネガティブなタイトルのプログラムだぞ!?
コワイコワイコワイコワイ!
「こんなプログラム、嫌ですよね......」
イヌヨは目を潤ませながらひどく申し訳なさそうに言った。
「というか......そもそも、どんな内容なの?」
俺はもっとも肝心な質問をした。
それがわからなければ良いも悪いも判断しようがない。
「そ、そうですよね。まず、内容を、知っておきたいですよね......。
〔サッドプログラム〕は、すぐにネガティブになるイヌヨを、その悲しみから救い上げるプログラムです......」
「な、なるほど......じゃない!よくわからないんだけど?」
「とにかく、フミヒロさんは、イヌヨを励まし続けてくれればいいんです」
「はあ」
「......はっ!やっぱりイヌヨごとき、励ますにもあたらないわよね!?」
突然イヌヨの中のなにかのスイッチが入った。
「えっ?そんなことはひとことも...」
「そうよ!そうに決まっているわ!イヌヨのことにかまったって時間の無駄でしかないもの!ああ!イヌヨなんかいない方がいいんだわ!」
「ちょちょちょっと!落ち着いて...」
「フミヒロさん!!」
「な、なに??」
「鈍器はある?あるならすぐに持ってきて!そしてイヌヨを破壊して!」
「いきなり何を言ってんの!?」
「バールのような物は!?とにかく何でもいいから今すぐイヌヨをめっためたに破壊してぇぇぇ!!」
「そんな物ないから!あっても破壊なんかしないから!」
「イヌヨは、居ぬよ......」
今度は途端にしゅんとなってイヌヨは沈みこんだ。
またまた部屋に沈鬱な静寂がおとずれる。
彼女の荒々しいまでのネガティブ具合に俺は茫然とする。
(不登校の俺もタイガイだけど......この娘のそれは群を抜いている!)
ネーコたちがやって来る前......不登校でほとんど引き篭もっていた時、自分のことを誰よりも暗いダメダメなネガティブ野郎だと思っていた。
でも、イヌヨはそれ以上だった......アンドロイドなのに!?
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