魔法の世界で新たな人生を～捨てられた人生のやり直し～

第84話 電話

美桜は何度も頷いていると、これでお父様の呪縛から解かれるのかなと安心をする一方で、兄や姉達に危害が加えられないか心配でもあった。

「すみません。 私のお父様にはどう説明をしましょうか？」

美桜が永臣にこれからのことを聞くと、永臣は単刀直入に行こうと思っていると言う。

「単刀直入に？ それってもしかして……」

美桜が驚きながら言うと、明臣が今から電話で伝えると言った。

「電話ですか！？」

美桜が驚くと、その方が早いと永臣が言った。美桜と雫が再度驚いていると、永臣は落とし前を付ける必要があると美桜に言った。

「落とし前ですか？」

美桜が聞くと、永臣はそうだと返答をした。

「それに、自身の子供を利用して上に行こうとしたその根性が気に入らない」

そう弦十郎に対して怒りをあらわにすると、スマーフォンを取り出して電話をかけた。永臣は電話をかけると、すぐに弦十郎が出たようであった。

「天神家の御当主、お久しぶりです。 何でかけたかお分かりかな？」

そう永臣が話し始めた。その言葉は冷静さの中に怒りが籠っていると感じられた。美桜は永臣が私達のために戦ってくれていると感じ、こんな大人もいるんだなと雫以外にも良い大人が存在するんだなと美桜は感じていた。美桜がそう感じていると、永臣と弦十郎の話が進んでいるようである。美桜達は永臣と弦十郎の話に耳を傾けているようである。

「既に私は貴方が娘さんにしたことや、篁家への仕打ちを知っている。 その行動は貴族として看過出来ないし、犯罪行為として貴族会に申し立てることにした」

美桜は貴族会と聞いて、永臣の本気度が理解出来た。永臣が話している貴族会とは、国に存在する貴族全員で行う定期的な会議である。そこでは、各々の統治を任されている土地のことや領民達の行動を纏めたこのを発表し、国に提出をする会議である。

また、その際に貴族毎に相互監視も行っているので貴族がした不正や犯罪行為を問題提起をする会議でもある。数世紀前までのこの国の貴族は、不正や自身の利益のためだけに領民に苦痛を強いていたことがあり、そのことを他の貴族と結託し、隠ぺいをしていた事実があった。

そのことからお互いに監視し、問題を知ったら問題提起をして自浄作用を促すために、貴族会が行われることとなった。永臣のスマートフォンから弦十郎の焦る声が漏れて、美桜達に聞こえていた。しかし美桜はそれをされても仕方ないことをしてきたので、地の底まで落ちろと思っていた。

「そんなに私に謝られても意味がない。 謝るなら自身の子供達や篁家の方々に謝るのだな。 それに、貴方の貴族の肩書は無くなると思え」

その言葉と共に永臣は通話終了ボタンを押した。永臣がスマートフォンを机の前に置くと、数秒も経過せずに弦十郎から着信が鳴り響く。永臣はその着信を無視し続けていた。明臣は永臣に出なくていいんですかと聞くと、永臣があんな人間以下の存在の電話に出る必要はないと言った。

「確かに人間以下ですね。 私のお母様にした仕打ちを今も忘れられません」

美桜がそう言うと、雫がそこは言う必要はないのではと美桜に耳打ちをする。しかし、今永臣にある程度の情報を渡しておかなければと思っていたのである。

「お父様はある時期にお母様にＤＶばかりしていました。 自身の行っていた政策の間違いや、それによる領民達からの暴動に対処する際に武力を持って鎮圧したことも報道にされてしまったので、その腹いせにお母様の腕や足の骨が折れるまで暴力を振るっていました」

美桜のその言葉を聞いた永臣達は、それほどまでに天神家の当主は酷すぎるのかとその場にいる全員が思っていた。

「さて、昼食はまだかな？ 良い時間になったので、昼食でもいかがかな？」

永臣は食堂に初めからいたメイドの女性に昼食を作ることを頼んだ。すると、メイドの女性はかしこまりましたと言って、調理を始めた。

「空気を悪くして申し訳ないね。 続きは貴族会でするから、今はゆっくりしてくれ」

永臣はそう言うと、足元に置いていた黒い長方形の鞄からノートパソコンを取り出して何か作業を始めた。