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第2章 運命は巡る
第10話 悲しみの帰還
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魔族の女性の攻撃でやけどを負い、気を失っていた久遠はゆっくりと目を開けた。動かない体だが、目線を左右に動かして自身がいる場所を確認した。
「ここは……騎士の救護テント? 私はここに運び込まれたのね……」
救護テントは多数建てられており、その中には多くの騎士が床やベットに寝かされて治療を受けている。内部には大人が20人程度入れる大きさとなっており、救護テントの1つにて久遠は治療を受けていた。
久遠は目が覚めると体を動かそうとするが、攻撃を受けた右腕に痛みが走ったために悲痛な声を上げてしまう。
「ぐぅ……!」
「気が付いたんですね!? 腕が痛むんですか!?」
「少し痛みが……」
顔を歪めて苦しむ久遠に、1人の女性騎士が駆け寄って火傷を負っている右腕を触り始める。
「うぐぅ……痛みが……」
「火傷が治りづらいですね……治療を継続しましょう」
女性騎士は薬品箱から1つの薬を取り出して、久遠の右腕に塗り始める。
「これは火傷の治療に用いている薬です。これを塗り続けていけば治るはずなので、続けましょう」
「ありがとうございます……」
ベットに寝ている久遠は、治療を受けながら出雲のことを心配していた。
配達の仕事を終えて帰っているか、未だに戦場にいるのだろうかと考えつつ治療を受けながら久遠は眠りに落ちてしまうが、自身の側で話す声によって目が覚めてしまう。
「なによ……側で大声で話さないでよ……」
軽い頭痛がする頭部を抑えながら体を起こした久遠は、自身の周囲に立っている騎士に話しかけた。
「ここで話をされるとうるさいんですけど」
「ああ、すまなかった。あなたに話がありましてね」
「私にですか?」
久遠に話しかけたのは武であった。
武は自身の側にいた騎士を離れさせると、久遠のベットの横に置いてある木製の丸椅子に座った。
「話というのは黒羽出雲君のことでしてね」
「出雲が何かしたんですか!? もしかしてご迷惑でも!?」
「いや、迷惑ということはなく、むしろ凄い活躍をしたんですけどね」
凄い活躍と聞いた久遠は、凄いじゃないのと笑顔で出雲のことを褒めていた。だが、武が話した次の言葉によって笑顔は絶望の顔へと変わってしまう。
「とても凄い活躍をしてくれた黒羽出雲君でしたが、魔族を倒すために地面の裂け目に落ちてしまいました……生存は絶望的かと思います……」
俯いて話す武に対して、久遠は嘘を言わないでと叫ぶ。
「あの子がそんな簡単に死ぬわけない! 私の弟分なのよ!? それに、あんたたち騎士がいながら配達人を魔族と戦わせないでよ!」
声を上げて、今にも泣きだしそうな震えている声で武の鎧を掴んで激しく揺らすと、周囲にいた騎士が止めに入ろうとしていた。
「止めなくていい。その必要はない」
駆け寄る騎士を静止した武は、久遠に揺らされ鎧を叩かれ続けている。久遠は泣きながら出雲を返してと言い続け、嗚咽も交えて泣き続けていた。
「黒羽出雲君は文字通り命を懸けて我々を救ってくれた英雄です。魔族から町と騎士を守ったんです」
「だとしても、出雲が生きていなければ意味がありません!」
久遠の言葉を聞いた武は、申し訳ございませんと言って椅子から立ち上がる。
「謝ることしか私には出来ません。ですが黒羽出雲君がしたことは誰にでも出来ることではなく、最後の最後まであなたの心配をして戦っていたようです」
その言葉を残して武は救護テントから出て行く。その場に残された久遠は毛布を被ってその中で泣き続けた。
「出雲が生きなきゃ意味がないでしょう! 私の心配ばかりしないで、自分の心配をしなさいよ!」
泣き続けている久遠を周囲を騎士が心配をしているが、周囲の騎士達はどう声をかけていいか分からなかったが、久遠は泣き続けると寝てしまうと騎士達がほっと胸を撫で下ろしていた。
久遠やその他の怪我人に治療を行っている騎士以外の人達は、テントを解体して町に戻る準備を始めている。久遠は静かに馬車の荷台に乗せられると、そのまま馬車は出発を始める。
「うぅ……ここは……」
馬車の揺れによって目が覚めた久遠は、静かに体を起こした。
痛みが殆ど消えていたので楽に動けるようになったものの、やはり右腕の火傷の痛みが未だに消えなかった。
「右腕以外は治っているわね。流石騎士団の医療技術だわ」
馬車の荷台で体を起こしている久遠が周囲を見渡していると、次第に見慣れた風景が目に入ってくる。
「東山岳町のすぐ近くに戻っているわ。一度町に寄るのかしら? 前にいる馬車の数台が町に入って、他は別の道に行ったわ」
東山岳町に入るのは負傷者と救護をしている騎士であり、その他は報告をするために東山岳町まで護衛をした後に急いで武蔵に戻る手筈となっている。
「やっと町に到着したわ……丸2日ぶりね……事務所のみんなは元気かしら?」
頬を撫でる風を感じながら東山岳町の入り口に久遠を乗せている馬車が入る。ここに出雲と共に戻って来れないのが残念でならないが、出雲が紡いでくれたこの命を大切にしないとと久遠は考えるようになっていた。
「出雲は昔から自分よりも他人のことを1番に考えて動いていたわね。その考えのおかげで魔族や魔物から騎士やこの町を守ったのよ……あの副隊長さんも言っていたけど、出雲はこの町の英雄よ……」
笑顔になりながら涙を流している久遠は、出雲は英雄よと小さく呟いて綺麗な空を見上げていた。東山岳町に入った久遠は、馬車の荷台から騎士の手を掴みながら降りた。既に日が昇っている時間であるので、馬車が到着した町の入り口には人が沢山いた。
「あれ? 久遠ちゃんじゃない! どこに行ってたのー?」
1人の年配の女性が、小走りで馬車の荷台から降りている久遠に駆け寄ってくる。
「あ、久子さん。ちょっと戦場に仕事に行ってたの……出雲と一緒にね……」
「そうなの? それで出雲君はどこにいるのかしら?」
どこにいるのかと、久遠はその言葉を聞いた瞬間に涙を流してしまった。久子と呼ばれた年配の女性は、突然泣き始めた久遠に驚いてしまう。
「ど、どうしたのよ!? なにかあったの!?」
「いや……戦場でね……」
泣き始めてしまった久遠を年配の女性が抱きしめると、次第に泣き止み始めていた。
「ごめんなさい、取り乱したわ……」
「大丈夫よ。何があったのか話してごらん?」
久遠と年配の女性は近くに置かれている木の長椅子に座った。
すると、久遠は唐突に出雲が死んじゃったのと話し始める。
「え!? 嘘でしょ!?」
「本当なの……この町に迫っていた魔物を統率していた魔族と戦って、出雲は魔族と共に地面に空いた穴に落ちたらしいわ……」
「そんな……自分の命を犠牲にしてまで……」
年配の女性も涙を流して悲しんでいると、嘘だろと言いながら久遠の側に拓哉が駆け寄って来る。
「出雲が死んだって本当なのか!? 嘘だよな!?」
泣いている久遠と年配の女性に拓哉が話しかけると、久遠が本当よと震える声で答えた。
「どうしてだ! ただ補給物資を渡すだけなのに!」
その場に崩れて拓哉は地面を何度も叩いて涙を流していた。
拓哉に久遠は近づいてその肩を優しく触る。
「町に侵攻をしてくる魔族を、自身を犠牲にして倒したのよ……出雲は私達を救ってくれたの……私達が悲しんでいたら天国の出雲も悲しむわ……」
「そうだな……あいつは頑張ったんだ……笑って送り出そう……」
拓哉は涙を左手で拭うと、勢いよく立ち上がって報告をしないとなと久遠に言った。
「そうね。仲間達には伝えないといけないわね」
「そうだ。全員出雲やお前のことを心配していたからな」
特別な依頼を出雲と久遠が受けてから、事務所の配達員達は心配しかしていなかった。久遠も出雲も戦場には行ったことがなかったので、動き方や魔物に攻撃をされないか不安だったからである。
「やはり行かせるべきじゃなかったのかもな……いくら魔族を1人で倒したからって、英雄と言われたって生きていなきゃ意味がないじゃないか……」
笑顔で送り出すと言いつつも、やはり拓哉の胸には悲しみが込み上げてきていた。泣きながら事務所に向けて歩いている拓哉を見て久遠も涙を流してしまう。
事務所への道を涙を流しながら歩く2人を見ていた町の人達は、いつも元気な配達員が泣いているのを見て何かがあったと察していた。
「ここは……騎士の救護テント? 私はここに運び込まれたのね……」
救護テントは多数建てられており、その中には多くの騎士が床やベットに寝かされて治療を受けている。内部には大人が20人程度入れる大きさとなっており、救護テントの1つにて久遠は治療を受けていた。
久遠は目が覚めると体を動かそうとするが、攻撃を受けた右腕に痛みが走ったために悲痛な声を上げてしまう。
「ぐぅ……!」
「気が付いたんですね!? 腕が痛むんですか!?」
「少し痛みが……」
顔を歪めて苦しむ久遠に、1人の女性騎士が駆け寄って火傷を負っている右腕を触り始める。
「うぐぅ……痛みが……」
「火傷が治りづらいですね……治療を継続しましょう」
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「これは火傷の治療に用いている薬です。これを塗り続けていけば治るはずなので、続けましょう」
「ありがとうございます……」
ベットに寝ている久遠は、治療を受けながら出雲のことを心配していた。
配達の仕事を終えて帰っているか、未だに戦場にいるのだろうかと考えつつ治療を受けながら久遠は眠りに落ちてしまうが、自身の側で話す声によって目が覚めてしまう。
「なによ……側で大声で話さないでよ……」
軽い頭痛がする頭部を抑えながら体を起こした久遠は、自身の周囲に立っている騎士に話しかけた。
「ここで話をされるとうるさいんですけど」
「ああ、すまなかった。あなたに話がありましてね」
「私にですか?」
久遠に話しかけたのは武であった。
武は自身の側にいた騎士を離れさせると、久遠のベットの横に置いてある木製の丸椅子に座った。
「話というのは黒羽出雲君のことでしてね」
「出雲が何かしたんですか!? もしかしてご迷惑でも!?」
「いや、迷惑ということはなく、むしろ凄い活躍をしたんですけどね」
凄い活躍と聞いた久遠は、凄いじゃないのと笑顔で出雲のことを褒めていた。だが、武が話した次の言葉によって笑顔は絶望の顔へと変わってしまう。
「とても凄い活躍をしてくれた黒羽出雲君でしたが、魔族を倒すために地面の裂け目に落ちてしまいました……生存は絶望的かと思います……」
俯いて話す武に対して、久遠は嘘を言わないでと叫ぶ。
「あの子がそんな簡単に死ぬわけない! 私の弟分なのよ!? それに、あんたたち騎士がいながら配達人を魔族と戦わせないでよ!」
声を上げて、今にも泣きだしそうな震えている声で武の鎧を掴んで激しく揺らすと、周囲にいた騎士が止めに入ろうとしていた。
「止めなくていい。その必要はない」
駆け寄る騎士を静止した武は、久遠に揺らされ鎧を叩かれ続けている。久遠は泣きながら出雲を返してと言い続け、嗚咽も交えて泣き続けていた。
「黒羽出雲君は文字通り命を懸けて我々を救ってくれた英雄です。魔族から町と騎士を守ったんです」
「だとしても、出雲が生きていなければ意味がありません!」
久遠の言葉を聞いた武は、申し訳ございませんと言って椅子から立ち上がる。
「謝ることしか私には出来ません。ですが黒羽出雲君がしたことは誰にでも出来ることではなく、最後の最後まであなたの心配をして戦っていたようです」
その言葉を残して武は救護テントから出て行く。その場に残された久遠は毛布を被ってその中で泣き続けた。
「出雲が生きなきゃ意味がないでしょう! 私の心配ばかりしないで、自分の心配をしなさいよ!」
泣き続けている久遠を周囲を騎士が心配をしているが、周囲の騎士達はどう声をかけていいか分からなかったが、久遠は泣き続けると寝てしまうと騎士達がほっと胸を撫で下ろしていた。
久遠やその他の怪我人に治療を行っている騎士以外の人達は、テントを解体して町に戻る準備を始めている。久遠は静かに馬車の荷台に乗せられると、そのまま馬車は出発を始める。
「うぅ……ここは……」
馬車の揺れによって目が覚めた久遠は、静かに体を起こした。
痛みが殆ど消えていたので楽に動けるようになったものの、やはり右腕の火傷の痛みが未だに消えなかった。
「右腕以外は治っているわね。流石騎士団の医療技術だわ」
馬車の荷台で体を起こしている久遠が周囲を見渡していると、次第に見慣れた風景が目に入ってくる。
「東山岳町のすぐ近くに戻っているわ。一度町に寄るのかしら? 前にいる馬車の数台が町に入って、他は別の道に行ったわ」
東山岳町に入るのは負傷者と救護をしている騎士であり、その他は報告をするために東山岳町まで護衛をした後に急いで武蔵に戻る手筈となっている。
「やっと町に到着したわ……丸2日ぶりね……事務所のみんなは元気かしら?」
頬を撫でる風を感じながら東山岳町の入り口に久遠を乗せている馬車が入る。ここに出雲と共に戻って来れないのが残念でならないが、出雲が紡いでくれたこの命を大切にしないとと久遠は考えるようになっていた。
「出雲は昔から自分よりも他人のことを1番に考えて動いていたわね。その考えのおかげで魔族や魔物から騎士やこの町を守ったのよ……あの副隊長さんも言っていたけど、出雲はこの町の英雄よ……」
笑顔になりながら涙を流している久遠は、出雲は英雄よと小さく呟いて綺麗な空を見上げていた。東山岳町に入った久遠は、馬車の荷台から騎士の手を掴みながら降りた。既に日が昇っている時間であるので、馬車が到着した町の入り口には人が沢山いた。
「あれ? 久遠ちゃんじゃない! どこに行ってたのー?」
1人の年配の女性が、小走りで馬車の荷台から降りている久遠に駆け寄ってくる。
「あ、久子さん。ちょっと戦場に仕事に行ってたの……出雲と一緒にね……」
「そうなの? それで出雲君はどこにいるのかしら?」
どこにいるのかと、久遠はその言葉を聞いた瞬間に涙を流してしまった。久子と呼ばれた年配の女性は、突然泣き始めた久遠に驚いてしまう。
「ど、どうしたのよ!? なにかあったの!?」
「いや……戦場でね……」
泣き始めてしまった久遠を年配の女性が抱きしめると、次第に泣き止み始めていた。
「ごめんなさい、取り乱したわ……」
「大丈夫よ。何があったのか話してごらん?」
久遠と年配の女性は近くに置かれている木の長椅子に座った。
すると、久遠は唐突に出雲が死んじゃったのと話し始める。
「え!? 嘘でしょ!?」
「本当なの……この町に迫っていた魔物を統率していた魔族と戦って、出雲は魔族と共に地面に空いた穴に落ちたらしいわ……」
「そんな……自分の命を犠牲にしてまで……」
年配の女性も涙を流して悲しんでいると、嘘だろと言いながら久遠の側に拓哉が駆け寄って来る。
「出雲が死んだって本当なのか!? 嘘だよな!?」
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「どうしてだ! ただ補給物資を渡すだけなのに!」
その場に崩れて拓哉は地面を何度も叩いて涙を流していた。
拓哉に久遠は近づいてその肩を優しく触る。
「町に侵攻をしてくる魔族を、自身を犠牲にして倒したのよ……出雲は私達を救ってくれたの……私達が悲しんでいたら天国の出雲も悲しむわ……」
「そうだな……あいつは頑張ったんだ……笑って送り出そう……」
拓哉は涙を左手で拭うと、勢いよく立ち上がって報告をしないとなと久遠に言った。
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「やはり行かせるべきじゃなかったのかもな……いくら魔族を1人で倒したからって、英雄と言われたって生きていなきゃ意味がないじゃないか……」
笑顔で送り出すと言いつつも、やはり拓哉の胸には悲しみが込み上げてきていた。泣きながら事務所に向けて歩いている拓哉を見て久遠も涙を流してしまう。
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