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《第3期》 ‐勇者に捧げる咆哮‐
1話 『白猫の提案』
しおりを挟む1話 『白猫の提案』
声が聞こえる。
どうも自分を呼んでいるようだが、しかしそれが誰の声なのかは分からない。姿も見えない。ただ、視界を覆う白い靄の様なものの中でちらちらと眩い光が煌めくその向こうの方から声は綺麗なピアノの旋律のように流れて来て、鼓膜を心地良く揺らしていた。
靄が少しずつ晴れていく。光が増し、その声も明瞭さを持ち始めていく。
『……の義兄が、巻き込まれている……』
言葉が降りてくる。見上げた空には黄金色に光る小さな影が何人も並んでいて、それらはじっとこちらを見下ろしていた。
光る影たちが言う。
『……お前の姪が隠している』
声はもうはっきりと聴き取れるまでになっていた。影たちの頭上に輝く光の輪が、辺りの靄を取り払う様にいっそう強く輝いた。
『耳を欹てろ。真実を見極めるのだ。お前の敵は、お前の隣に居る』
じゃり、とにわかに甲高い不愉快な音が鳴り、それから目の前にぼんやりと黒い人影が浮かび上がった。
それは二つの瞳を得て、真正面からこちらを見つめて来た。
知っている顔だった。
知っている眼差しだった。
『お前の大切な人たちを奪おうとしている。そいつの名は――』
聞き慣れたアラームの音が耳を突いた。
数度瞬きをして、それからのそりと腕を伸ばし、スマートフォンの目覚ましを止める。
ため息を零しつつ体を起こした。寝起きにしては頭は嫌にはっきりしていて、けれどそこには不快な焦燥感のようなものが尾を引いて張り付いていた。
先週末に夏休みが開け、土日を挟んでようやく新学期が新学期らしく始まる。九月十八日、今日がその月曜日だった。
そんな少々気だるい平日の朝に、自分は一体何の夢を見ているのか。
熱心なキリスト教徒だとかはきっと、神の啓示だ、とか言って喜ぶやつなのだろうが、馬鹿らしい。
この歳で夢の中に天使が出てきました、なんて、いや、恥ずかしすぎて笑えてくるようだった。
しかしそんな皮肉る気分もすぐに去り、頭の中にまた夢の声が蘇った。
『お前の大切な人たちを奪おうとしている。そいつの名は――』
……ただの夢だ。昔の日本人でもあるまいし、夢に意味などあるわけがない。額を撫で、舌打ちをする。
部屋を出て洗面台へ立ち、鏡に自分の姿を認める。すっぴんの不細工な顔。さっさと化粧を済ませてリビングへ行かないとまた《母》が叫び始める。
『――官舎ひづり。この女が、このお前のクラスメイトが、お前の大事なものを壊そうとしている──』
カラーコンタクトの容器を摘んだ手が止まり、再三眉間に皺が寄った。
「…………はぁ」
理不尽なのは現実だけにして欲しい。夢の内容まで選べないなど、一体何のための睡眠なのか分からなくなる。疲れさせるだけ、不愉快にさせるだけの夢に何の意味があるのか。舌打ちが漏れ、再び大きなため息が出た。
「……どうせ見せるなら、好きな人が出てくるやつとかにしてくれってんだ……」
ポーチのジッパーを閉じて学生鞄を引っつかみ、夜不寝(よねず)リコはリビングへと降りた。
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