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風花 壱
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今年も雪が降る。
冷たく、けれど、空と大地の間を白い妖精が埋める。凛とした空気が肌を刺す。
花也は一人、外を眺めていた。まだ、裳着すらしていない十五歳になる花也は寂しげだった。
生まれたときより父親に知らされる事なく母親と共に尼寺に来た。双子の兄は元服し、立派に勤めを果たしているが、妹の存在を彼は知らなかった。
花也は大人になれない。いくつ年を重ねても、少女のままこの尼寺で一生を終える。いくつもの季節を数え、外の世界すら知らず花也の時は流れていく。
「一度でいいの。物語のような恋をしてみたい」
小さく呟かれた言葉は雪に吸収されるように、儚く消えていく。白い息がただ存在し、花也はうなだれた。
そこにあるのは孤独だけだった。
突然の音に花也は驚き、薄闇の庭に目を向けた。 月明かりすらない場所に、くっきりと人の足が見えた。
あまりの事に驚き、花也は思わず身を引いた。そこには誰もいる筈がなかった。いてはならなかった。
尼寺の中でも一番、奥まった場所である花也の住まいは秘密にされていた。花也の存在は隠されていたのだ。
双子は禁忌とされている。
「誰」
花也は勇気を振り絞り、問い掛けた。その声は震えている。
「お前こそ、誰だ」
声は若々しく、身に着けている直衣のしつらえも立派なものだった。
「私は」
花也は言葉に詰まった。何故なら、外の世界の者との接触は禁じられていたからだ。
「お前が何者でもかまわない。休ませてほしい」
言葉は切れ切れになり、最後の方は聞き取るのが困難だった。
よく見れば、幼い雪の上に、赤い椿が舞っていた。花也は思わず裸足のまま飛び出していた。薄く雪が降りつもった大地は、花也の足を冷たく冷やした。
それでも、花也は飛び出さずにはいられなかった。
赤い椿は血。
新雪を赤く染め、彼は大地に倒れようとしていた。花也は出来る限り早く走り、彼をなんとか受け止める。
何とか受け止めはしたものの、花也の力ではどうすることも出来なかった。
「もし」
か細い声で花也は問い掛けた。彼は少し身じろぎし、花也を視界におさめた。
「お前は」
花也は少し息を飲む。
この出逢いが花也の運命の歯車を動かす。小さな出逢いは、花也を大きな波に誘い、飲み込もうとしていた。
冷たく、けれど、空と大地の間を白い妖精が埋める。凛とした空気が肌を刺す。
花也は一人、外を眺めていた。まだ、裳着すらしていない十五歳になる花也は寂しげだった。
生まれたときより父親に知らされる事なく母親と共に尼寺に来た。双子の兄は元服し、立派に勤めを果たしているが、妹の存在を彼は知らなかった。
花也は大人になれない。いくつ年を重ねても、少女のままこの尼寺で一生を終える。いくつもの季節を数え、外の世界すら知らず花也の時は流れていく。
「一度でいいの。物語のような恋をしてみたい」
小さく呟かれた言葉は雪に吸収されるように、儚く消えていく。白い息がただ存在し、花也はうなだれた。
そこにあるのは孤独だけだった。
突然の音に花也は驚き、薄闇の庭に目を向けた。 月明かりすらない場所に、くっきりと人の足が見えた。
あまりの事に驚き、花也は思わず身を引いた。そこには誰もいる筈がなかった。いてはならなかった。
尼寺の中でも一番、奥まった場所である花也の住まいは秘密にされていた。花也の存在は隠されていたのだ。
双子は禁忌とされている。
「誰」
花也は勇気を振り絞り、問い掛けた。その声は震えている。
「お前こそ、誰だ」
声は若々しく、身に着けている直衣のしつらえも立派なものだった。
「私は」
花也は言葉に詰まった。何故なら、外の世界の者との接触は禁じられていたからだ。
「お前が何者でもかまわない。休ませてほしい」
言葉は切れ切れになり、最後の方は聞き取るのが困難だった。
よく見れば、幼い雪の上に、赤い椿が舞っていた。花也は思わず裸足のまま飛び出していた。薄く雪が降りつもった大地は、花也の足を冷たく冷やした。
それでも、花也は飛び出さずにはいられなかった。
赤い椿は血。
新雪を赤く染め、彼は大地に倒れようとしていた。花也は出来る限り早く走り、彼をなんとか受け止める。
何とか受け止めはしたものの、花也の力ではどうすることも出来なかった。
「もし」
か細い声で花也は問い掛けた。彼は少し身じろぎし、花也を視界におさめた。
「お前は」
花也は少し息を飲む。
この出逢いが花也の運命の歯車を動かす。小さな出逢いは、花也を大きな波に誘い、飲み込もうとしていた。
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