後の祭りの後で

SF

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中編

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勝也は目を見開いて瞬きした。それから胡乱な目つきで
「まあ、そうした方が都合がいいわな」
と鼻を鳴らし笑った。やっぱりただの噂か。しかしなんだその引っかかる言い方は。
「お前俺が幽霊だとでも思ったのか?」
「ガキがからかってるだけだと思った。本当のところはどうなんだよ」
「さあな」
 勝也は悪戯を思いついた時のようにニヤリとした。そんな表情まで昔のままだ。
 確かに勝也そのものなんだが、どこか自分の思い出を俯瞰しているような、遠くから眺めているだけなような気もする。
 だから、ついうっかり口に出ちまった。コイツに対して思っていたことが。
「俺は、勝也が来なくなって、結構寂しかったんだぜ」
   勝也はハッと目を見開いて、照れくさそうに口を引き結んだ。
「やっぱり言っときゃよかった」
と勝也はぼそりと呟く。なにがだと聞こうと口を開いたが、ここで、本部のテントが見えてきた。
「どうする?」
    勝也を見れば、行かないと首を振る。まあそうだわな。
「ここらでお開きにするか。悪かったな、店あんのに」
「どこ行くってんだよ」
「お袋の実家行ってみる」
「そうか、じゃあ送るわ」
「いいって」
「店片付けてくるから本部で待ってな。勝也の親戚っつっとく」
 本部のテントまで手を引いていこうとするが、勝也の腕はぴんと張った。手を軽く引くが、足を踏ん張り進もうとしない。
 勝也は俺の手を振り払った。ラムネの瓶が石畳に落ちて割れ、ケバブのカップが地面に転がった。
 勝也は境内に続く階段に飛び込む。立ち入り禁止の札がかかったロープをいとも簡単に乗り越え階段を駆け上がっていく。
 俺はロープに足を引っ掛けながら鳥居をくぐり、よたよたと階段に足をかける。
 クソッ、ちょっと早足で登ったくらいで息が切れる。歳はとりたくないもんだ。
「勝也!」
「着いてくんな!」
 勝也の背中はどんどん離れていく。重い足と腰を引きずりながら追いかけた。
「待てよ!なんで逃げんだ!」
 勝也は不意に振り返り、俺を突き飛ばす。けれども、その衝撃は伝わらなかった。勝也の腕は、俺の胸をすり抜けていた。
「勝也、お前・・・」
「うるせえ!帰れ!」
 勝也は蹴りを入れるが、それも俺の脚を素通りする。
「なんでだよ・・・今じゃねえってのに・・・」
 勝也は奥歯を噛み締め、眉間にこれでもかと皺を寄せる。
 俺は、黙って境内に向かった。勝也の行こうとしていた方向へ。何かわかるかもしれない。
「やめろ!行くな!」
 勝也の手や声が俺を引き止めようとするが、無視して突き進む。
「道雄!よせ!見るな!」
 階段を登った先の鳥居をくぐり、境内に足を踏み入れる。誰もいない。もう夜中だってのに蝉の鳴き声が聞こえる。勝也の喚く声も同じくらいうるさい。
 拝殿に提灯がかかっていて、黄色い月が二つぶら下がっているようだった。その灯りが、土についた跡を浮かび上がらせる。何かを引きずったような跡だ。それを辿って本殿の裏に行けばーーー
人が、俺と同じくらいの年頃の男が、腹から血を流し倒れていた。
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