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第三章:カミナリノモン国(前編)
第53話『遺産』
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左右の壁と通路は、何の変哲もなくひたすら奥まで伸びる。
数分歩くと、今度は金属製の扉が目に付く。
今の時代に似つかわしくない未来的なSF風のデザインの扉だ。
どう見ても手形にしかみえない金属でできた物と再びご対面だ。
またかと何処かうんざりする気持ちながら、手をゆっくりと添えてみた。
恐らくは、なんらかしらの方法で確認をしているんだろう。
俺が手を当てとたん、扉周りが光り一気に明るくなる。
すると扉も同様に、空気を噴出するような音と同時に扉が左右に引き開く。
扉の先が視界に入ると急に、ルゥナが叫び駆け寄る。
「ラキア!」
何事かと思いあたりを見回すと、圧巻の一言に尽きる。
横長の幅広の空間に、真正面には巨大な人形の何かが目を閉じて直立不動のまま、固まったような様子が見える。
恐らく背丈は、余裕で五メートルはありそうだ。
周囲の様子は、左側はカフェのようなテーブルと椅子が二組ずつあり、壁際には書物と何かの道具らしい物が所狭しと置かれている。
右側は、武器と防具が陳列してありウェットスーツのような物までが展示されている。
部屋全体は、白藍色で薄い水色にやや緑がかかったような色一色で統一されている。照明は壁の所々に設置されて非常に明るい。
一体何の部屋なのか……。
皆各々で、見学し始めた。
恐らく書物を見ても日本語なら読めないだろう。
出入り口付近にタッチパネルがあることに気がつき、触れてみると日本語表示がされた。
ナビゲーター案内と表記があり、いかにも押してと言わんばかりの強調さ加減なので押してみると、突然目の前に白藍色のメイド服を着た美少女が現れる。
目の前にいる美少女は抑揚の少ない声で語りかけてきた。
「認証確認……。こんにちは、日本人のかたですね。ようこそおいでくださいました」
京也は聞き返す。
「君は一体?」
「はい、私は施設全体を統括しているシステムの補佐をしています。ナビゲーターのホーリーです。わからないことは何なりとお申し付けください。尚、会話は直接あなた様の脳に話しているので第三者から聞かれることはございません」
ホーリーは、淡々と答えた。
ホログラムの映像が投下されているのか、ルゥナ同様に触れられない。
京也は会話が聞かれないのをいいことに、質問をしてみた。
「なるほど、そしたらまず聞きたいことがあるんだけど、ホーリーの正面にいる着物をきた日本人風の女性は、日本人ではない?」
ホーリーからはすぐに言葉が返ってきた。
「確認します……。はい、異なります。表面的な形状だけで中身は別の有機生命体です」
生命体として違うなら、どう違うのか興味は深かった。
京也は、今はまず施設の確認を優先したく、再び質問を投げた。
「わかったありがとう。今いる場所は何なんだい?」
ホーリーは変わらず即答してくれる。
「はい。当施設は、勇者が残したい物への記録と保管を行う複数拠点の内の一つです。各施設とは、接続されており状態を確認できます」
複数あることだけでなく、状況確認までできるとの発言だ。
京也は過去の施設の利用者が気になり確認してみる。
「施設を利用した生存者は?」
すると意外な答えがホーリーから返される。
「建造されて3,240年間の間、この場所の利用者は……ゼロ人です」
この返答からすると、今まで施設の製作者以外は利用していない。
愚問かもしれないと思いつつも、京也は念の為に確認をしてみた。
「ここに置かれている品々については、すべて答えられる?」
「はい、できます」
ホーリーは何の問題もなく答えられるようだ。
ならば大丈夫そうだと京也は安心した。
京也は、ルゥナが入場早々叫んだデカブツについて聞いてみた。
「そしたら、立ったままでいる人型のでかいのは何だ?」
「生体兵器X201ラキアです。現在、凍結中です。再稼働は可能な状態。ただし闇の力が著しく少なく、稼働ができません。闇レベル1,002から使役し稼働させられます」
ホーリーは原因と稼働方法まで答えてくれた。
元から生体兵器だったのか、そうさせられたのかまでは不明だ。
続いて京也は思いつくままに訊ね、京也はさっそく本題を切り出してみた。
「神話の時代に日本人の勇者がいたらしいけど何か知っている?」
「はい、神話と呼ばれる時代がいつを想定しているか不明です。時代以外に、当施設を作成した者は日本人です。現在行方不明です」
ホーリーは、あっさりと回答してくれた。しかも日本人ときた。
「行方不明?」
「はい、消息を立ってから3,240年経過中です」
「なるほどな……。何か勇者から、日本人宛に伝言はない?」
「はい、あります」
京也はどこか期待していう。
「聞かせてくれないか?」
「ホログラムを再生します。他の者からもみえてしまいます。ただし、日本語がわからなければ、話す内容を理解はできませんのご安心ください。なお、話しかけても応答はできません。お見せするのは、記録映像だけです」
「わかった頼む」
京也が返事をすると、一瞬室内が薄暗くなり京也の目の前に、年頃30代前半ぐらいの男性が現れた。
細身でしなやかそうな感じがする優男風のイケメンだ。黒髪は後ろで一本に束ねている。
ただ何処か、疲れが顔から滲み出ている。
一体何があったのだろうか……。
「今僕の映像を見ているなら、日本人として無事に施設に辿り着いたんだね。おめでとう。すでに知っていることもあるかもしれないし、知らないこともあるだろう。僕が知り、調べてわかったことはすべて記録に残したつもりだ。今後訪れる後輩たちのために、残したつもりだよ。僕は間も無く死ぬ。確定事項で避けられない。だからこうして残すことにしたんだ」
勇者の独白は、いきなりな展開に驚くも京也は続きをまった。
「恐らく今君は、施設が何だかわからないし、今いる世界の理不尽もクソ女のことですら、何も知らないだろう。だから最初に伝えておきたい。判断材料の内のひとつとして、考えてもらえたらと思う。もちろんどのような考えでも僕は歓迎するよ。なので周囲にあるアイテムの使い方は、ナビゲーターのメイドに託してあるから、後で聞いてみてくれ」
クソ女といきなりの発言だ。何がそれほどの憤りになったのやら……。
何だかいろいろ問題を抱えている感じがした。
日本人の勇者と思わしき人は、いつきてどのぐらい滞在していたのか知らない。
ただ並々ならぬ覚悟があるようにもみえた。
「まずは先に言おう……。クソ女! いやもとい、女神には気をつけろ。奴は名前こそ女神でも、我々が想像するような神ではない。多数ある種族の内のひとつで、今の世界には管理者が別にいる。管理者の方が、本来我々が想像するような神だ。だから女神と呼ばれるものは、管理者に仕えるただの労働者にすぎない」
勇者は、いきなりの爆弾発言だ。
女神は、ただの労働者ときたもんだ。
勇者の表情からは、かなり憤慨しているように見えるけど、女神は俺にとって命の恩人でもあるし、リムルやアリッサを蘇生してくれた恩人でもあるんだよな……。
だからいきなりクソと言われても正直、複雑なところだ。
「まずクソ女は、こともあろうか自らが神のように振る舞い始めた。せっかく命を救ってやったのに、恩知らずか厚かましい。しかも意にそぐわない相手を次々と葬り去り、自身が気に入った相手には、とことん人生に介入し出した。個人的な思惑での行為なのが非常にまずい。たとえクソ女でも世界を管理する以上は、可能な限り平等でないと世界が歪む」
あっこいつ、ついに訂正しなくなったな。後輩へ伝えるのに、感情的すぎやしないだろうか……。
「世界の歪みは、やがて大きくなり異界を惹きつけ衝突するか、融合するかどちらかしかない。今の状態だとどちらもあり得るし、どちらのケースでも今の世界が負ける。ぶつけられたり、融合で食われたりした方が劣勢になるんだ。つまり、今は捕食者の頂点みたいに人は振る舞っているけど、将来逆転が起きる。異界の奴らのエサに成り果てるんだ。とくに魔核は好物だから、狙われやすい」
あれ? こいつのいうことはルゥナのいうことによく似ているぞ。俺にとっては、仲間さえ無事なら他の奴らは興味がない。例えるなら、世界の反対側で死ぬやつのことなどより、身近なケツ拭く紙の方が重要だ。
「僕は可能な限り、今の世界を存続させようと努力した。なぜなら、ここに転移するときに、世界の管理者からの望みでもあったからだ。僕は元の世界で死ぬ直前に救われたから、恩義には感じているつもりだ。恐らく疑問に思うだろう。管理者から望みを言われているのに、なぜクソ女が我が、物顔で振る舞っているのかと。それは……」
なるほどな。俺とは違う方法での転移者なわけだ。気になるのは本当に勇者のいうクソ女が、自らの好き嫌いで判断して歪めているのか、客観的な確証がないことだ。もしかするとこいつが言っていることの方が、間違いや多少オーバーにいっている可能性は否定できない。
「……というわけだ。だから手の甲に、このようなマークがある奴は気をつけた方がいい。女神の信徒だからだ。恐らくはそいつが近くにいれば、行動は女神に筒抜けだと思った方がいい。ただし、施設内の部屋だけは安心してくれ。防衛対策はしているから、何が起きてもわからない。現状が打破できない以上は、衝突か融合をしてしまった方がいいかもしれない。世界自体が変わるから、管理者以外は、すべてあの場所から排除されるのでクソ女も落ちてくるはずだ」
途中ノイズがあり見れなかったな。何か障害でもあったか阻害されたんだろう。
なんか今重要なことをいっていたぞ? クソ女が落ちてくるだと?
もしそのようなことが起きたら、俺は女神に会うのだろうか。
「後気をつけてほしいのは、神託を受けてしまったことと、多く受けてしまうことだね。前者はまだマシだよ。なんらかしらの気まぐれの可能性があるからね。ただし後者なら問題だ。完全に目をつけられている。どういった基準で選んでいるのかはわからない。もし僕の話を聞いている者が神託を多く受けていたなら、後でメイドから君に合う武器と防具を見繕ってもらうといい。きっと何か役に立つはずだよ。施設にあるすべての武器防具は、世界戦において使用を想定している。つまり、神々と異界の者と渡り合うための物だ」
何だか話が大きくなってきたぞ。勇者の男は何をみて何の準備をしていたのかと思いきや神々とのことか……。
だから、神話の時代よりさらに前に、何かあったといわれるのは、もしかすると世界戦があったのかもしれない。
俺は単に勇者を殲滅して、ダンジョンを無双したいと思っていた。ところが、なかなかに壮大なスケールの話が舞い込んできたもんだ。
今聞いた内容をギルドマスターに話すのか? いや……。ヤバすぎるだろう……。
「もし、まだ君のレベルが低いまたはゼロなら、チャンスはある。とくにゼロの者だ。実は僕もそうだ。ゼロは世界に馴染んでいないし、極端にいうと、今の世界の理が通じないはずなんだよね。だからレベルという恩恵は得られないし、スキルも当然得られない。代わりに僕と同じく、別のレベルが発現しているはずだよ。僕は闇レベルだけどね。君はどうかな?」
なんと、まさかルゥナから聞いたことと、ほとんど同じことを聞くとは思いもよらなかった。
ただ俺は元から他のレベルはなかった。
短剣を得てから闇レベルが備わったので、代わりにというわけでもない。
俺の場合は、恐らく特殊な事例なのかも知れない。
勇者は続けていう。
「今の世界でレベルゼロの者だけ女神に抗えるし、女神が管理していないというよりは、できないダンジョンへ潜れる。そこは今この世界のルールとは異なり、別の世界とのつながりがあるようなんだ。現に僕の闇レベルはついに千を越えて、かなりの強スキルも手に入れた。施設内に展示している物も、管理していないダンジョンで手に入れた物なんだ。というわけで品々は君に託そう」
何か俺は、壮大な物に巻き込まれたといえるかもしれない。仲間を守るための力がますます欲しいし、より強くもなりたいと考えてしまう。
「最後に一つだけ伝えるとするならば、光翼を持つ種族がいたら安心してくれ、味方だよ。僕も驚いたんだけど、かぐや姫の一族が今の世界にいるんだ。何世代にもわたって子孫を残して、今の世界に抵抗している。元は月の民と呼ばれていたみたいだけどね。ただ、定期的に流刑人としても向こう側から、流されてくる者がいると言っていたね。だからかぐや姫が事実上たくさんいるよ。僕が世界にきたとき、一番はじめに助けてくれた種族が光翼をもつ者たちなんだ。唯一受け継いだ言葉がある。『汝光と共に生き、高みへはまた光と共にあらんことを』この言葉は高みに共に上る存在として、認められた者だけが持つ。だから僕からこの力を受け渡そう。今見てもらっている記録映像を通して、受けわたしができるんだ。ただし限定一名だけどね」
すると突然胸の奥に何か熱い物が全身を駆け巡るような何かを感じた。
まるで造影剤を入れられている感覚で全身の血管から熱さが滲み出して、内側から熱湯を流し込まれているようで苦しい。
同時に闇の力とは異なる別の力をどこか感じ取れもした。
「うまく送れているといいんだけどね。特定の空間に力を残していたから、うまくいけば体の内側が熱くなったはずだよ。もし、うまくいかなかったらごめん。その場合、力は君にはまだ早いから、もう少し成長してからくるといいよ。他の人が受け継いでいたら、この会話自体が再生されないようにしているから、見聞きできていれば問題ないよ」
何だか、この人の壮絶な生き様の一部を味わったような気がした。
相当苦しんで、準備してきたんだろう……。
「最後に、君の人生に幸あれといいたいところだけど、僕から贈れる物は戦いへの備えしかないんだよね。だから、少しでも有利になることを願っているよ。他にも同じ施設がいくつか各地に点在している。ぜひ探してみてほしい。一つの施設から得るものも大きいけど、一通り回って手に入れた方が安全かと思ってね。一箇所だけだどそこが何かしらの力で破壊されたら、手に入らなくなるからね。そのための用心さ。それじゃ本当に最後になるけど、元気で。あっ僕の名前を言っていなかったね。僕は九条鳥京也。東京出身だよ。それじゃ」
そういうと映像は消えた。
えっ? どういうことだ? 俺?
名前だけは同じだ。見た目は全然違うしただの偶然の一致なのか……。
俺は混乱しそうになるも、今えた情報を整理したいと思っていた。
数分歩くと、今度は金属製の扉が目に付く。
今の時代に似つかわしくない未来的なSF風のデザインの扉だ。
どう見ても手形にしかみえない金属でできた物と再びご対面だ。
またかと何処かうんざりする気持ちながら、手をゆっくりと添えてみた。
恐らくは、なんらかしらの方法で確認をしているんだろう。
俺が手を当てとたん、扉周りが光り一気に明るくなる。
すると扉も同様に、空気を噴出するような音と同時に扉が左右に引き開く。
扉の先が視界に入ると急に、ルゥナが叫び駆け寄る。
「ラキア!」
何事かと思いあたりを見回すと、圧巻の一言に尽きる。
横長の幅広の空間に、真正面には巨大な人形の何かが目を閉じて直立不動のまま、固まったような様子が見える。
恐らく背丈は、余裕で五メートルはありそうだ。
周囲の様子は、左側はカフェのようなテーブルと椅子が二組ずつあり、壁際には書物と何かの道具らしい物が所狭しと置かれている。
右側は、武器と防具が陳列してありウェットスーツのような物までが展示されている。
部屋全体は、白藍色で薄い水色にやや緑がかかったような色一色で統一されている。照明は壁の所々に設置されて非常に明るい。
一体何の部屋なのか……。
皆各々で、見学し始めた。
恐らく書物を見ても日本語なら読めないだろう。
出入り口付近にタッチパネルがあることに気がつき、触れてみると日本語表示がされた。
ナビゲーター案内と表記があり、いかにも押してと言わんばかりの強調さ加減なので押してみると、突然目の前に白藍色のメイド服を着た美少女が現れる。
目の前にいる美少女は抑揚の少ない声で語りかけてきた。
「認証確認……。こんにちは、日本人のかたですね。ようこそおいでくださいました」
京也は聞き返す。
「君は一体?」
「はい、私は施設全体を統括しているシステムの補佐をしています。ナビゲーターのホーリーです。わからないことは何なりとお申し付けください。尚、会話は直接あなた様の脳に話しているので第三者から聞かれることはございません」
ホーリーは、淡々と答えた。
ホログラムの映像が投下されているのか、ルゥナ同様に触れられない。
京也は会話が聞かれないのをいいことに、質問をしてみた。
「なるほど、そしたらまず聞きたいことがあるんだけど、ホーリーの正面にいる着物をきた日本人風の女性は、日本人ではない?」
ホーリーからはすぐに言葉が返ってきた。
「確認します……。はい、異なります。表面的な形状だけで中身は別の有機生命体です」
生命体として違うなら、どう違うのか興味は深かった。
京也は、今はまず施設の確認を優先したく、再び質問を投げた。
「わかったありがとう。今いる場所は何なんだい?」
ホーリーは変わらず即答してくれる。
「はい。当施設は、勇者が残したい物への記録と保管を行う複数拠点の内の一つです。各施設とは、接続されており状態を確認できます」
複数あることだけでなく、状況確認までできるとの発言だ。
京也は過去の施設の利用者が気になり確認してみる。
「施設を利用した生存者は?」
すると意外な答えがホーリーから返される。
「建造されて3,240年間の間、この場所の利用者は……ゼロ人です」
この返答からすると、今まで施設の製作者以外は利用していない。
愚問かもしれないと思いつつも、京也は念の為に確認をしてみた。
「ここに置かれている品々については、すべて答えられる?」
「はい、できます」
ホーリーは何の問題もなく答えられるようだ。
ならば大丈夫そうだと京也は安心した。
京也は、ルゥナが入場早々叫んだデカブツについて聞いてみた。
「そしたら、立ったままでいる人型のでかいのは何だ?」
「生体兵器X201ラキアです。現在、凍結中です。再稼働は可能な状態。ただし闇の力が著しく少なく、稼働ができません。闇レベル1,002から使役し稼働させられます」
ホーリーは原因と稼働方法まで答えてくれた。
元から生体兵器だったのか、そうさせられたのかまでは不明だ。
続いて京也は思いつくままに訊ね、京也はさっそく本題を切り出してみた。
「神話の時代に日本人の勇者がいたらしいけど何か知っている?」
「はい、神話と呼ばれる時代がいつを想定しているか不明です。時代以外に、当施設を作成した者は日本人です。現在行方不明です」
ホーリーは、あっさりと回答してくれた。しかも日本人ときた。
「行方不明?」
「はい、消息を立ってから3,240年経過中です」
「なるほどな……。何か勇者から、日本人宛に伝言はない?」
「はい、あります」
京也はどこか期待していう。
「聞かせてくれないか?」
「ホログラムを再生します。他の者からもみえてしまいます。ただし、日本語がわからなければ、話す内容を理解はできませんのご安心ください。なお、話しかけても応答はできません。お見せするのは、記録映像だけです」
「わかった頼む」
京也が返事をすると、一瞬室内が薄暗くなり京也の目の前に、年頃30代前半ぐらいの男性が現れた。
細身でしなやかそうな感じがする優男風のイケメンだ。黒髪は後ろで一本に束ねている。
ただ何処か、疲れが顔から滲み出ている。
一体何があったのだろうか……。
「今僕の映像を見ているなら、日本人として無事に施設に辿り着いたんだね。おめでとう。すでに知っていることもあるかもしれないし、知らないこともあるだろう。僕が知り、調べてわかったことはすべて記録に残したつもりだ。今後訪れる後輩たちのために、残したつもりだよ。僕は間も無く死ぬ。確定事項で避けられない。だからこうして残すことにしたんだ」
勇者の独白は、いきなりな展開に驚くも京也は続きをまった。
「恐らく今君は、施設が何だかわからないし、今いる世界の理不尽もクソ女のことですら、何も知らないだろう。だから最初に伝えておきたい。判断材料の内のひとつとして、考えてもらえたらと思う。もちろんどのような考えでも僕は歓迎するよ。なので周囲にあるアイテムの使い方は、ナビゲーターのメイドに託してあるから、後で聞いてみてくれ」
クソ女といきなりの発言だ。何がそれほどの憤りになったのやら……。
何だかいろいろ問題を抱えている感じがした。
日本人の勇者と思わしき人は、いつきてどのぐらい滞在していたのか知らない。
ただ並々ならぬ覚悟があるようにもみえた。
「まずは先に言おう……。クソ女! いやもとい、女神には気をつけろ。奴は名前こそ女神でも、我々が想像するような神ではない。多数ある種族の内のひとつで、今の世界には管理者が別にいる。管理者の方が、本来我々が想像するような神だ。だから女神と呼ばれるものは、管理者に仕えるただの労働者にすぎない」
勇者は、いきなりの爆弾発言だ。
女神は、ただの労働者ときたもんだ。
勇者の表情からは、かなり憤慨しているように見えるけど、女神は俺にとって命の恩人でもあるし、リムルやアリッサを蘇生してくれた恩人でもあるんだよな……。
だからいきなりクソと言われても正直、複雑なところだ。
「まずクソ女は、こともあろうか自らが神のように振る舞い始めた。せっかく命を救ってやったのに、恩知らずか厚かましい。しかも意にそぐわない相手を次々と葬り去り、自身が気に入った相手には、とことん人生に介入し出した。個人的な思惑での行為なのが非常にまずい。たとえクソ女でも世界を管理する以上は、可能な限り平等でないと世界が歪む」
あっこいつ、ついに訂正しなくなったな。後輩へ伝えるのに、感情的すぎやしないだろうか……。
「世界の歪みは、やがて大きくなり異界を惹きつけ衝突するか、融合するかどちらかしかない。今の状態だとどちらもあり得るし、どちらのケースでも今の世界が負ける。ぶつけられたり、融合で食われたりした方が劣勢になるんだ。つまり、今は捕食者の頂点みたいに人は振る舞っているけど、将来逆転が起きる。異界の奴らのエサに成り果てるんだ。とくに魔核は好物だから、狙われやすい」
あれ? こいつのいうことはルゥナのいうことによく似ているぞ。俺にとっては、仲間さえ無事なら他の奴らは興味がない。例えるなら、世界の反対側で死ぬやつのことなどより、身近なケツ拭く紙の方が重要だ。
「僕は可能な限り、今の世界を存続させようと努力した。なぜなら、ここに転移するときに、世界の管理者からの望みでもあったからだ。僕は元の世界で死ぬ直前に救われたから、恩義には感じているつもりだ。恐らく疑問に思うだろう。管理者から望みを言われているのに、なぜクソ女が我が、物顔で振る舞っているのかと。それは……」
なるほどな。俺とは違う方法での転移者なわけだ。気になるのは本当に勇者のいうクソ女が、自らの好き嫌いで判断して歪めているのか、客観的な確証がないことだ。もしかするとこいつが言っていることの方が、間違いや多少オーバーにいっている可能性は否定できない。
「……というわけだ。だから手の甲に、このようなマークがある奴は気をつけた方がいい。女神の信徒だからだ。恐らくはそいつが近くにいれば、行動は女神に筒抜けだと思った方がいい。ただし、施設内の部屋だけは安心してくれ。防衛対策はしているから、何が起きてもわからない。現状が打破できない以上は、衝突か融合をしてしまった方がいいかもしれない。世界自体が変わるから、管理者以外は、すべてあの場所から排除されるのでクソ女も落ちてくるはずだ」
途中ノイズがあり見れなかったな。何か障害でもあったか阻害されたんだろう。
なんか今重要なことをいっていたぞ? クソ女が落ちてくるだと?
もしそのようなことが起きたら、俺は女神に会うのだろうか。
「後気をつけてほしいのは、神託を受けてしまったことと、多く受けてしまうことだね。前者はまだマシだよ。なんらかしらの気まぐれの可能性があるからね。ただし後者なら問題だ。完全に目をつけられている。どういった基準で選んでいるのかはわからない。もし僕の話を聞いている者が神託を多く受けていたなら、後でメイドから君に合う武器と防具を見繕ってもらうといい。きっと何か役に立つはずだよ。施設にあるすべての武器防具は、世界戦において使用を想定している。つまり、神々と異界の者と渡り合うための物だ」
何だか話が大きくなってきたぞ。勇者の男は何をみて何の準備をしていたのかと思いきや神々とのことか……。
だから、神話の時代よりさらに前に、何かあったといわれるのは、もしかすると世界戦があったのかもしれない。
俺は単に勇者を殲滅して、ダンジョンを無双したいと思っていた。ところが、なかなかに壮大なスケールの話が舞い込んできたもんだ。
今聞いた内容をギルドマスターに話すのか? いや……。ヤバすぎるだろう……。
「もし、まだ君のレベルが低いまたはゼロなら、チャンスはある。とくにゼロの者だ。実は僕もそうだ。ゼロは世界に馴染んでいないし、極端にいうと、今の世界の理が通じないはずなんだよね。だからレベルという恩恵は得られないし、スキルも当然得られない。代わりに僕と同じく、別のレベルが発現しているはずだよ。僕は闇レベルだけどね。君はどうかな?」
なんと、まさかルゥナから聞いたことと、ほとんど同じことを聞くとは思いもよらなかった。
ただ俺は元から他のレベルはなかった。
短剣を得てから闇レベルが備わったので、代わりにというわけでもない。
俺の場合は、恐らく特殊な事例なのかも知れない。
勇者は続けていう。
「今の世界でレベルゼロの者だけ女神に抗えるし、女神が管理していないというよりは、できないダンジョンへ潜れる。そこは今この世界のルールとは異なり、別の世界とのつながりがあるようなんだ。現に僕の闇レベルはついに千を越えて、かなりの強スキルも手に入れた。施設内に展示している物も、管理していないダンジョンで手に入れた物なんだ。というわけで品々は君に託そう」
何か俺は、壮大な物に巻き込まれたといえるかもしれない。仲間を守るための力がますます欲しいし、より強くもなりたいと考えてしまう。
「最後に一つだけ伝えるとするならば、光翼を持つ種族がいたら安心してくれ、味方だよ。僕も驚いたんだけど、かぐや姫の一族が今の世界にいるんだ。何世代にもわたって子孫を残して、今の世界に抵抗している。元は月の民と呼ばれていたみたいだけどね。ただ、定期的に流刑人としても向こう側から、流されてくる者がいると言っていたね。だからかぐや姫が事実上たくさんいるよ。僕が世界にきたとき、一番はじめに助けてくれた種族が光翼をもつ者たちなんだ。唯一受け継いだ言葉がある。『汝光と共に生き、高みへはまた光と共にあらんことを』この言葉は高みに共に上る存在として、認められた者だけが持つ。だから僕からこの力を受け渡そう。今見てもらっている記録映像を通して、受けわたしができるんだ。ただし限定一名だけどね」
すると突然胸の奥に何か熱い物が全身を駆け巡るような何かを感じた。
まるで造影剤を入れられている感覚で全身の血管から熱さが滲み出して、内側から熱湯を流し込まれているようで苦しい。
同時に闇の力とは異なる別の力をどこか感じ取れもした。
「うまく送れているといいんだけどね。特定の空間に力を残していたから、うまくいけば体の内側が熱くなったはずだよ。もし、うまくいかなかったらごめん。その場合、力は君にはまだ早いから、もう少し成長してからくるといいよ。他の人が受け継いでいたら、この会話自体が再生されないようにしているから、見聞きできていれば問題ないよ」
何だか、この人の壮絶な生き様の一部を味わったような気がした。
相当苦しんで、準備してきたんだろう……。
「最後に、君の人生に幸あれといいたいところだけど、僕から贈れる物は戦いへの備えしかないんだよね。だから、少しでも有利になることを願っているよ。他にも同じ施設がいくつか各地に点在している。ぜひ探してみてほしい。一つの施設から得るものも大きいけど、一通り回って手に入れた方が安全かと思ってね。一箇所だけだどそこが何かしらの力で破壊されたら、手に入らなくなるからね。そのための用心さ。それじゃ本当に最後になるけど、元気で。あっ僕の名前を言っていなかったね。僕は九条鳥京也。東京出身だよ。それじゃ」
そういうと映像は消えた。
えっ? どういうことだ? 俺?
名前だけは同じだ。見た目は全然違うしただの偶然の一致なのか……。
俺は混乱しそうになるも、今えた情報を整理したいと思っていた。
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1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。
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良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
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侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
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アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
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