首長竜の子と猫

善奈美

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首長竜の子と猫

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 首長竜の子はお母さんに言われていました。
 
「地下と地上は水脈で繋がっているけれど、絶対に地上に行ってはいけないよ。地上には人間という恐ろしい種族が支配しているからね」
 
 首長竜の子はそんなお母さんの言葉がよく分かりません。何故なら、首長竜の子の世界は地下に広がる原初の森だからです。その森には澄んだ大きな湖があり、森があり、多くの古代の生き物がのんびりと暮らしています。危険な赤い河や湖もあるけれど、近付かなければ問題ありません。
 
 それは首長竜の子のちょっとした好奇心でした。お母さんの目を盗み、水脈を辿り、地上にある湖に行ってしまったのです。初めて見た青い空と白い雲。そよ吹く風。地上の湖は地下とは比べ物にならない程大きなものでした。
 
 地下世界より大きな木々が湖を取り囲んでいます。首長竜の子は楽しくなりました。頭の上から降り注ぐ強い光は、首長竜の子には初めての経験です。水中を泳ぐ魚達も、地下世界の子達より大きくはないけれど、気持ち良さそうに泳いでいます。でもね、気を付けて。
 
「早く地下にお帰り。人間に捕まってしまうよ」
 
 そう言ってきたのは、首長竜の子の隣を泳ぐ綺麗な銀の色の魚です。首長竜の子は首を傾げます。お母さんも言っていたけれど、人間とはそれ程大きくて、恐ろしい存在なのでしょうか。
 
「人間は君より小さいけれど、たくさんの道具を持っているんだ」
 
 首長竜の子はそんな魚達の忠告も聞かず、スイスイと泳いで行ってしまいます。見るもの全てが新鮮です。楽しくなり、陸地に近付いた首長竜の子は小さな生き物に目を止めます。頭には三角の耳。全身を毛に覆われたしなやかには歩いている生き物です。
 
「君達は何?」
 
 興味深々に首長竜の子は問い掛けます。いきなり声を掛けられ飛び上がったのは猫達です。声の方に顔を向けた猫達は驚きます。何故なら居てはならない首長竜がいるのですから。
 
「人間に見付かったら大変だよ」
「そうだよ」
 
 猫達にまで同じことを言われた首長竜の子は首を傾げます。
 
「地上を見て見たかったんだ」
「人間は地下の世界を知らないんだ。見付かったらお母さんにも会えなくなるよ」
 
 猫の言葉に首長竜の子は驚きます。お母さんにも会えなくなるなんて考えたこともなかったのです。
 
「だから、人間に見付かる前に地下に帰った方がいいよ」
 
 魚も猫達も同じ事を言うのです。嘘は言っていないでしょう。でも、首長竜の子はもう少し遊びたいのです。それを察した猫達は首長竜の子の背中に飛び乗ります。
 
「湖の真ん中まで連れて行って」
 
 猫達が背中に乗ってくれた事に首長竜の子は嬉しくなりました。猫達を背に乗せたまま湖の真ん中まで泳いで行きます。湖の中では魚達が首長竜の子に付き従うように泳いでいます。楽しい時間を過ごしていましたが、日が傾き始めていました。青空は茜色に染まっていたのです。
 
「あれほど地上に出てはいけないと注意していたのに悪い子ね」
 
 聞き慣れた声に顔を向ければ、そこには首長竜のお母さんがいました。猫達は首長竜のお母さんの背に跳び移ると、一匹が頭によじ登ります。
 
「人間には見付かっていないから大丈夫だよ」
 
 猫達は人間に見付からないように首長竜の子を湖の真ん中に誘ったのです。
 
「でも、もう地上に出て来てはいけないよ」
「今日は運が良かっただけだよ」
「お母さんの言う事は聞かないと」
 
 猫達に次々と諭され首長竜の子はシュンとします。危険だとは感じなかったからです。
 
「この子達の言う通りよ。さあ、帰りましょう」
 
 首長竜の子はどうしても納得できません。けれど、みんなの言うことが間違えているとも思っていません。
 
「もう、会えないの」
 
 首長竜の子は猫達に問い掛けます。
 
「今日が特別で奇跡だったんだよ」
 
 一匹の猫がそう言いました。そうすると、みんなが頷きます。首長竜の子はお母さんを見上げます。お母さんは小さく頷きました。首長竜の子は少し躊躇うと素直に頷きました。首長竜の子とお母さんは猫達を岸辺で下ろすとお礼を言います。首長竜の子は大きな宝物を胸に秘め、沢山の友達に見送られながら地下の世界帰って行きました。
 
 
終わり。
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