上 下
35 / 134
入学編

ep34 当たり前の放課後

しおりを挟む
 *

 翌日の昼休み。
 フェエルと一緒に食堂のテーブルに着いた。
 今日はミアはいない。

「やっぱりミアは休みか」

「午後から来る可能性もなくはないけど、たぶんお休みだろうね」

「フィッツジェラルドお嬢さまも休みだよな。あの娘の場合はサボりっぽいけど」

「ミアちゃんもかも......」

「え?ミアも?」

「いや、前から少し気になっていたんだけど、ミアちゃんが休むときはエマちゃんも休みなんだ」

「一緒にサボってるってことか?あのミアが?」

「確認したわけではないからわからないけどね」
 
 フェエルと話しながら妙な気がした。
 あんなフツーに良い子そうなミアがサボったりするだろうか?
 魔術演習こそ遠慮気味だったけど、他の授業はいたってマジメに受けていたし。

「ま、まさか......ふたりで秘密の魔術特訓しているとか!?」

「うーん。それはないかなぁ」

「今度直接聞いてみるか」

「そうだね」

「いや待てよ?エマと休みが被っているのは偶然で、本当は家の事情とかだったら......あんまり詮索するのもアレだよな......」

「ヤソみんは優しいよね」

「そうか?」

 俺がフェエルに訊き返すなりイナバが机に飛び乗った。

「それは違うぞ、フェエル少年」

「なにが違うの?」

此奴こやつは優しいのではない。優柔不断なだけじゃ」

「そ、そんなことはないよね?」

 フェエルが気を遣って俺に振ってくる。
 俺はコホンとひとつ咳払いをしてから、イナバとフェエルに向かって言った。
 
「俺は思うんだ。きっと優しさって、優柔不断と紙一重だと」

「そんなお主は阿呆と紙一重じゃな」

 *

 その日の授業が終了すると、他の誰よりも先に席を立って教室を出ていく者たちがいた。
 トッパーとマイヤーだ。
 俺はまたヤツらがフェエルに絡んでくるんじゃないかと警戒していたが......何もなかった。
 やはり昨日の一件が効いているのだろうか。
 抑止力となっているのなら何よりだ。
 それこそ防衛の基本。

「じゃ、帰るか」

「うん。行こう」

 今日はあらかじめフェエルの帰り道に途中まで付き合う約束をしていた。
 もちろん目的はヤツらへの警戒だが、それだけじゃない。
 単純に仲良くなった者同士一緒に帰りたかった。
 その気持ちはお互い一緒だったんだと思う。
 フェエルも昨日みたいな遠慮はしてこなかった。


「どう?ここ、前から気になっていたんだ」

 とあるカフェまで来て、フェエルが嬉しそうに口元を緩ませる。

「こんなふうに放課後に来てみたかったんだ」

 俺たちが足を運んだのは、リュケイオンにある落ち着いたカフェ。
 窓際の席に着き、フェエルは目を細めて外を眺める。

「なんかいいよね、こういうの」

「そうだな」

 中学時代、ずっとぼっちだった俺には、こういうことは新鮮。
 感慨深さすらある。
 フェエルにとってもそうなのかな。

「ん?あれって......」

 不意にフェエルが視線の先に何かを見つけた。
 つられて俺も視線を転じる。
 知った姿が目に映った。

「エマとミア?それに......トッパーとマイヤーもいるな」

「やっぱり、ミアちゃんもサボっていたみたいだね......」

 フェエルの目はどことなく哀しそうだった。
 
「本人に聞くまでもなくなっちゃったな」
 と口にしながらも、俺はどうも不自然な気がした。
 ミアは本当に楽しいのだろうか。
 流されているだけなんじゃないか。
 なんて余計なお世話か。
 
「とりあえず、ヤツらがこの店に来なくて良かったな」

「たぶんエマさんやトッパーくんたちはこういう感じのお店には来ないと思うよ」

「それは言えてる。品のないアイツらにはもっと騒がしい所がお似合いだ。工事現場とか。いや、工事の邪魔だな。現場の人たちに迷惑だ」

「ちょっと失礼だよヤソみん......」

 フェエルは俺に注意するも、即座に口を押さえて失笑。
 俺も吹きだして笑う。

 ......ヤバい。
 すごく楽しい。
 こうやって放課後、友達と一緒に寄り道してくだらない話をして笑い合う時間。
 他の人たちにとっては当たり前なんだろうけど、ずっとぼっちだった俺には夢にまで見た時間。
 
「クククク......おいフェエル、笑いすぎだぞ!」
「クスクスクス......や、ヤソミんこそ笑いすぎ!」

 友達と過ごす、当たり前だけど、夢にまで見た時間。
 俺たちは時を忘れて心の底から楽しんだ。

 そんな中。

「オイ小僧!そろそろオイラを出せ!」
 と鞄から苦情の声が届いたが、
「無理だよ。ここ、ペット同伴禁止だし」
 テキトーにやり過ごした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美少女アンドロイドが色じかけをしてくるので困っています~思春期のセイなる苦悩は終わらない~

根上真気
キャラ文芸
4サイト10000PV達成!不登校の俺のもとに突然やって来たのは...未来から来た美少女アンドロイドだった!しかもコイツはある目的のため〔セクシープログラム〕と称して様々な色じかけを仕掛けてくる!だが俺はそれを我慢しなければならない!果たして俺は耐え続けられるのか?それとも手を出してしまうのか?これは思春期のセイなる戦い...!いざドタバタラブコメディの幕が切って落とされる!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界に射出された俺、『大地の力』で快適森暮らし始めます!

らもえ
ファンタジー
旧題:異世界に射出された俺、見知らぬ森の真中へ放り出される。周りには木しか生えていないけどお地蔵さんに貰ったレアスキルを使って何とか生き延びます。  俺こと杉浦耕平は、学校帰りのコンビニから家に帰る途中で自称神なるものに拉致される。いきなり攫って異世界へ行けとおっしゃる。しかも語り口が軽くどうにも怪しい。  向こうに行っても特に使命は無く、自由にしていいと言う。しかし、もらえたスキルは【異言語理解】と【簡易鑑定】のみ。いや、これだけでどうせいっちゅーに。そんな俺を見かねた地元の地蔵尊がレアスキルをくれると言うらしい。やっぱり持つべきものは地元の繋がりだよね!  それで早速異世界転移!と思いきや、異世界の高高度の上空に自称神の手違いで射出されちまう。紐なしバンジーもしくはパラシュート無しのスカイダイビングか?これ。  自称神様が何かしてくれたお陰で何とか着地に成功するも、辺りは一面木ばっかりの森のど真ん中。いやこれ遭難ですやん。  そこでお地蔵さんから貰ったスキルを思い出した。これが意外とチートスキルで何とか生活していくことに成功するのだった。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~

Takachiho
ファンタジー
*本編完結済み。不定期で番外編や後日談を更新しています。  中学生の羽月仁(はづきじん)は勇者として異世界に召喚され、大切なものたちを守れないまま元の世界に送還された。送還後、夢での出来事だったかのように思い出が薄れていく中、自らの無力さと、召喚者である王女にもらった指輪だけが残った。  3年後、高校生になった仁は、お気に入りのアニメのヒロインを演じた人気女子高生声優アーティスト、佐山玲奈(さやまれな)のニューシングル発売記念握手会に参加した。仁の手が玲奈に握られたとき、玲奈の足元を中心に魔法陣が広がり、2人は異世界に召喚されてしまう。  かつて勇者として召喚された少年は、再び同じ世界に召喚された。新たな勇者・玲奈の奴隷として―― *この作品は小説家になろうでも掲載しています。 *2017/08/10 サブタイトルを付けました。内容に変更はありません。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 よろしくお願いいたします。 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

処理中です...