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一章

第13話『目覚め』(1/2)

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 夜は明けてくると、朝焼けが無人となった廃墟ビルの窓ガラスを通して、十字架に貼り付けされた者の体を照らす。
 ビルの建物に囲まれた狭き一角には空き地があり、十字架へ磔にされた者の体表には、凝固した黒い血が生々しくこびりつき残る。
 頭は項垂れて下がっていたのに、いつの間にか頭が起き上がると目は赤く光り、何かを叫んでいた。
 
 空に向けて吠えている姿は圧巻で周辺の壁は唸りを上げて、窓ガラスは砕け散ってしまう。
 ヒロは雄叫びを上げ続けた。
「グオォォォォォオオ!」

 しばらくしてから何事かと、ヒロを刺殺した者たちが集まってきた。
 突然の変わりように困ってしまう。
 いくら恨みつらみがあったとしても、再び意識を取り戻した者をあえてもう一度殺めてやろうなどと思う者は、あまりいない。
 
 ただ見守るしかなく、集まった一部の当事者の者たちは、呆然と眺めているしかなかった。
 

 体全身が眩い光に包まれたかと思うと、巨大化していきその姿は『黄金の魔人』に変化をしていった。

 身の丈どのぐらいにまで至ったのか、他の魔人たちより目線が高い位置にあるようにも思えた。
 ヒロを拉致った残りの者たちもこぞって現れると、『黄金の魔人』になったヒロへ魔法をぶつけてくる。先に集まった者は抵抗感があるのか、後ろにひいいてしまう。

 リーダー格の20代前半ぐらいで逆毛短髪の黒い髪の男は、周りに檄を飛ばす。
「お前ら! まずは手をだせ! 魔法を放て!」

 それを受けた一人の同じく20代ぐらいの茶色の長髪女性は、狼狽えるようにいう。
「でも……。昨日死んだんでしょ? それをまたなんて……」

 リーダー格の男は再びいう。
「目の前を見ろ! やらなければやられるのは俺たちだぞ!」

 すると女性は、両手の拳を握りしめ堰を切るように言い始めた。
「なら! 私は逃げるわ! あなたのやり方についていけないし。それに、教祖リナ様の方が断然いいと聞くわ。さよなら!」

 彼女の言葉に、敏感に反応した複数名の男女がこの場を離れてしまう。
 それでもいく人かは残り、攻撃を加えていた。
 その中にいた者は、ヒロに対して怨嗟の視線を常に注ぎつけた者たちばかりが残る。

 ――数十分。
 
 彼らの決死の攻撃は虚しく、何も変化を生み出しはしなかった。
 その攻撃はそよ風程度にしかないのか、受け流す様子で魔人が動じることもないのは明らかだった。

 眠らせていた子を起こす行動で、今更後悔しても遅い。
 何をしくじったか、何を間違えたのか彼らが脳裏で考えていても事態は変わらないだろう。
 より悪化していく一方なのは、火を見るより明らかだった。

 そこでヒロは、再び大きく叫ぶ
「グオおおおおお!」

 まるでそれに呼応するかのよに、ようやくラピスが久しぶりに反応した。
 それはまるで、突然何も知らされていない観客が目撃したかのような態度でラピスは言った。
「ヒ……ロ?」

 その声を聞き、ヒロは時間が止まったかのように突然動きを止めた。

 雄叫びを上げるだけだった野獣のような状態のヒロを、いつものヒロに呼び覚ましたのは他でもないラピスだった。
 
 どこか懐かしくとも、ようやく安心できる相手。
 その存在の声が聞けたので、安堵する気持ちがヒロの中で広がる。
 見た目は変わらずとも、内に向けた声へヒロは意識を移した。

「ラピス……。大丈夫、なのか?」

 まるで反応がなかったので、ヒロの今は安堵の方が大きいだろう。
 こうして存在を確認できたのは、ヒロにとってこの事実はとても大きなことだった。
 
 そこでラピスはいう。意識が閉じ込められたようになって、ナノマシンの集合体である液体金属の不具合に、心血を注いでいたと。
 
 ある意味緊急事態だったようだ。

 なぜなら、ナノマシンの不具合イコール保持者の死に直結する出来事へつながるからだ。そうなると全てのリソースをさいて、対処対応に当たらないと手遅れになる。その危機感で今の今ままで対応していたという。

 結果として、ギリギリ間に合い修復は完了。偶発的な不具合だったようだ。
 もそもとして、ヒロがより力を発揮できるようにと改造したのが不味かったようで、それにより誤動作を起こしていたという。

 ラピスはほっと一息ついたと言わんばかりのいつものペースでの発言だ。
「ほんと、チョーやばかった」

 ところがヒロは現状、黄金の魔人の力が膨れ上がることでラピスの助言に耳を傾けるのは難しいところまで来ていた。
 
 ヒロはラピスの声に対して反応をするのがやっとだった……。
「あ、ああ……」
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