上 下
36 / 37
一章

第15話『審判の時』(3/4)

しおりを挟む
 ヒロは字面としては理解しているものの、具体的にどう保護するのか疑問でもありつつ言った。
「はい。そう聞きました。具体的には、我々が保護をすることで裏を描くことができると……」

 ゴダードもその保護の仕方ややり方については言及せずに、話を次へ進めた。
「そうだな。それが終われば今度は、我々を弱体化するワクチンの計画が織り込まれているんだ」
 
 それについてもラピスから聞いていたので、物珍しくはないものの、ヒロは確認のため言った。
「そうですね……。それに一気に感染させて間引くほうが見分けやすいし、全体の時間も作業の効率もいい」
 
 納得し目を伏せてゴダードは頷きながら言った。
「そうだ。そこまで考えられた計画なんだ」
 
 ゴダードは続けていう。
「だからいかに、勇者ウイルスを発症した者を保護できるかが鍵でもあるんだ」
 
 ヒロはこの保護こそが一番難しいと思っていた。素直なら良し、強力な魔法により増長していたら眼も当てられないと思っていた。そこで勇者ウイルスの後のことを、ヒロは尋ねた。
「仮に保護できても、次のワクチンの対策をしないとならないのですよね?」
 
 ゴダードは役割を割り切っているようで、ヒロとラピスがどうやらワクチン担当のようだ。そこでゴダードはヒロに言う。
「そうだ。それはラピスたちに依存するところだ。対抗ワクチンを先に作っておく必要がある」

 そこでヒロは気づいたことがあり言った。
「そうか。セトラーたちは、我々を美味しく『食べる』か『食べられる』か、どちらかの方法でしか考えていない」
 
 ゴダードは蓄えたヒゲに手を当てながら考えながながら言った。
「……そうだな。受容とするか強制とするか……」

 ヒロはゴダードの言わんとすることを理解し言った。
「前者が全員に罹患させて時間をかけて飼育し、後者は強制的に加工食肉にするイメージですか?」
 
 何をイメージしているのか、目をとじ顎髭を撫でながら、ゴダードは言った。
「そんな感じをわしも予測している。後者は即時実行されるから選択肢がないんだよ」
 
 ヒロふと、人が家畜にしていることを思い起こす。
「人も確かに、美味しくなることがわかっているなら、時間をかけるのは惜しまないですからね……」
 
 ヒロとゴダードが話し込んでいるところに、ようやくリナが加わってきた。ヒロとゴダードは、話し込むといつも長くなる傾向が高い。ゆえに、ある程度は話をさせてからリナが加わるのは、研究室にいるときのいつものパターンだった。

 リナは片方の手を腰に当てて、もう片方の手は人差し指を立てながら指揮者のようにふり、身振り手振りで話をした。
「そうよ。ある意味私たち人がやってきたことに近いわ。因果応報かしらね……。でも私たちは生き残るの。そうでしょ?」
 
 ヒロは一も二もなく答えた。
「ええ。もちろんです」

 ゴダードも同じく即答をした。
「そうだな」

 ヒロは不吉な予感を抱いていた。それは、この力が支配するような世界の変わりようから、私利私欲のため活動する者がいても不思議ではないと思って聞いた。
「スパイが存在することは、ないのですか?」
 
 ゴダードはそれについて即答で返てきた。
「それはないな。ウイルスによると、魔人のとき以外は完勝で傲慢さがあるとのことだ」
 
 リナも同じ結論に至ったようで言う。
「そうね、私も同じことを聞いたわ。だからこそ隙があるの」
 
 かなりシンプルで突破力のある方法でもあり、原資的なやり方の可能性もあるとみてヒロは言った。
「つまり、傲慢さにかまけて、力まかせに来ると?」
 
 ゴダードは腕を組みながらヒロへ答えた。
「恐らくはな」
 
 リナは何か考えがある様子で、ニヤリと口角を上げながら言う。
「仮にスパイもどきがいても、策は二重、三重と張り巡らすわ」
 
 ゴダードもリナが考えていることがわかるのか、同意して言う。
「そうだな。まだ時間はある」
 
 リナはいつになく意気込み、拳を握りしめながらヒロとゴダードに向けて言う。
「生き抜きましょ。日本はあたしたちの物で、セトラーの物じゃないわ」
 
 ゴダードは両腕を腰にあて胸を張りながら言った。それはまるで自信満々と言ったところだ。
「そうだな、大和魂を見せてやるかの!」
 
 ヒロもラピスと協力しながら、自分の役割を果たそうと告げる。
「俺もラピスと相談しながら、やり遂げます」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

無能の翼。〜神託で選ばれた11人目はすべてに耐久する。魔力ゼロで追放されて大量の経験値を得たので各地を攻略し無双して勇者を殲滅する。

雨井雪ノ介
ファンタジー
「キョウ、お前のような無能なクズで役立たずはクビだ――」 ダンジョン内の脱出が間に合わない付近でクビと宣告された。 ご丁寧にも、他のパーティーがいないことを確認してまで言うという徹底ぶりだ。 時間制限のため、皆は転移魔法陣で帰投してもキョウにはできない。 なぜなら、魔力がゼロからだ。 残念なことに、これから行われるダンジョンの作りかえに巻き込まれて死ぬ他に道がない。 いわゆるクビという名の死刑宣告なわけだ。 魔力はゼロでも特殊能力という物は授かっている。その力は”耐久能力”だ。 ただ困ったことに、攻撃手段もなければスキルもなく、魔獣に攻撃すらしたこともない。 そんな俺が一人ぼっちで取り残された。 間もなく内部にいる全生命が処分されて、全ての階層の作りかえが行われる。 狭まる選択肢には、潔く死ぬか・ダンジョン最奥に行って死ぬか・このままここで死ぬか、 どれも死に方だけしか選べない。 脱出不可能なダンジョンでキョウはどうやって生き抜くのか? 生き抜け俺、魔力ゼロから始まる耐久能力讃歌の闇物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...