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《第3期》 ‐勇者に捧げる咆哮‐
『不穏の影』
しおりを挟む「知らん!!」
凍原坂や《火庫》が何を言う間も無く、《フラウ》は大声でそう答えた。
「……………………」
ひづりは無言のままゆっくりと畳の上に横たわった。
「ひ、ひづりさん!? どうしました!?」
「いえ……緊張が一気に解けて……お気になさらず……」
にわかに立ち上がり慌てた様子で机に体を乗り出した凍原坂に、ひづりは目元を押さえながら気だるく返事を投げた。
……そっかぁ……。会ってなかったかぁ……。……うん、《フラウ》ちゃんが天井花さんと戦うことにならなくて良かったです、はい。それは、心の底からそう思ってるので、良いのです……。
「ひづり。気持ちは分かるがしっかりせよ」
「はい……」
付き合いの長い好敵手(ライバル)の手前、格好悪いところは見せたくないのだろう、天井花イナリは強めにひづりを叱った。体を起こし、ひづりはもう一度ちゃんと正座をした。
「しかし《ボティス》、その質問はつまるところ、《ナベリウス》がこっちに来ておる、ということか? あやつは《門番》であろう? そんな事があるのか?」
すると《フラウ》は天井花イナリの眼を見つめ、やけに知的な面持ちで訊ねた。以前、岩国の白蛇神社で《ベリアル》と対峙した時に見せた《悪魔の王》らしい雰囲気がそこにはあり、どうやら彼女にとって思い出深い相手の名前が出たことで今、そのスイッチがオンになったようだった。
天井花イナリは着物の袖を組み、一つ息を吐いてから答えた。
「わしもその疑問は抱いた。あやつが《ソロモンの指輪》も無く《人間界》に召喚されるなぞ、あまりに信じ難く、現実味がない。他の者が言うたなら笑い飛ばすところじゃ。しかし、ひづりの事を気に入っておった《グラシャ・ラボラス》がそう言い残して行ったのじゃ。柄にも無く、わしに対して、今後の《天界》の出方に関する推察までこんこんと話しての。本当にこの現代の《人間界》に《ナベリウス》が居るかどうかは、わしもお主も見ておらん以上まだ何とも言えんが、しかしあやつを味方につける事が叶えば《天界》連中もよほど命知らずでなければ攻め込んでは来ない……それが《グラシャ・ラボラス》のあの時点で考え得る最善の防御手段、という事だったのであろう。なら冗談の類と切り捨てる訳にもいくまい。して、どうじゃ、もう一度問うが」
ちらり、と天井花イナリはひづりに視線を送った。《フラウロス王》に頼み事をする、そのデメリット。支払わねばならない相応の対価。「覚悟は出来ているか」、という眼差しだった。
ひづりが無言で頷き返すと、天井花イナリは改めて《フラウ》に訊ねた。
「《フラウロス》。《ナベリウス》と会っておらずとも、何かその痕跡じゃとか、名残じゃとか、それっぽいものを見た、といった事はなかったか。何でも良いのじゃ。わしはその情報が欲しい」
《フラウ》は数秒、考え込むように眉根を寄せていた。そんな彼女の小さな横顔を凍原坂は隣で息を呑んで見つめていた。
やがて長い睫毛の伸びる両の瞼を上げると、《フラウ》はまた子供っぽくも厳かな声音で答えた。
「……むう、分からんな。忘れておるだけかもしれんが、少なくとも《人間界(こっち)》であやつの事を考えた事は、ここ数年、無かったように思うぞ。…………だが」
少々肩を落とし眼を伏せた天井花イナリに、《フラウ》はにわかに眼を細めて続けた。
「にゃはん。良いことを聞いたな。こっちに《ナベリウス》が居るとは、わっちもそれは喜ばしい。あやつとはわっちも会うのは久しぶりだ。どちらが上か、改めて勝負をするのも良い。それに、それにだ、《ボティス》。わっちが先にあやつを見つければ、その情報を貴様は買わざるを得ない、と言うのだな? 貴様、最近いつもわっちを相手に手を抜いているだろう? だが《ナベリウス》の居場所、という情報を持ってくれば、貴様に本気を出させる事が出来る……。そういうことだな?」
ぎらりと輝く彼女の縦割れの瞳孔が焼き焦がす程に鋭く天井花イナリを睨みつけていた。
言葉も無くひづりは二人の《悪魔の王》の顔を見比べた。ラウラが去った翌日天井花イナリが語った様に、やはり《フラウ》は情報の交換条件として、天井花イナリとの本気の決闘を申し出て来た。予想していた通りではあったが、それでもひづりは嫌な具合に心臓が縮こまる想いだった。
「その通りじゃ《フラウロス》。お主が先に《ナベリウス》を見つけ、その情報をわしに寄越したなら、数十年ぶり、お主の望むまま、本気でやり合うてやる」
妖しく挑発的な笑みを返した天井花イナリに、《フラウ》は一段とその眼を大きく見開いてにやりと口角を吊り上げた。
「にゃふふはは! その言葉ぁ、忘れるなよ《ボティス》。にゃふ、にゃふふ……!」
《フラウ》は《角》の先端に燃える紫苑の炎をぼうぼうと膨らませ、その体からは《悪魔》特有の黒い影を滲ませながら、愉快に豪快に、そんな笑い声を上げた。
「……あの、質問をしても良いでしょうか」
するとおもむろに控えめな声で凍原坂が二人の《王》の間に声を置いた。
「なんじゃ」
ふいと《フラウ》から視線を外し、天井花イナリは彼に発言を促した。凍原坂は微かに肩をぴくりと揺らしたが、一度喉を整えるとすぐに問うた。
「その《ナベリウス》……という《悪魔》は、見た目ですぐに分かるものなのでしょうか? 私や《火庫》でも、見ただけでそれを《ナベリウス王》だ、と判別出来るのでしょうか?」
ひづりの方にちらりと視線を向け、それから改めて天井花イナリに向き直ると彼は続けた。
「《フラウ》……《フラウロス王》と天井花さんの間にあるものに、その約束に、私は口出し出来ません。ですが私はやはり、拒否されない限り、万里子さんのお子さんであるひづりさん達のお手伝いをさせて頂きたい、と思っています。特に、そのお探しになっている《ナベリウス王》を見つける事に成功し、味方に出来れば、あの岩国でのような出来事を未然に防げる、というのであれば、尚更私たちにも手伝わせて頂きたいのです」
彼のその面持ちは、初めて店に来た時、官舎万里子との思い出をひづりたちに打ち明けた際のものとよく似ていた。
真面目で、心配になるくらい純粋で真っ直ぐな、善意から来る協力の申請だった。
それをひづりは意外とは思わなかった。むしろ、この話をすればきっと彼はこう言うのだろう、という確信すらあった。
官舎万里子に恩を感じている彼は、その娘である官舎ひづりの身に危険が降りかかると知って、何もしない、という判断はしないのだろう、と。そしてその協力申請は自分達にとってももちろん非常に有り難いものだ。
だが、最初に天井花イナリが前置きしたように、これはひづりたち《和菓子屋たぬきつね》の問題であって、凍原坂家の問題ではないのだ。《ベリアル》の時は巻き込んでしまったし、《ナベリウス》の情報も欲しい。けれどひづりとしては、彼ら一家には平穏に、普通の親子として過ごしてもらいたい、という気持ちの方が勝るのだ。母への恩というなら、それはもっと安全な他の事で返してもらいたい。
それに。
「凍原坂よ。その申し出はありがたい。しかし残念じゃが、お主らにそれは難しい」
綺麗に背筋を伸ばしたまま天井花イナリは粛々と答えた。
「お主ら人間と《妖怪》が、知己でない《悪魔》を、《悪魔》である、と見分ける方法は二つしかない。一つは、今の《フラウロス》の様に体から《魔力》が漏れ出た時。そしてもう一つは、近くに居るであろう《契約者》が《魔術》を使った時。それだけじゃ」
これまで判明している事柄から考えれば、確かにそうなのだ。
ひづりや凍原坂は《悪魔》と《契約》の関係にある。だから《認識阻害魔術》でいくら誤魔化されていようと、その《契約者の眼》は《悪魔》の姿を正しく視認する事が出来る。
しかしラウラの様に、《契約内容》のためにその体を人間の少女の物へと物理的に変化させられてしまっていた場合、判別のしようがない。加えて東京の街では奇抜な姿をしている人間が多く、《ナベリウス》ももしラウラと同じく《契約内容》によって人間とほとんど大差のない姿に変化させられていたら、ちょっと角が生えているとか、動物の耳が生えているといった程度の外見情報は、あまり特定の当てにはならない。
また、《悪魔》の体から漏れ出す《黒い影》にしてもそうだ。天井花イナリ曰く、あれは人間がストレスを感じた際に胃液が過剰に分泌されるのと似た現象らしく、《魔族》も怒りや闘争心によって昂るとその体内で急速に《魔力》が精製され、あのような《焦げ》として発露するのだという。
《悪魔》かそうでないかを見分ける手段としてこの《魔力の焦げ》は一番分かりやすいが、しかし逆に言えばこれが生じていない限り、普段《魔族》の体から《魔力》は漏れ出たりしないため、やはり判別の材料にするには難しいという。
そして《ナベリウス》を召喚したであろう《契約者》が《魔術》を用いている所を観測する、というそれもとても現実的ではない。そもそも《魔術師》は人前でそうそう《魔術》と分かる行為を見せたりしないし、こちらも《悪魔》同様、何もしていなければ普通の人間と同じなのだ。それに百合川のような例もある。もし《ナベリウス》が《願望召喚》でこちらに来ているなら、《契約者》は《魔術師》ですらない可能性だってある。
だから先ほどから天井花イナリは《フラウ》にだけ訊ねているのだ。《ボティス王》も《グラシャ・ラボラス王》も《フラウロス王》も、その《ナベリウス王》の顔を知っているから。
天井花イナリは《フラウ》が初めて店に来た際、すぐに知己である《フラウロス王》だと気づかなかったが、しかし頭身がかなり減っているとは言えその顔立ちに覚えがあったから、少し話しただけで彼女だと判ずるに至った。
ラウラもそうだ。《未来と現在と過去が見える力》でひづりの周りを見ていた天井花イナリは、そこへ《グラシャ・ラボラス》そっくりの人間を見つけ、そこでラウラ・グラーシャが《悪魔》であると気づいた。
平時で《ナベリウス》を《ナベリウス》だと見つけられるのは、どうしても同じ《悪魔の王》、顔見知りでなくてはならない。残念ながらひづりにも凍原坂にも、それは叶わないことだった。
「そう……ですか……」
説明を受けると凍原坂は視線と肩を落とし、小さくなってしまった。
「気を落とさないで下さい。お気持ちは本当にありがたいですよ」
「そうだぞとーげんざか。貴様、この《ボティスの契約者》に恩があるとかなんとか言うが、そんなもの、この間の……あれだ、海が見渡せた旅行の時に充分に返しただろう。あの時わっちらが居なければ、間違いなくこやつらは今頃墓の中だったのだからな!」
丸くなった凍原坂の背中をぱしぱし叩きながら《フラウ》は得意げに笑って見せた。
彼女の言う通りだった。《ベリアル》の奇襲によってちよこの肩にあった《契約印》が破壊され、天井花イナリと和鼓たぬこが一時的ながら強制的に《人間界》から退去させられ、無防備のまま轢き殺されそうになっていたひづり達を救ったのは、他でもない《フラウ》と《火庫》だった。そして凍原坂も《治癒魔術》でちよこの応急処置に励んでくれていた。二人の時間稼ぎがあったから、凍原坂の治療があったから、圧倒的にこちらが不利な襲撃を受けながらもあの日誰も命を落とさなかったという結果に届く事が叶ったのだ。
「そうですよ。凍原坂さんはあの時、この上ないくらい私たちのために充分な事をしてくれました。私を、姉さんとサトオさんを、千登勢さんと《ヒガンバナ》さんを、皆を護ってくれました。あの時のこと、私の方こそ、返せないくらいの恩を感じているんですよ」
母への恩というのが彼の中で一体どれほど大きいのか、それはひづりにとって量りきれるものではないが、それでもはやはり白蛇神社での彼らの行動は、充分に過ぎる程の行いとして恩返しを果たしていたはずなのだ。
「改めて、あの時は本当にありがとうございました」
ひづりが頭を下げると、凍原坂はにわかに顔を上げた。
「そんな、私は……。……あの時、私の我侭のせいで《フラウ》と《火庫》を命の危険に晒して……そのせいでひづりさんもあの《ベリアル》にひどい怪我を負わされて……。きっともっと良い方法があったはずなのです……」
左右の娘達の手をそっと握り、彼は悔恨の表情を浮かべてまたうつむいてしまった。
「おい。ひづりが良いと言うておるのじゃから、ちよこに金を騙し取られたでもあるまいに、そのような辛気臭い顔をするな。ひづりが言うた様に、あの時のお主の行動は最善であった。《ベリアル》もあれはあれで戦うという事に関してだけはボケておらん。お主が止めずとも、理性の飛んだ《フラウロス》は体力の配分を怠って敗北したじゃろうし、どの道ひづりはわしを《再召喚》し、《ベリアル》は死んだじゃろう。ただ、お主の行動のおかげで神社の下に居った参拝客共は死なずに済み、ちよこも今日ああして仕事が出来るまでに回復したのじゃ。それを誇れ、《フラウロスの契約者》よ。お主は恥ずべき行いなぞしておらん。それともお主は、わしや《フラウロス》の言葉より、己の謙虚さの方こそ大事と言うか?」
尊大に、まるで謳い上げる様に、そして少々不機嫌そうに天井花イナリは訊ねた。ただその攻撃色の強い言い回しも彼女自身が持つ優しさ由来であると凍原坂もいよいよ分かって来たのだろう、はっと我に返った様子で背筋を伸ばすとしっかり綺麗なお辞儀をした。
「失礼を致しました。天井花さんの、ひづりさんのおっしゃる通り、あの時あれ以上の行動は、きっと私には出来ませんでした」
「分かればよい」
ため息の後、天井花イナリは頬杖をついて物ぐさにそう返した。
これまでも感じていた事だが、凍原坂はどうにも真面目が過ぎるきらいがある。ひづりの母に対する恩にしてもそうだが、白蛇神社の一件も、彼は実のところこんな風に後悔を抱えていた。
彼には、天井花イナリのような叱り方をしてくれる人が必要なのではないか、とひづりはそんな事をぼんやりと思った。
「……あ、そうです。今日、お話しようと思っていた事が一つあったんです」
すると凍原坂は思い出した様に《フラウ》を振り返った。
「《交信》、を、してみるというのはどうでしょうか?」
やや脱線した思考に耽っていたひづりはそのあまり耳慣れない言葉に面食らった。
「ほう」
一方、天井花イナリはにわかに興味を持った様子で、話の続きを促す声を転がした。
凍原坂は左右に座る娘達の顔を見つつ、言った。
「《悪魔》は、《魔族》同士であれば《魔力》を用いた《交信》というのが出来る、と聞いています。《火庫》は元は《妖怪》ですが、今は《フラウ》の半身が混ざっているので……《フラウ》が行方不明になった時なんかに、よく《火庫》に《交信》を使ってもらって探すんです。それを、天井花さんとで、救難信号には使えませんか」
救難信号……? ひづりが首を傾げて聞いていると、察したのだろう、天井花イナリが振り返った。
「例えるなら、そうさの、モールス信号のようなものじゃ。ただ、会話らしい会話をするには互いにかなり接近しておらねばならん上、距離が遠くなればなるほど、携帯電話で言うところの『誰々から着信があった』程度のことしか分からんようになる。故にあまり使い勝手の良いものとは言えんが、しかし他に遠距離の連絡手段がない《魔界》では今も王国間のやりとりにはこの《交信》が用いられておるし、かつての大戦時も、軍団同士の情報共有はこれで補っておったと聞く。つまり凍原坂が言うておるのは、次に《天使共》がわしか《フラウロス》の元へ攻めて来た時、予め《交信》を緊急の合図として取り決めておけば、どちらも互いに《転移魔術》ですぐさま援護に駆けつけられる、そういう事であろう?」
天井花イナリの説明と指摘に、凍原坂は頷いた。
「おっしゃる通りです。《天使》たちは襲撃の日時も人数も自由に決められる……なら、せめて私たちは連携が取れるようにしておくべきではないか、と考えたのです」
なるほどそういうことか。理解に至り、ひづりもテーブルの上で組んだ両手に視線を落とした。
「《ナベリウス王》捜索のお手伝いは叶いませんが……こちらでしたら《フラウ》と《火庫》がきっとお役に立てると思います。……どうでしょうか?」
凍原坂が神妙な面持ちで問うと、天井花イナリは再びひづりの方を振り返って、それから特に何の感動もない表情と声で言った。
「それはわしではなく、ひづりに訊け。凍原坂。はっきりさせておくが、今回わしが《グラシャ・ラボラス》の一件をお主に教えたのも、《ナベリウス》の事を訊ねたのも、どちらもひづりのためじゃ。今後、お主と《フラウロス》が《天使共》に刺されるような事になろうが、そしてその原因がわしの持ち物であろうが、わしの知った事ではない。先ほどは《交信》の話をしたが、本来なら取り合わぬ話じゃ。《悪魔の王》同士が救援信号を送り合うなぞ冗談でも有り得ぬ。じゃが、お主らが死ぬ事をひづりは望んでおらん。じゃからわしは今、この話し合いをしておるのじゃ」
そう言っておもむろに彼女は畳を這い、そしてそばに来るなりひづりの頭をぎゅうと抱き寄せた。
「わしはひづりに報いねばならん。ひづりが凍原坂、《フラウロス》、《火庫》を護って欲しいと言うならわしは協力するし、必要なら頭も下げよう。故に今はっきりさせておく。この一件の決定権は全てひづりにある。確認や許可は全てひづりから取れ」
彼女の繊細な白髪に包まれながら、ひづりはちくりと痛んだ胸に触れ、小さく深呼吸をした。
彼女の暖かな手。一緒に生きていくと言ってくれた彼女の、その命を感じさせる温もり。
ひづりは、自分の覚悟がまだ甘かったことを自覚した。
知己とは言え、彼女達は互いに国を持つ《魔界の王様》だった。どんな窮地にあろうがそもそも助けなど請わない、そういうプライドの高い存在である。
天井花イナリが護るべきは、ひづりや和鼓たぬこといった《和菓子屋たぬきつね》の家族、それだけだ。そして《フラウ》が護るべきは、凍原坂と《火庫》だけ。本来ならそうあるべきなのだ。
だがひづりの「今後も凍原坂一家に危険が降り掛かるかもしれないなら、私はどうにかしたい。天井花さんにも協力してもらいたい」という願いを、天井花イナリは真っ直ぐに聞き入れてくれた。残念ながら現在足取りを掴むことは出来ていないが、彼の《ナベリウス王》の問題にしても、協力を仰ぐためなら頭だって下げると言ってくれた。
きっと彼女一人だったなら、正しい《ボティス王》としての有り様通り、誰にも助けなど求めなかったのだろう。どんな敵意を向けられようが、その穢れのない美しさと強さで剣を振るったのだろう。
彼女には感謝するしかない。まだ《魔術》に少し触れたばかりの無力な自分のために、彼女は《悪魔の王》としての矜持を捨て、信条を曲げてくれている。
そして凍原坂もそうなのだ。彼はきっと、今はもう母への恩だけでこうして店へ来てくれているのではない。やらねばならない、という彼なりの考えがあるのだろう。
《天界》からの襲撃は天井花イナリと官舎ひづりの問題として解決したい、というのがひづりの気持ちだった。凍原坂家を巻き込みたくない。しかし、現実的な戦力の問題として、自分は《魔術師》と名乗れるほどの力もなく、天井花イナリは母のせいでその本質を《天界側》の有利な《神性》に捻じ曲げられている。
《ナベリウス》の痕跡を追えない以上、結局自分たちはこの優しい一家に頼るしかないのだ。どんな風に願おうと、助かるためにはまた彼らを巻き込むしかない。
天井花イナリの誇りを曲げさせるのも、凍原坂家を巻き込むのも、全て官舎ひづりが自身のために願わねばならない事なのだ。
その決断を、自分はもう誰にも頼ることは出来ない。
天井花イナリの《期待》を背負う官舎ひづりは、それがどんな恥でも、我侭でも、外道でも、決めなくてはならない。
だから。
「拒否する理由はありません。よろしくお願いします」
ひづりは凍原坂とその娘たちに深々と頭を下げた。
「こちらこそ! よろしくお願いします!」
凍原坂もまた長机の向こうで姿勢を正し、ひづりと天井花イナリに頭を下げた。
《和菓子屋たぬきつね》と凍原坂家の正式な協力関係。少なくとも《天界》の思惑を把握し、その攻撃の意志が消滅したと分かるまで、途絶えさせる訳にはいかない双務契約。
もう引けない。天井花イナリの期待に応えるため、ラウラ・グラーシャとの約束を守るため、官舎ひづりは前に進んでいくしかない。
「──待て、《ボティス》」
その時、《フラウ》が俄に低い声を出した。ひづりも凍原坂も顔を上げ、彼女を見た。
ひづりはどきりとした。今、その顔にいつもの可愛らしい無邪気さは無く、代わりに酷く冷たい無表情が張り付いていた。
「わっちが《ナベリウス》を見つけたら、取り引きで貴様にその情報は譲ろう。それは良い。だが、とーげんざかが《天界》の連中に狙われるやもしれんから、貴様がわっちと共闘をする……? なんだそれは。何の冗談だ」
立ち上がり、彼女は天井花イナリを見下ろして返答を待つようにした。
小さな舌打ちがすぐ傍で聞こえ、見ると天井花イナリは眉根を寄せて《フラウ》を睨むようにしていた。
ひづりから手を離すと彼女も立ち上がり、長机を挟んで《フラウ》と見つめ合った。
「聞こえんかったか。わしは《契約者》の願いに応える、と言うたのじゃ」
「聞こえておったわ。そこのひづりがとーげんざかを思う故に、《ボティス》、貴様に協力せよと言うた、その用件も理解した。だが分からんな」
じろり、と、その見開かれた薄金色の瞳がひづりを睨みつけた。
「《ボティス》と共に《天使》と戦うのは構わん。だがひづり、貴様がとーげんざかの身を案じるというのは、一体どういうことだ? とーげんざかは《勇者》だ。わっちの《契約者》だ。それとも――」
それから彼女は隣の凍原坂へと視線を移し、問うた。
「それがとーげんざかの《条件》なのか? どうなのだ?」
《角》の先端で燃える炎をめらめらと盛らせながら、彼女はぴくりとも動かない顔で凍原坂を見下ろしていた。
《勇者》……? 《条件》……? 何のことかまるで分からず、しかしこれまで一度も見た事が無かったその凍原坂に対する《フラウ》の眼差しにひづりの心臓の鼓動はどくんどくんと速まり続けた。
「…………《フラウ》、私は──」
「わっちがこのお店で働きます」
その時、零された凍原坂の言葉を遮るように、鈴の音の様な、けれど芯のある力強い声が二人の間に割って入った。
畳部屋の視線が一度にそちらへ集まる。けれど声の主は何をするでもなく、自身の前に置かれたすっかり冷めている湯呑みをぼんやりと見つめていた。
《火庫》だった。畳部屋に上がってからの一時間弱、彼女はずっと凍原坂の隣で一言も喋らず、まるで置物の様に大人しく座っていた。それだけに、今その一言を置いた彼女に対して、部屋に居た誰もが嫌でもはっきりと意識を向けるに至っていた。
「か、《火庫》……? 今、何て言ったんだい……?」
そのうつむいた顔を覗き込むように凍原坂は身を屈めた。
彼女はおもむろに姿勢を正して凍原坂を振り返り、そして喉を整えると、言った。
「……凍原坂様。わっち、考えてみたのです。あれから《フラウ》、毎日のように訊いてくるではありませんか。今日は《ボティス》のところへ行かないのか、と。一体、どれほどこちらの白狐様を好いているのか……。元々落ち着きの無い子でしたが、最近はもう、こちら様に赴く様になってから、白狐様に会ってから、特に手が付けられなくなりました。わっち、相手をするのに疲れてしまいました」
視線を落とし、それから彼女はひづりを見て、今度は凍原坂越しに《フラウ》を見た。
「苛々しているのでしょう、《フラウ》は。白狐様の事が恋しくて、毎日でも逢いたいくらい……。なら、毎日店に居ればいいでしょう。それなら緊急の時、《交信》も《転移》も必要ありませんし……。それに《フラウ》は、白狐様と共闘するの、嫌ではないのでしょう……?」
その確かめるような質問に《フラウ》は無言のまま、けれど《火庫》を見下ろすその眼を細め、顎を少し上げた。
「……ですが、《フラウ》だけを店に預けておくのは、迷惑になりますでしょう。お仕事に忙しい身、白狐様も、いつも《フラウ》の相手をする訳にはいきませんでしょうから。ですから、わっちも《フラウ》の世話係兼、従業員という形で常駐させて頂きたい、と思っています。……今日まで見て来ましたが、フロアに手が足りていないのではないですか……? 和鼓さんは接客が出来ないそうですし、ちよこさんはそもそも働く気がなさそうです。フロア担当の働き手が必要なのではないですか? わっちは和菓子作りの経験などありませんが……フロアのお手伝いならきっとお役に立てると思います。……どうでしょうか、ひづり様?」
にわかにまたその視線がこちらへ向けられ、ひづりはつい肩を竦めた。
《火庫》ちゃんが、うちで働く……? しかも《フラウ》ちゃんと一緒に。
それは、それ自体は、こちら側としては非常に有り難い事だと言えた。二人が常に店に居て、《交信》の手間も省く事が出来るなら、いつ来るとも知れない《天界》からの襲撃時、被害をより抑えられる事だろう。
だが。
「で……でも、その場合、その間、凍原坂さんが一人きりになってしまうんじゃ……?」
話を聞く限り、《天界》が正々堂々と戦いを挑んでくるとはとても思えない。きっと《ベリアル》の時同様に平気で人質だって使ってくるはずなのだ。《フラウ》と《火庫》の護りが無い凍原坂は、それこそひづりと同じくらい脆弱なただの人間でしかない。彼が連れ去られたら、人質に取られでもしたら……。考えるだけで恐ろしい事だった。
そしてそれは《火庫》にとっても同じ……いや、ひづり以上に恐れていることのはずだが……。
「それに関しては問題ありません。普段から、凍原坂さまが大学でお仕事をしている間、わっちらは二人、家で留守番をしていますし、これで何かが変わるということはありません。それに《フラウ》がわっちと意識を合わせて本気を出せば、見える範囲、どこまでも燃やせます。きっと酷く疲れるでしょうが、それでも凍原坂様を人質に取ろうなんて輩、一瞬で炭に出来ます。ですからご心配は無用です」
彼女は淡々とそう返しただけだった。
「ま、待ってくれないか、《火庫》? どうしたんだい、どうしてそんな、急に……」
呆気にとられていた凍原坂がようやく口を開いた。その顔はひたすら困惑に満ちていて、もう自分がどこに居るのかも忘れている様な勢いだった。《火庫》の発言に、ほんの二ヶ月前に会ったばかりのひづりでも驚かされたのだから、十五年近く暮らしてきたという彼ならこの反応は当然と言えた。
《火庫》は、少なくともひづりが見て来た中で、いつも凍原坂春路の左隣に居た。そこ以外に居場所はない、そこ以外に居る価値はない、そこ以外に幸せはない。涼しげながら、彼女は常にそんな顔で凍原坂の隣に立っていた。また、何に対してもまるで関心がなく、唯一自主的に興味を抱くとすればファッションの事くらいだ、と凍原坂は以前話してくれていた。
そんな彼女が、《フラウ》が最近騒がしいから、自分達が《和菓子屋たぬきつね》に居れば緊急時に都合がよいから、なんて理由で……それも凍原坂がお願いしたというのならともかく、彼女は今、自分から歩み寄って来た。
彼女の事を少なからず知っている者なら驚かないはずがない事態なのだ。
凍原坂を見上げた彼女はフッと薄く笑った。
「凍原坂様。凍原坂様は、こちらのひづり様に恩をお返ししたいのでしょう? かつて万里子様に助けて頂いた、というご恩を。でしたら、今が、きっとその時だと思うのです。それに《天界》というのがもし今後何もして来ないのだとしても、こちらのお店様が人手を欲しているのは、代わらない事実のはずです」
ちら、とその藍色の瞳が再びひづりを見た。そうだろう? という眼差しだった。
彼女の態度には未だ引っかかるところばかりであったが、しかしそれに関してひづりには返す言葉が無かった。
彼女は見抜いているのだ。確かに現在の《和菓子屋たぬきつね》は、フロアの人手が足りていない。高い《魔性》を持つ《悪魔の王》であるが故か、その桁外れな体力で以って天井花イナリは営業中一度も汗を掻いたり疲弊した様子を見せないが、実際のところ彼女の業務内容というのはどう考えても人間の従業員では成立し得ない程の激務なのだ。
加えてひづりには、働き始めた時からそこにもう一つ、気にしていた事があった。
天井花イナリと和鼓たぬこが無賃労働させられていると知り、ひづりが働く決意を固めたあの時、その思考に至った要因の一つだったもの。……それは《慌しさ》だった。
天井花イナリがどれだけ優秀で、またその体力が人並み外れたものであったとしても、結局会話が出来る口唇は一つしか無いし、物を運べる手は二つ限りなのだ。七月を前にした酷夏の真っ只中、彼女は一時たりとも足を止めず、喉を休める間も無く接客をしていた。姉のせいでそうなっていたので天井花イナリを責めるのはお門違いなのだが、ただ《和菓子屋たぬきつね》は古風で落ち着いた雰囲気を持つ和風建築の和菓子屋故に、その定食屋や飲み屋の様な《慌しさ》は、はっきり言ってそぐわないものだった。
またそれだけ労働力として依存している以上、天井花イナリがもし体を壊して働けなくなった時、《和菓子屋たぬきつね》は間違いなく機能しなくなってしまう。今はひづりも大体の仕事内容を覚えこそしたが、それでもまだ天井花イナリの働き様からしてみれば補佐としては気休め程度でしかない。高校をやめ、《和菓子屋たぬきつね》で働くことにのみ時間を注げられればまた違うのかもしれないが、しかしそれを誰も望んでいない事はひづりもちゃんと理解している。
だがやはり考えると気を揉んでしまう。姉のちよこが無事退院して営業再開となった今日であるが、それだって細い綱渡りのようなものに違いないのだ。天井花イナリが居ないだけで、和鼓たぬこが居ないだけで、この店は立ち行かなくなってしまう。一応サトオが《和菓子屋たぬきつね》の常駐和菓子職人として戻って来れば和鼓たぬこの穴は埋まるのだろうが、天井花イナリの代わりというのは居ないのだ。彼女は間違いなく、毎日人間の従業員三人分以上の仕事をしている。
そして何よりひづりが一番恐れているのは、「そのとき姉が一体どう行動するのか」、だった。
吉備ちよこは二人の《悪魔》を無賃労働させる事で生じていた経理数値の誤差や課税を誤魔化すために、身内である実の妹を従業員として働かせる、という信じられないような手段を平気で採る女だった。いつか天井花イナリが働けないという事態になった時、今尚経費削減と言い張って従業員を増やそうとしない彼女が、何千人という人間の《弱み》をストックしている彼女が、一体どんな手段で従業員と言う名の奴隷を引っ張ってくるのか。血の繋がった姉妹であるひづりとしてはあまり考えたくないことだった。
その点でもやはり今の《火庫》の提案は非常に魅力的と言えた。ひづりにとって凍原坂は初めて会ったその日に「姉は悪党であり、姉がもしお金の話をしてきたらすぐに私に連絡してください」と念を押すことに成功した数少ない人物であるし、何より《和菓子屋たぬきつね》の内情というものを理解してくれている。最も懸念していた《天界》との問題にしても今日しっかりと情報共有できたばかりなのだ。
彼女がどの程度人間の仕事をこなせるのかは分からないが、それでも人材としては願ってもない程に最適な一人だった。
だが、気になる事もある。
先ほど《交信》について異論を唱えていた《フラウ》が、何故か急に静かになった事だった。
間違いなく《フラウ》は凍原坂と何か大事な話をしようとしていた。そこには他人である自分や天井花さんが入り込んではいけない何かがあるように見えた。
そんな《フラウ》が、《火庫》が口を開くなり黙った。
黙って、半身を分けた白猫の話に耳を傾けていた。
「だ、だとしても、急にそんな……働くなんて……。……《火庫》、人の多い場所はあまり得意じゃないだろう? そもそも話をするのだって……。本当に一体、どうしたんだい……?」
心配そうに、まさに父親が娘を案じる様な声音で凍原坂は《火庫》のその急な提案に次々と、しかしまとまりのない言葉を並べていた。
「それに働くと言ったって、とても大変なんだよ? そうでなくとも、《火庫》と《フラウ》をちよこさんのお店に預けるなんて、それこそご迷惑に――」
「ご心配は要りませんわ!!」
と、俄に襖がバシンと開いて吉備ちよこが大声を張り上げながら登場した。普通にびっくりしてひづりは肩を震わせた。
「迷惑だなんて、ええ、ええ、迷惑だなんてそんな。《火庫》ちゃんがとっても器量の良いお子さんだというのは旅行の折にちゃぁんと窺わせてもらいましたし、イナリちゃんも《フラウ》ちゃんがお店に来るととっても嬉しそうにしてくれます。お店の人手もそろそろ増やさないと、と思っていたんです。願ってもないご提案、どうして無下になんて出来ましょう!」
流れるような動きで凍原坂の隣に正座するとちよこはそう言いながら隣の《火庫》の肩を抱き寄せた。
休憩室で洗い物をしながら聞き耳を立てていたのだろう。まぁ、後々話さないといけないと思っていたから、良いのだが……。しかし本当にこういった話への嗅覚だけは鋭い。こういった話にだけは。
「私も《火庫》ちゃんが働いてくれるならありがたいですし、反対する理由はありませんが……。姉さん、お給料はちゃんと出すの、分かってるよね? それと今後従業員さんが増えるとしても、姉さんの仕事内容と仕事量は変わらないんだけど、それも分かってる?」
凍原坂に言いつつ、ひづりはじろりと姉を睨んだ。そこは予めはっきりさせておかないといけない。
「分かってますぅー! お姉ちゃんはひづりとの約束やぶったりしないもーん! という事なのでどうですか凍原坂さん! 《火庫》ちゃんと《フラウ》ちゃん、うちでお預かりしても良いですか!?」
無抵抗の《火庫》の頭を撫で摩りながら、しかし《火庫》の眼を一度も見る素振りも無く、ちよこは凍原坂に詰め寄った。
《火庫》の発言と同じくらい彼は戸惑っていたが、やがて思い出したように瞬きをすると天井花イナリを振り返った。
「それもひづりが決めることじゃ。わしを見るな。それに、大した事ではなかろう。《フラウロス》をいくらかわしの店で預かるというだけのこと。どうせ日中はほとんど日向で寝ておるのであろう? わしもここしばらくは体を動かす機会が無かった。《グラシャ・ラボラス》が来た時は一戦交えるつもりでおったが肩透かしであったしな。弱体こそしておるが、騒がしい今の《フラウロス》なら多少の鬱憤晴らし程度のものにはなる。構わぬ。働き手が増えるのも良い。楽になればその分ひづりが《魔術》の修練に向けられる時間も増えるしの」
着物の袖を組み、それだけ言うと彼女は眼を伏せて黙ってしまった。
最後に凍原坂は《火庫》の顔を見て、それから《フラウ》を振り返ると、訊ねた。
「二人は、本当にそれでいいのかい?」
数秒、静寂が亘った。
先に口を開いたのは《フラウ》だった。
「……よい。《火庫》がそうしたいと言うなら、わっちは構わぬ」
それからふいと顔を背け、彼女は座布団の上で体を丸めてしまった。
そんな《フラウ》の様子を気がかりそうにしていたが、凍原坂は再び《火庫》の方へと向き直った。
《火庫》はちよこに抱きしめられたまま小さく微笑むと、静かに言った。
「……凍原坂様は以前、わっち達が人間の世界で暮らしていくことを望んでいましたでしょう? ……今になってですけれど、これを機にどうかと思ったんです。わっちたちは今まで凍原坂様にたくさん外へ……それこそ色んなお店様へ連れなってもらっていましたから、こういったお仕事、わっち、興味があったのです」
……理由は分からなかったが、それでも彼女の言葉が嘘である、という事はひづりにも分かった。
きっと凍原坂もなのだろう。どこか悲しげな顔で彼は《火庫》の眼を見つめ返していた。
《火庫》ちゃんが仕事を覚えて働いてくれるなら、これから店はきっと楽になる。天井花さんの負担も減り、働き始めた頃から抱いていた憂いもその影を薄めるだろう。
何より《火庫》ちゃんと《フラウ》ちゃんが店に居てくれれば、《ベリアル》の様な敵が次また来たとしても、天井花さん一人で戦わないといけない、という事態にもならないで済むし、天井花さんと互いに護り合えば、《フラウ》ちゃん達が負傷する危険だって減らせる。それらは間違いなく喜ばしい事だ。
そのはずだ。
想定していた以上に今日の《和菓子屋たぬきつね》と凍原坂家の話し合いは良い結果へと辿り着いた。そのはずなのに。
何か。何かが、嫌な方向へと運ばれようとしている。きっと善意であるはずの提案が、覚悟を決めた決断が、誰もが望まない結果へと向かおうとしている。
そんな嫌な予感ばかりが、冷たくひづりの胸に残っていた。
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