上 下
18 / 37
一章

第8話『青ノ力』(3/9)

しおりを挟む
――翌日の昼頃。
 
 国会議事堂地下のダンジョン入り口に、光学迷彩のままヒロはやってきた。
 ヒロの状態を見てラピスはいう。セトラーなんか目じゃないとラピスは舌なめずりをしていた。
 まだ何も攻撃すらしていないのに、ラピスのこの自信はどこからくるのか、ヒロは不思議でならなかった。
 ただし唯一言えるのは、今の状態だと異常に魔力を消費してしまう。
 魔力の質を高めて消費を軽減させるために、ダンジョンで魔獣狩りに勤しむことがベストだとラピスはいう。
 
 セトラーは、食肉となる人に対しては肉としてしか見ないので、賛辞をもらった場合には、注意を払った方がいいという。だからこそ、今のうち強くなっておくことが課題だ。
 それにセトラーたちの見た目は、容姿端麗で頭脳明晰。さらに肉体と魔力は、見た目と異なり強固で長寿。こうなると誰も太刀打ちできないという。

 さらに彼らの『S』シャウトには注意が必要で、これを浴びると大抵恍惚とした表情で洗脳されてしまうという。
 胸元でコの字を作りエネルギーを循環させた後、縦にずらして右を上左をしたにすると正面から見るとS字になる。
 両手をコの字で循環していたエネルギーがS字になることで逃げ場がなくなり、排出される。
 ラピスとほかのもう二つのウイルスは、それに対抗できる。
 いずれにしても、強い者ほど食肉化は避けられず遅かれ早かれ食われてしまう。
 そのため、早々に彼ら第一陣を追い払う準備を進めなければならない。

 結局それは、狩りをするしかないとラピスはいう。
 根本的に力を高めるためには、狩りをして魔獣から魔力を吸収し、魔力の底上げを図り強くなっていくより他にないという。

 ヒロは昨日訪れた国会議事堂の前でぼんやりとラピスと会話をしていた。突入前にいくつか確認しておきたいことがあったからだ。舞い降りた場所には、いつの間にか小高い丘ができており、その麓には大きく口を開けた穴があき、誰かが来るのを待ち望んでいるかのようだ。

 ヒロはラピスにとう。
「突入前に確認しておきたいのは、十層ごとに転移魔法陣が出現し地上に戻れるのと、階層ボスも同じく十層ごとにいるのは間違いないか?」

 ラピスは当たり前のことのように返事をした。
「ええ間違いないわ」

 ヒロは慎重すぎるほど、聞いてしまう。
「魔獣は下層へ降るほど強くなり、倒すと一定の時間後に再度現れるというのも間違いないか?」

 ラピスは公園にでもいく感覚のようで、あくまでも気楽に答えていた。
「そうね。せめてもの救いは、魔獣が倒された記憶は引き継がないから、同じ手が通用するってところね」

 ラピスからの回答を聞いて、小説で読んだことのある内容とは異なっており、どこかヒロは安堵していう。
「なるほどな。最後にこの最下層にはダンジョンの主がいて、それを倒すとダンジョンは消滅するのか?」

 ラピスは、困ったようにして答えた。
「それはないわ。魔獣はあくまでも生成物よ。ダンジョンを管理して司るのは水晶コアなの。それはさらに地中深くに埋まっているから、取り出すどころか見つけるのも不可能に近いわ」

 ヒロは腹を括り、進める決意をしていう。
「それだけわかれば、あとはやりながら確認してみるか。この魔人化もどの程度まで維持できるのか把握しておきたいからな」

 ラピスはほんとに軽くいう。
「多分、今のヒロなら瞬殺よ?」
 
 どこかヒロはに苦笑いをしながら踏み出していう。
「だといいんだけどな」

 ヒロは半信半疑ながらも生まれて初めてのダンジョンへ一歩踏み出した。
 この様子を一部の者は眺めており、入ることに躊躇していた。
 ところが、ヒロこと白の魔人が歩みを進めたことで、それに続くように他の者も各々入り始めた。
 これが、記念すべき人類初めてのダンジョン突入だった。

 ――数刻後。

 ラピスは機嫌良さそうにいう。
「ね、楽勝でしょ?」

 足元には、人型の魔獣が爆散していた。
 単純にヒロは腕力一辺倒で、殴り倒してきたのである。
 膂力が強すぎるあまりか、体に当てるたびに貫通してしまい最も簡単に相手は倒れていく。

 なんともいえない表情でヒロはラピスへ返す。
「魔人が強すぎるのか、それとも魔獣が弱いのかなんとも判断がつかないな……」
 
 ヒロは魔人の力を過信しているわけではないものの、あまりの手応えの無さに拍子抜けしていたのはあった。
 とはいえ、道中魔法を巧みに使い戦闘をしている他の人らは、かなり苦戦しているように見えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

窓際の交錯

K.N.
恋愛
成瀬康汰(なるせ こうた)、27歳。 都内のIT企業で働く彼は、今年1月から虎ノ門の本社勤務となり、静かな日常を過ごしていた。 ビルの10階で働く康汰は、仕事以外に大きな刺激もなく、昼食を取ることも稀だった。ただ、時折1階のカフェに足を運び、窓際の席で小説を読みながらコーヒーを楽しむことが、珠の息抜きになっていた。 一方、同じビルの6階で働く23歳の小牧月香(こまき るか)。 彼女もまた、同じカフェで時折パニーニを頬張っていた。普段は週末に作り置きしたお弁当を持参する彼女だったが、うっかり忘れてしまった時には、カフェに足を運んでいた。 ある日、混雑するカフェの中、窓際の席に腰掛け小説を読んでいた康汰の前に一人の女性がふと現れた。 見覚えのある彼女に驚きながらも、康汰は気づかぬふりをしていたが、彼女は微笑みかけながら言った。 「こんにちは!」 それが、康汰と月香の初めての会話だった。日常の中で交差する二人の人生が、静かに動き始める。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...