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世の中には厄介な体質の者が居る。それが王家だとはっきり言って面倒以外の何者でもない。そして、目の前にいる王太子殿下こそ、最大の厄介者だ。私は公爵令嬢レースリース、ルワン公爵家の三女である。そして、歳の頃が合うという理由で王太子殿下の婚約者となった。それは政治的な問題で、個人の感情など二の次。分かりきってはいたが、王太子殿下の特異体質が此処まで酷いとは考えていなかった。体質を抑える為の魔道具が全く機能していない。本当に頭が痛いとはこの事だ。国王夫妻も程々困り果てている。しかも本人に自覚がない為、どうする事も出来ない始末である。
「彼女達は私の側室にと望んでくれているんだ。勿論、認めてくれるよね?」
天性のタラシな上、この魅了体質。王家の者には多かれ少なかれ発現する能力らしいけど、此処まで強いといっそ、公害以外の何者でもない。アレクサンドル王太子殿下。能力は申し分ないのに、極度の女好き。異性に対してのだらしなさは、完全に魅了体質あってのことだと思う。見た目も王族なのですこぶる良く、大抵の令嬢はイチコロである。そんな中において、私は全くその魅了に感化されてはいない。それは我が家の特異能力のお陰なのだが、このアレクサンドル殿下はそれを知らない。当然、私も自分の魅力にノックアウトされていると考えている様だ。頭が痛いとはこの事である。
「申し訳ございませんが、私、それほど多くの側室を持たれると言うのであれば、婚約を取りやめる方向で調整したく思います」
にっこり微笑んで言い切ってしまいました。あ、これは不敬でしょうか。知った事ではありませんが。何せ、アレクサンドル殿下に侍っているのは令嬢だけではございません。年齢も上から下まで。よくもまあ、ここまで釣り上げたものです。しかも、女性だけではないのが問題点です。
「流石の国王陛下も認めないと思いますわ。しかも、ここに居るのは氷山の一角ですわよね? 一体、後宮にどれだけの愛人を囲うつもりですの? 側室だけで両手では足りず、女性の愛人、男性の愛人。しかも、侍女からメイド、下働きの者まで。数え上げたらキリがありませんわ。その全ての者を管理するなど願い下げです」
私は、ツンっと、顔を反らせた。別に誰を側室にしようが愛人にしようがどうでも良いのです。問題は人数です。目に見える者だけで、舞踏場が埋まるのではないでしょうか。しかも、既婚者まで巻き込んでしまっています。母は魅了に対して耐性がないので、今は父に監禁されております。下手をすると、アレクサンドル殿下の元に馳せ参じる勢いだとか。これは呪いではないでしょうか? 王家は一体、何に恨みを買ったのでしょう。そう言う勢いの厄介さですが、初代が元々、その能力を持っていたそうで。ですが、初代はきちんとコントロール出来ていたそう。アレクサンドル殿下にその能力は皆無。それであるにも関わらず、能力だけは天元突破してます。本当に厄介です。
「殿下。これは国王陛下からの伝言ですが、今日からお部屋が変わるそうですわ。此処に居る者達も一緒に連れて行っていいそうです」
「父上から。この部屋でも問題ないが」
「何か不都合があったと思われますわ。それでですね。私、国王陛下とルワン公爵、つまり父ですわね。許しを得ましたの。今日で婚約者の役目は終了ですわ。殿下はこの場にいる方全てと婚姻することを許されました。その関係で、この部屋を出る様に指示されたと私は推察しますわ」
一度魅了に掛かってしまうと、途轍もなく厄介なのです。魅了魔法にかかりやすくなる上、似た様な魔法なら簡単に掛かってしまいます。何とか解除しても、すぐ何処かしらから拾ってきてしまう。私の母も近い内に父と離縁されるでしょう。我が家の爵位は公爵です。耐性があるのは初代様の弟君が全く逆の能力の持ち主であったからです。それは、きちんと王家でも習うのですが、どうやらアレクサンドル殿下は綺麗さっぱり忘れている様ですが。国王陛下が用意したのはかなりの広さの離宮です。しかも、王家の森の中にあり、これ以上の被害者が出ない様に采配されました。アレクサンドル殿下の下には弟君がおりますが、こちらはほぼ、魅了の能力は皆無であるとか。不幸中の幸いです。
「須らく、移動を、どのご命令ですわ」
私は満面の笑みを浮かべました。やっと解放されるのです。
しかし、大変なことが発覚します。アレクサンドル殿下、ほぼ、既婚者の夫人を魅了に侵食していました。頭の痛い問題です。仕方なく、国王陛下は王家の秘密を魅了にかかった夫人の婚姻相手。つまり、爵位を持つ方々に説明したとか。浮気ではなく、魅了体質を持つ王家の問題であり、いつもの対応が、元王太子殿下には全く通用しなかった事。その結果であり、婚姻相手の貴族家に慰謝料請求はしない事。魅了にかかった夫人や令嬢は元王太子殿下が幽閉される離宮で引き取る旨を通達。それに掛かる費用は勿論、王家持ちです。
アレクサンドル殿下の毒牙に掛かっていないのは、近くに侍ることがなかった下級から中級の貴族。いくら魅了の能力があっても、近くに居なくては掛かりませんもの。後は社交デビュー前の令息令嬢です。貴族家当主になるとありとあらゆるものを跳ね返す魔道具を身に付けています。仕事モードである場合、気持ちの問題なのか掛かりにくい傾向にあるとか。つまり、魅了にかかった者はそれなりの野心を持っていた可能性があります。しかし、しかしです。アレクサンドル殿下の魅了体質の前ではその野心が逆に仇になった形ですね。
「リース、お疲れ」
「お兄様、私、本当に本当に疲れました。殿下のあの体質、公害レベルですわ」
長男で次期公爵の兄は憐憫の視線を向けてきます。そう思うなら、私に癒しをください。そう、甘いものに限ります!
「殿下のあの体質は。まあ、リースは逆にその殿下すら跳ね除けるレベルの体質だからね」
お兄様、苦笑いしないで下さいまし。私は三女、つまり、上に二人お姉様がおりますが、殿下の魅了には掛からないまでも、気分が悪くなるのだとか。殿下の魅了は毒か何かなのでしょうか。
「私、王家との婚姻は今後一切、公爵家は遠慮した方がいいと思います。何人の公爵家の令嬢が嫁ぎ、この血を王家に入れようと、逆に魅了体質が悪化しているのでは? そう思ってしまいましたわっ」
思うに反発しているのではないでしょうか。初代王様兄弟は仲が良かったと言いますが、体質だけはどうにもならなかったと我が家では伝わっています。
「それについては父上と話し合ってみるよ。リースの意見は無視出来ないからね」
「そうなさって下さいませ。あの、自分の魅力にメロメロ、んん、引っかからない。これも違いますわ。イチコロ、違いますわ」
私、両手で頬を押さえました。でもお兄様は言いたいことを理解してくれました。
「あ……、リースは殿下にコロっとは行かないだろうね。色んな意味で」
「そうですわ!!」
この、殿下の魅了体質騒動。実はこの後から王家の魅了体質が改善され始めました。どうも、アレクサンドル殿下は王家の魅了体質の全てを背負われてしまったようです。それはそれで、お気の毒でしたが。そして、私と言えば……。
「嫌です」
「リース、嫁がないつもりか?」
父と婚姻について争っております。あの殿下を押し付けたのですから、我儘くらい言っていいと思うのです。
終わり
「彼女達は私の側室にと望んでくれているんだ。勿論、認めてくれるよね?」
天性のタラシな上、この魅了体質。王家の者には多かれ少なかれ発現する能力らしいけど、此処まで強いといっそ、公害以外の何者でもない。アレクサンドル王太子殿下。能力は申し分ないのに、極度の女好き。異性に対してのだらしなさは、完全に魅了体質あってのことだと思う。見た目も王族なのですこぶる良く、大抵の令嬢はイチコロである。そんな中において、私は全くその魅了に感化されてはいない。それは我が家の特異能力のお陰なのだが、このアレクサンドル殿下はそれを知らない。当然、私も自分の魅力にノックアウトされていると考えている様だ。頭が痛いとはこの事である。
「申し訳ございませんが、私、それほど多くの側室を持たれると言うのであれば、婚約を取りやめる方向で調整したく思います」
にっこり微笑んで言い切ってしまいました。あ、これは不敬でしょうか。知った事ではありませんが。何せ、アレクサンドル殿下に侍っているのは令嬢だけではございません。年齢も上から下まで。よくもまあ、ここまで釣り上げたものです。しかも、女性だけではないのが問題点です。
「流石の国王陛下も認めないと思いますわ。しかも、ここに居るのは氷山の一角ですわよね? 一体、後宮にどれだけの愛人を囲うつもりですの? 側室だけで両手では足りず、女性の愛人、男性の愛人。しかも、侍女からメイド、下働きの者まで。数え上げたらキリがありませんわ。その全ての者を管理するなど願い下げです」
私は、ツンっと、顔を反らせた。別に誰を側室にしようが愛人にしようがどうでも良いのです。問題は人数です。目に見える者だけで、舞踏場が埋まるのではないでしょうか。しかも、既婚者まで巻き込んでしまっています。母は魅了に対して耐性がないので、今は父に監禁されております。下手をすると、アレクサンドル殿下の元に馳せ参じる勢いだとか。これは呪いではないでしょうか? 王家は一体、何に恨みを買ったのでしょう。そう言う勢いの厄介さですが、初代が元々、その能力を持っていたそうで。ですが、初代はきちんとコントロール出来ていたそう。アレクサンドル殿下にその能力は皆無。それであるにも関わらず、能力だけは天元突破してます。本当に厄介です。
「殿下。これは国王陛下からの伝言ですが、今日からお部屋が変わるそうですわ。此処に居る者達も一緒に連れて行っていいそうです」
「父上から。この部屋でも問題ないが」
「何か不都合があったと思われますわ。それでですね。私、国王陛下とルワン公爵、つまり父ですわね。許しを得ましたの。今日で婚約者の役目は終了ですわ。殿下はこの場にいる方全てと婚姻することを許されました。その関係で、この部屋を出る様に指示されたと私は推察しますわ」
一度魅了に掛かってしまうと、途轍もなく厄介なのです。魅了魔法にかかりやすくなる上、似た様な魔法なら簡単に掛かってしまいます。何とか解除しても、すぐ何処かしらから拾ってきてしまう。私の母も近い内に父と離縁されるでしょう。我が家の爵位は公爵です。耐性があるのは初代様の弟君が全く逆の能力の持ち主であったからです。それは、きちんと王家でも習うのですが、どうやらアレクサンドル殿下は綺麗さっぱり忘れている様ですが。国王陛下が用意したのはかなりの広さの離宮です。しかも、王家の森の中にあり、これ以上の被害者が出ない様に采配されました。アレクサンドル殿下の下には弟君がおりますが、こちらはほぼ、魅了の能力は皆無であるとか。不幸中の幸いです。
「須らく、移動を、どのご命令ですわ」
私は満面の笑みを浮かべました。やっと解放されるのです。
しかし、大変なことが発覚します。アレクサンドル殿下、ほぼ、既婚者の夫人を魅了に侵食していました。頭の痛い問題です。仕方なく、国王陛下は王家の秘密を魅了にかかった夫人の婚姻相手。つまり、爵位を持つ方々に説明したとか。浮気ではなく、魅了体質を持つ王家の問題であり、いつもの対応が、元王太子殿下には全く通用しなかった事。その結果であり、婚姻相手の貴族家に慰謝料請求はしない事。魅了にかかった夫人や令嬢は元王太子殿下が幽閉される離宮で引き取る旨を通達。それに掛かる費用は勿論、王家持ちです。
アレクサンドル殿下の毒牙に掛かっていないのは、近くに侍ることがなかった下級から中級の貴族。いくら魅了の能力があっても、近くに居なくては掛かりませんもの。後は社交デビュー前の令息令嬢です。貴族家当主になるとありとあらゆるものを跳ね返す魔道具を身に付けています。仕事モードである場合、気持ちの問題なのか掛かりにくい傾向にあるとか。つまり、魅了にかかった者はそれなりの野心を持っていた可能性があります。しかし、しかしです。アレクサンドル殿下の魅了体質の前ではその野心が逆に仇になった形ですね。
「リース、お疲れ」
「お兄様、私、本当に本当に疲れました。殿下のあの体質、公害レベルですわ」
長男で次期公爵の兄は憐憫の視線を向けてきます。そう思うなら、私に癒しをください。そう、甘いものに限ります!
「殿下のあの体質は。まあ、リースは逆にその殿下すら跳ね除けるレベルの体質だからね」
お兄様、苦笑いしないで下さいまし。私は三女、つまり、上に二人お姉様がおりますが、殿下の魅了には掛からないまでも、気分が悪くなるのだとか。殿下の魅了は毒か何かなのでしょうか。
「私、王家との婚姻は今後一切、公爵家は遠慮した方がいいと思います。何人の公爵家の令嬢が嫁ぎ、この血を王家に入れようと、逆に魅了体質が悪化しているのでは? そう思ってしまいましたわっ」
思うに反発しているのではないでしょうか。初代王様兄弟は仲が良かったと言いますが、体質だけはどうにもならなかったと我が家では伝わっています。
「それについては父上と話し合ってみるよ。リースの意見は無視出来ないからね」
「そうなさって下さいませ。あの、自分の魅力にメロメロ、んん、引っかからない。これも違いますわ。イチコロ、違いますわ」
私、両手で頬を押さえました。でもお兄様は言いたいことを理解してくれました。
「あ……、リースは殿下にコロっとは行かないだろうね。色んな意味で」
「そうですわ!!」
この、殿下の魅了体質騒動。実はこの後から王家の魅了体質が改善され始めました。どうも、アレクサンドル殿下は王家の魅了体質の全てを背負われてしまったようです。それはそれで、お気の毒でしたが。そして、私と言えば……。
「嫌です」
「リース、嫁がないつもりか?」
父と婚姻について争っております。あの殿下を押し付けたのですから、我儘くらい言っていいと思うのです。
終わり
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