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過去と今
ep74 新しい日常
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「狂乱の破壊姫って知ってるか?」
「あのデカいモニュメントを素手でぶっ壊したらしいぞ」
「ひとりでマフィアを潰したってマジか?」
「男子たちを奴隷にして逆ハーレム王国を築いているんだって」
今、学校はヤソミの話題で持ちきりだ。
いつの間にか尾ひれがついてどんどん事実とかけ離れていっているが。
「大変なことになっちゃったねぇ」
フェエルが昼食の手を止めて苦笑した。
「でも、おかげでミアちゃんの噂もエマちゃんの噂もなかったことのようにかき消されちゃったね」
「そのかわり『関わり合いたくない存在』になっちゃったっぽいね。みんなわたしたちのこと避けてるよね」
ミアの言うとおり、大勢の生徒で賑わう食堂なのに、俺たちの席の周りだけガランとしている。
「ナメられるよりかいーだろ。ランチもゆっくりできるしサイコーじゃん」
エマは陽気にケラケラと笑った。
「そー思うだろ?ヤソミちゃん」
「その名前で呼ぶなよ。今の俺はヤソガミだ」
「今思い出してもマジでウケるわ。モニュメントぶっ壊すとかマジありえね~」
エマはすっかり元通りの調子になっていた。
さすがはギャル......て、そういうことじゃない。
「てゆーかさ。結局エマは学校を辞めないんだな?」
「あー、なんつーか、よくわかんなくなったつーか。それにミャーミャーと離れんのもさびしーし?」
エマは隣のミアの腕にひしと抱きついた。
「な?ミャーミャー」
「う、うん。そうだね」
ミアは軽く微笑んでからやさしくエマの腕を解いた。
心なしかミアがエマを避けたように見える。
エマもそれを敏感に察したのか、
「やば、あーし、チョーシに乗っちゃった的な?いや~あははは......」
申し訳なさそうな苦い笑顔を浮かべた。
このふたり。まだ関係を修復できていないのか?
そもそも人間関係とは、築くは難し壊すは易し......とも言えるけど。
「つ、つーかヤソガミ!」
唐突に、エマが微妙な空気を払拭するように俺を呼んだ。
「魔法病院に行ってみろよ!ハウ先生に言えば紹介状書いてもらえるし!」
はたとした。
俺はハウ先生に魔力がないかもしれないと言われたんだ。
まだ断定はできないが、魔法病院で診断を受ければ答えが出る。
「なら一度、行ってみるかな」
「あーしもついていくからな!」
「あ、それは遠慮します」
「なんでだよ!連れてけよ!」
「やっぱやめようかな...」
「なんでそんなにイヤそーなんだよ!あーしみたいなカワイイ子に言われて嬉しくねーのか!」
「俺はもっとおしとやかで清純な女の子がいいんだ」
「こう見えてあーしもセージュンだ!」
エマがキーッとなる。
思わずフェエルがぷっと吹き出した。
「なんだかいつの間にか、ふたりはすっかり仲良しだね」
「仲良しではない!」
俺とエマの声がユニゾンした。
次の瞬間、フェエルとミアが声を上げて笑った。
つられて俺もエマも笑ってしまった。
「アハハハ......ん?」
その時、不意にエマとミアが何かに気づく。
俺とフェエルは「?」となり、背後に振り向いた。
「あ......」
フェエルの顔色が、サーッと一瞬で変化する。
ヤツらだ。
「おいエマ。なんでそいつらと楽しそーにメシ食ってんだよ」
トッパーとマイヤーがエマをギロッと睨みつけた。
「おれたちがいない間にテメーもこいつみたいにダサくなったのか?」
トッパーが濁った眼をフェエルにぶつけると、俺が言いだす前にエマが口をひらいた。
「ダセーのはテメーらだろ」
「あ?なに言ってんだ?」
「いつまでもガキくさいことやってんじゃねーよ。だからモテねーんだよ」
「ああ!?」
トッパーがエマに迫ろうとする。
エマは懐から手鏡を出した。
「ええー??こんなか弱い女子にナニするのー??証拠映像撮っちゃおっかな~」
「て、テメぇ!」
怯んで一歩退がるトッパー。
それに合わせるように俺は立ち上がった。
「なあ、トッパー。マイヤー」
「な、なんだよ!ヤソガミ!」
「もうフェエルに......俺たちに関わらないでくれるか?」
「な、なんでテメーにそんなこと...」
「ヤソミにも問題起こされたくないしな」
「!!」
トッパーとマイヤーの顔面が一気に凍りついた。
ヤツらの顔にはありありと恐怖が浮かんでいる。
「チッ!ざけんなっ!クソッ!!」
ヤツらは最大限強がりながらも逃げるように去っていった。
俺たちは互いに目で頷き合い、ほっと安堵して顔をほころばせた。
「エマちゃん。ありがとう」
フェエルに感謝され、エマはバツが悪そうに苦笑する。
「あーしも、ダサかったよな」
「そ、それは」
「ハッキリ言ってくれていいよ。実際ダサかったわけだし。でもさ」
エマはまるで誰かのように、ニカッと快活な笑顔を見せた。
「ダサいのはもうやめた。それだけは決めたんだ。ああもうこのハナシ終わり!ごはん食べよー」
ヤツらが去ったあとは、楽しい昼休みを過ごした。
不思議な気分だ。
正直、エマのようなギャルとこんなふうに喋りながら食事するなんて思ったこともなかった。
人間て、わからないもんだな。
今まで俺は、エマみたいなうるさい陽キャどもが勝手に人を決めつけて傷つける光景を嫌悪感を持って見てきた。
でも、俺は俺で彼らを決めつけ過ぎていたのかもしれない。
彼らの中にも、そうでない奴はいる。
「狂乱の破壊姫って知ってるか?」
「あのデカいモニュメントを素手でぶっ壊したらしいぞ」
「ひとりでマフィアを潰したってマジか?」
「男子たちを奴隷にして逆ハーレム王国を築いているんだって」
今、学校はヤソミの話題で持ちきりだ。
いつの間にか尾ひれがついてどんどん事実とかけ離れていっているが。
「大変なことになっちゃったねぇ」
フェエルが昼食の手を止めて苦笑した。
「でも、おかげでミアちゃんの噂もエマちゃんの噂もなかったことのようにかき消されちゃったね」
「そのかわり『関わり合いたくない存在』になっちゃったっぽいね。みんなわたしたちのこと避けてるよね」
ミアの言うとおり、大勢の生徒で賑わう食堂なのに、俺たちの席の周りだけガランとしている。
「ナメられるよりかいーだろ。ランチもゆっくりできるしサイコーじゃん」
エマは陽気にケラケラと笑った。
「そー思うだろ?ヤソミちゃん」
「その名前で呼ぶなよ。今の俺はヤソガミだ」
「今思い出してもマジでウケるわ。モニュメントぶっ壊すとかマジありえね~」
エマはすっかり元通りの調子になっていた。
さすがはギャル......て、そういうことじゃない。
「てゆーかさ。結局エマは学校を辞めないんだな?」
「あー、なんつーか、よくわかんなくなったつーか。それにミャーミャーと離れんのもさびしーし?」
エマは隣のミアの腕にひしと抱きついた。
「な?ミャーミャー」
「う、うん。そうだね」
ミアは軽く微笑んでからやさしくエマの腕を解いた。
心なしかミアがエマを避けたように見える。
エマもそれを敏感に察したのか、
「やば、あーし、チョーシに乗っちゃった的な?いや~あははは......」
申し訳なさそうな苦い笑顔を浮かべた。
このふたり。まだ関係を修復できていないのか?
そもそも人間関係とは、築くは難し壊すは易し......とも言えるけど。
「つ、つーかヤソガミ!」
唐突に、エマが微妙な空気を払拭するように俺を呼んだ。
「魔法病院に行ってみろよ!ハウ先生に言えば紹介状書いてもらえるし!」
はたとした。
俺はハウ先生に魔力がないかもしれないと言われたんだ。
まだ断定はできないが、魔法病院で診断を受ければ答えが出る。
「なら一度、行ってみるかな」
「あーしもついていくからな!」
「あ、それは遠慮します」
「なんでだよ!連れてけよ!」
「やっぱやめようかな...」
「なんでそんなにイヤそーなんだよ!あーしみたいなカワイイ子に言われて嬉しくねーのか!」
「俺はもっとおしとやかで清純な女の子がいいんだ」
「こう見えてあーしもセージュンだ!」
エマがキーッとなる。
思わずフェエルがぷっと吹き出した。
「なんだかいつの間にか、ふたりはすっかり仲良しだね」
「仲良しではない!」
俺とエマの声がユニゾンした。
次の瞬間、フェエルとミアが声を上げて笑った。
つられて俺もエマも笑ってしまった。
「アハハハ......ん?」
その時、不意にエマとミアが何かに気づく。
俺とフェエルは「?」となり、背後に振り向いた。
「あ......」
フェエルの顔色が、サーッと一瞬で変化する。
ヤツらだ。
「おいエマ。なんでそいつらと楽しそーにメシ食ってんだよ」
トッパーとマイヤーがエマをギロッと睨みつけた。
「おれたちがいない間にテメーもこいつみたいにダサくなったのか?」
トッパーが濁った眼をフェエルにぶつけると、俺が言いだす前にエマが口をひらいた。
「ダセーのはテメーらだろ」
「あ?なに言ってんだ?」
「いつまでもガキくさいことやってんじゃねーよ。だからモテねーんだよ」
「ああ!?」
トッパーがエマに迫ろうとする。
エマは懐から手鏡を出した。
「ええー??こんなか弱い女子にナニするのー??証拠映像撮っちゃおっかな~」
「て、テメぇ!」
怯んで一歩退がるトッパー。
それに合わせるように俺は立ち上がった。
「なあ、トッパー。マイヤー」
「な、なんだよ!ヤソガミ!」
「もうフェエルに......俺たちに関わらないでくれるか?」
「な、なんでテメーにそんなこと...」
「ヤソミにも問題起こされたくないしな」
「!!」
トッパーとマイヤーの顔面が一気に凍りついた。
ヤツらの顔にはありありと恐怖が浮かんでいる。
「チッ!ざけんなっ!クソッ!!」
ヤツらは最大限強がりながらも逃げるように去っていった。
俺たちは互いに目で頷き合い、ほっと安堵して顔をほころばせた。
「エマちゃん。ありがとう」
フェエルに感謝され、エマはバツが悪そうに苦笑する。
「あーしも、ダサかったよな」
「そ、それは」
「ハッキリ言ってくれていいよ。実際ダサかったわけだし。でもさ」
エマはまるで誰かのように、ニカッと快活な笑顔を見せた。
「ダサいのはもうやめた。それだけは決めたんだ。ああもうこのハナシ終わり!ごはん食べよー」
ヤツらが去ったあとは、楽しい昼休みを過ごした。
不思議な気分だ。
正直、エマのようなギャルとこんなふうに喋りながら食事するなんて思ったこともなかった。
人間て、わからないもんだな。
今まで俺は、エマみたいなうるさい陽キャどもが勝手に人を決めつけて傷つける光景を嫌悪感を持って見てきた。
でも、俺は俺で彼らを決めつけ過ぎていたのかもしれない。
彼らの中にも、そうでない奴はいる。
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