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第119話 手術と昔の記憶

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蓮は意識がない出雲に再度声をかけてもう少しで到着するからなと言い続ける。しかし出雲の心肺が停止してしまう。

「危ない! 心肺停止だ!」

救急隊員の一人が出雲を蘇生させようと医療器具を取り出す。心臓マッサージなどを必死に行い、病院に早く到着をしてくれと何度も呟いていた。出雲の心肺蘇生の始めてから数分が経過をすると、病院の入り口に到着をした。

「出雲! もうすぐ助かるからな!」

救急隊は心肺蘇生を続けながら出雲を担架に乗せながら手術室に入室する。出雲は手術室に入った際も心配が止まっており、医者や看護師達は必至で出雲を蘇生させようとしていた。

出雲が手術室にいる間に、美桜は雫と共に病院の一室内で石により治療を受けていた。点滴や回復魔法をかけてもらい、薬が処方されることとなった。美桜は診察が終わると、雫に出雲はどこにいるとの聞いた。

「出雲君なら今緊急手術中のようです。 心肺が停止しており、危険な状態なようです!」

雫がそう美桜に言うと、美桜が部屋から飛び出て近くにいた看護師に出雲の場所を聞いていた。

「黒羽出雲って男の子を知りませんか!? 手術中だと聞いたんですけど!」

すれ違う看護師に聞きまくる美桜。すると一人の看護師が地下にある手術室にいると教えてくれた。

「ありがとうございます!」

美桜はそう言うとすぐに地下に向かって走り出した。美桜は三階にいるので、エレベーターに乗って地下に行こうとした。しかし、エレベーターがなかなか来ないので、階段で地下に行くことにした。美桜は階段を駆け足で下っていき、出雲がいる地下二階に移動をした。

「ここね! ここの階に出雲がいるのね!」

美桜はそう言いながら鉄の白い扉を開けた。扉の先には白い通路とその奥に手術中の文字が表示されている白い扉があった。美桜はその扉に駆け足で行き、扉を開けた。そこでは手術衣を着ている医師と看護師が四人いた。一人の看護師が美桜の姿を見るとなぜここにいるのかと怒鳴る。

「出雲! 出雲!」

美桜はその言葉を耳に入れずに、手術台に乗せられている出雲の手を握った。その必死な姿の美桜を見た執刀医の医師は、好きにさせて置けと言って手術を再開した。

手術を再開してから四時間が経過するも、美桜は出雲の手を握って必死に話しかけていた。初めは煩わしいと感じていた美桜の言葉は、今では煩わしくなく、美桜の言葉があってこそのこの手術だと全員が感じていた。

「よし、術式終了!」

執刀医がそう言い、出雲の手術は終わった。手術が終わってもなお美桜は出雲の手を握っているので、執刀医は美桜に終わったよと話しかける。

「せ、成功したんですか!?」

美桜がそう聞くと、手術を見ていたのではないのかと美桜は言われた。それに対して美桜は出雲に話しかけているので必死で全く見ていないと返答をした。執刀医は美桜に手術は成功をしたと言うと、美桜は立ち上がってありがとうございますと言う。その姿を見た看護師達が出雲を見て好かれてて良いわねと言っていた。

出雲は辛くも危険な状態ではなくなったが、その意識はすぐには戻らなかった。出雲は意識がない中で、ある夢を見ていた。それは自身が捨てられた時の記憶と、捨てられるまでの記憶であった。

とてもいい思い出とは言えないその記憶が、意識がない中で出雲の夢の中を目まぐるしく回っていた。そのその記憶は出雲が小学生の時にある休日の日に親に昼食として出された腐った食パン一枚や、晩御飯には茶碗一杯の白米のみであった。

その時の出雲の姿は眼に生気がなく、出されたものをただ無感情に食べているのみであった。飲み物は水道水を飲むしかなく、時折自身の隣を通る父と母は、女だったらまだ価値があったのにと嫌みったらしく何度も言っていた。

出雲はそのたびにごめんなさないと壊れたレコードのように繰り返し言っていた。その際に母親がお前なんて生まれてこなければよかったのにと言うと、出雲はそんなこと言わないでと母親の左足にしがみ付く。

すると母親は触るなと出雲の顔を右足で蹴り飛ばす。その様子を見た父親はやりすぎるなよと言い、死なれたら捕まるぞと言って止めることはしなかった。

出雲は両親に好かれるために片づけや掃除などもしていたが、どれをしても勝手なことをするなと殴られ蹴られる始末である。出雲は生まれてきた意味はないんだと次第に絶望をしていた。
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