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《第3期》 ‐勇者に捧げる咆哮‐
『早朝の電話』 8/8
しおりを挟む携帯が六時半のアラームを鳴らしていた。音を止め、ひづりはカーテンの隙間から漏れる太陽光に照らされてきらきらと光っている埃などをしばらく眺めた後、「あぁそうだ、今日は早めに用意をして出ないといけないんだった」と思い出して体を起こし、のそりとベッドを降りた。
部屋を出てトイレに入り、昨日は楽しかったな、そうそう凍原坂さんにお礼の電話をしておかないと、と少しずつ頭を目覚めさせ、それからリビングへと向かった。
「────じゃあ、それが原因で……? ……そう、だったんですか……。何と言っていいか……。葬儀社への連絡は……? そうですか、会社の方が……」
半開きになっているリビングの扉の前まで来たところで、父の、どうやら電話中らしい声が聞こえて来た。
そうぎ……葬儀……? ひづりはリビングの蛍光灯に目を細めながらそのまま戸を引いて中に入った。
父はこちらに背を向けた格好で窓の近くに立っており、スマートフォンを片手にやはり誰かと通話をしていた。その話している内容から「父の会社の誰かに身内の不幸でもあったのだろうか……?」とひづりはぼんやり想像した。
「おはよう……?」
電話の邪魔にならない程度の声でひづりが挨拶をすると、父は驚いたように振り返って大きく眼を見開いた。ひづりは首を傾げた。
「ひづり……。あっ、ええ、今、起きて来ました。ひづりには私から……。……え? けど……。…………そうですか。では、代わります」
父は戸惑い気味に通話相手と言葉を交わすと、俄に神妙な顔をしてひづりの方を見た。
「ひづり。落ち着いて、いいかい、落ち着いて……。千登勢ちゃんからだよ……」
そしてそばまで来るとそんな要領を得ない事を言いながら自身の携帯をそっとひづりに手渡した。
千登勢さんから? こんな早くにどうしたのだろう……? と思いながら受け取ったスマートフォンに表示されている『花札千登勢ちゃん』の名前を見下ろしたところで、ひづりはハッとした。
隣の父の顔をもう一度見上げた。四ヶ月前にも彼がこんな顔をしていたのをひづりは思い出していた。
「…………え?」
冗談でしょう、とひづりはちょっとおどけて見せたが、父の表情は変わらなかった。
ひづりは再び、繋がったままのスマートフォンを見下ろした。段々と先端から冷えて痺れたようになっていく手足の感覚に、ひづりは震える息で小さく深呼吸した。
「…………もしもし、千登勢さん……?」
ひづりは通話に出た。恐らく寝起きだけが理由ではない不愉快な渇きが口の中にあった。
『ひづりちゃん……。おはようございます。ごめんなさい、朝早くに……』
千登勢の口ぶりは普段以上に静かで落ち着いたものだったが、しかしその声はひどく嗄れていた。
「どうか、したんですか」
電話の向こうの千登勢は少しばかり沈黙した後、ひづりの問いに答えた。
『……父が昨夜、亡くなりました』
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