64 / 66
聖女の覚醒(3)オスカーSide-2
しおりを挟む
翌日。
ローレンの証言の整合性を確認するため、ミヒャエルが騎士団へ呼ばれた。
それと入れ違いに、ドリスの親友3人が揃ってやってきた。
容態が落ち着くまで待ってもらっていたから、3人がドリスに会うのはあの日以来8日ぶりだ。
さぞや心配してくれていたことだろう。
「ドリィ。きみの親友たちが来てくれたよ」
耳元で言って髪をなでた。
3人はじっとドリスを見下ろしている。
「ずっと眠ったままなんだ。苦しそうでないのが救いかな」
「…………」
事前に説明もしていたが、ベッドに横たわって動かないドリスの様子にショックを受けているのかみんな無言のままだ。
「楽しいおしゃべりを聞かせてやってください。それにつられてドリスが目を覚ましてくれるかもしれないから」
少しおどけた感じで言ってみる。
最初に口を開いたのはリリカだった。
「ドリスちゃん! うえっ……ぐすっ……」
名前を呼んだだけでいきなり泣きだした。
「泣いてはいけませんわ! こういう時こそいつも通りに笑わないと!」
そう言っているカタリナも目にいっぱい涙をためている。
「いつも通りって、カタリナちゃんいつも笑ってないじゃーん」
「そんなことありませんわ」
目を真っ赤にしてぐずぐず鼻をすすりながらも、いつのもふたりだ。
ドリスがよくふたりの声色を真似て、今日はこんなやり取りをしていたと笑いながら聞かせてくれていた。
「手を握ってもいいでしょうか」
アデルはいつも穏やかで優しい。
「どうぞ」
騎士団の入団式を数日後に控えていて多忙に違いない。そんな中でも融通をきかせて訪問してくれた。
アデルがそっとドリスの手を取った。
「ドリスさん。わたしの騎士服姿を見てもらいたいから、早く目を覚ましてくださいね」
目を潤ませながら静かに語りかけている。
「ドリィ、本当にいい友人たちを持ったね」
再びドリスの髪をなでた。
ドリスが貴族学校に入学してしばらく経った頃に、友人を招いてお茶会を開きたいと言ったあの時。
「学生時代の友人は大事に」
と言うと、ドリスは笑って大きく頷いていた。
本当にこの3人を大事に思っていたのだろう。
ドリスの顔に少し赤みがさしたように見えるのは気のせいだろうか。
親友たちの話し声が聞こえているのかもしれない。
「あまり騒ぎすぎてドリスさんを疲れさせてはいけませんわ」
カタリナがまだ居たいとごねるリリカの腕を引っ張ってドアに向かっていく。
アデルが名残惜しそうに一度振り返ってからその後ろに続いた。
見送りながら、近いうちに孤児院の子供たちにも来てもらおうかと思案する。
ドリスはきっと、にぎやかなほうが好きだろう。
しかしここでリリカがカタリナの手を振りほどいて、ベッドに引き返した。
ドリスに覆いかぶさるように抱き着く。
「ドリスちゃん! わたしたち、ずっ友だって約束したよね。だから早く……!」
リリカがひときわ大きな声で泣いた時だった。
その体が突如、白くてやわらかい光に包まれた。
その光が膨らむように部屋中に広がり、まぶしさに目がくらむ。
次に瞼を開けた時はもう、何事もなかったように光が収まっていた。
リリカ自身も驚いた様子でぴたりと泣き止み、戸惑うように自分のてのひらを見つめている。
「聖女の光……?」
カタリナがつぶやく。
「神殿に行きますわよっ! アデルさん、リリカさんを抱えてくださらない」
「はい!」
アデルがまだ呆然としているリリカを横抱きにした。
「では失礼しますわ」
3人はバタバタ帰っていった。
聖女は聖なる光と共に現れると聞いたことがある。
だとすればドリスが目を覚ますかもしれないと期待したが、まだ眠り続けたままだ。
「少しは休んでくださいね」
ハンナに言われて、無言で頷いた。
あの日以来何度も言われているが、ドリスのそばを離れたくない。
ベッドの横のイスに腰かけた。
ローレンの証言の整合性を確認するため、ミヒャエルが騎士団へ呼ばれた。
それと入れ違いに、ドリスの親友3人が揃ってやってきた。
容態が落ち着くまで待ってもらっていたから、3人がドリスに会うのはあの日以来8日ぶりだ。
さぞや心配してくれていたことだろう。
「ドリィ。きみの親友たちが来てくれたよ」
耳元で言って髪をなでた。
3人はじっとドリスを見下ろしている。
「ずっと眠ったままなんだ。苦しそうでないのが救いかな」
「…………」
事前に説明もしていたが、ベッドに横たわって動かないドリスの様子にショックを受けているのかみんな無言のままだ。
「楽しいおしゃべりを聞かせてやってください。それにつられてドリスが目を覚ましてくれるかもしれないから」
少しおどけた感じで言ってみる。
最初に口を開いたのはリリカだった。
「ドリスちゃん! うえっ……ぐすっ……」
名前を呼んだだけでいきなり泣きだした。
「泣いてはいけませんわ! こういう時こそいつも通りに笑わないと!」
そう言っているカタリナも目にいっぱい涙をためている。
「いつも通りって、カタリナちゃんいつも笑ってないじゃーん」
「そんなことありませんわ」
目を真っ赤にしてぐずぐず鼻をすすりながらも、いつのもふたりだ。
ドリスがよくふたりの声色を真似て、今日はこんなやり取りをしていたと笑いながら聞かせてくれていた。
「手を握ってもいいでしょうか」
アデルはいつも穏やかで優しい。
「どうぞ」
騎士団の入団式を数日後に控えていて多忙に違いない。そんな中でも融通をきかせて訪問してくれた。
アデルがそっとドリスの手を取った。
「ドリスさん。わたしの騎士服姿を見てもらいたいから、早く目を覚ましてくださいね」
目を潤ませながら静かに語りかけている。
「ドリィ、本当にいい友人たちを持ったね」
再びドリスの髪をなでた。
ドリスが貴族学校に入学してしばらく経った頃に、友人を招いてお茶会を開きたいと言ったあの時。
「学生時代の友人は大事に」
と言うと、ドリスは笑って大きく頷いていた。
本当にこの3人を大事に思っていたのだろう。
ドリスの顔に少し赤みがさしたように見えるのは気のせいだろうか。
親友たちの話し声が聞こえているのかもしれない。
「あまり騒ぎすぎてドリスさんを疲れさせてはいけませんわ」
カタリナがまだ居たいとごねるリリカの腕を引っ張ってドアに向かっていく。
アデルが名残惜しそうに一度振り返ってからその後ろに続いた。
見送りながら、近いうちに孤児院の子供たちにも来てもらおうかと思案する。
ドリスはきっと、にぎやかなほうが好きだろう。
しかしここでリリカがカタリナの手を振りほどいて、ベッドに引き返した。
ドリスに覆いかぶさるように抱き着く。
「ドリスちゃん! わたしたち、ずっ友だって約束したよね。だから早く……!」
リリカがひときわ大きな声で泣いた時だった。
その体が突如、白くてやわらかい光に包まれた。
その光が膨らむように部屋中に広がり、まぶしさに目がくらむ。
次に瞼を開けた時はもう、何事もなかったように光が収まっていた。
リリカ自身も驚いた様子でぴたりと泣き止み、戸惑うように自分のてのひらを見つめている。
「聖女の光……?」
カタリナがつぶやく。
「神殿に行きますわよっ! アデルさん、リリカさんを抱えてくださらない」
「はい!」
アデルがまだ呆然としているリリカを横抱きにした。
「では失礼しますわ」
3人はバタバタ帰っていった。
聖女は聖なる光と共に現れると聞いたことがある。
だとすればドリスが目を覚ますかもしれないと期待したが、まだ眠り続けたままだ。
「少しは休んでくださいね」
ハンナに言われて、無言で頷いた。
あの日以来何度も言われているが、ドリスのそばを離れたくない。
ベッドの横のイスに腰かけた。
29
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説
殿下、その言葉……嘘ではありませんよね?
結城芙由奈
恋愛
【婚約破棄ですか? ありがとうございます!!】
私の仕事はスポーツインストラクター。『健全なる精神は、健全なる身体に宿る』をモットーに生徒様達に指導をしていた。ある日のこと、仕事帰りに元カレから復縁を迫られた私。拒絶したところ、逆上した元カレに刃物で刺されてそのまま意識を失ってしまった。
次に目覚めると、私は貴族令嬢として転生していた。そして驚くべきことに、美的感覚が私の美意識と全く真逆な世界だったのだ――
※ 他サイトでも投稿中
※ 短編です。あっさり終わります
縁あって国王陛下のお世話係になりました
風見ゆうみ
恋愛
ある日、王城に呼び出された私は婚約者であるローク殿下に婚約を破棄され、姉が嫁ぐことになっていた敗戦国シュテーダム王国の筆頭公爵家の嫡男の元へ私が嫁ぐようにと命令された。
しかも、王命だという。
嫁げば良いのでしょう、嫁げば。
公爵令嬢といっても家では冷遇されていた私、ラナリーは半ば投げやりな気持ちでルラン・ユリアス様の元に嫁ぐことになった。
ユリアス邸の人たちに大歓迎された私だったけれど、ルラン様はいつもしかめっ面で女性が苦手だと判明。
何とかコミュニケーションを取り、ルラン様と打ち解けていくと、義理の父からもうすぐ6歳になる国王陛下の臨時のお世話係を任されてしまい――
※史実とは異なる異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
婚約破棄からの追放とフルコースいただきましたが、隣国の皇子から溺愛され甘やかされすぎてダメになりそうです。
里海慧
恋愛
※2/1レジーナブックス様より発売です(*´꒳`*)
伯爵令嬢ギルティアは国の認定聖女として日々魔物を浄化して、第三王子ブランドの婚約者でもあった。
しかし黒いドレスばかり着て陰気臭い、ニコリとも笑わず不気味な死神聖女だと言われ、新しい婚約者をはべらせる第三王子に婚約破棄されてしまう。
ずっと国のために働いて疲れ切っていたギルティアは、これ幸いと婚約破棄を受け入れ追放された魔物であふれる冥府の森で自由気ままに過ごしていた。
ところが森の管理者レクシアスに捕まり、何故だか至れり尽せりの軟禁状態になる。
自由になりたいギルティアは逃げ出そうと画策するも、レクシアスに優しく寄り添い甘やかされてギルティアは次第に心惹かれていく。
帝国の皇子に若干斜め上な愛を一途に注がれる聖女のお話。
※第15回恋愛小説大賞にて奨励賞を受賞しました☆ 応援してくださった皆様、本当にありがとうございました!
両親から甘やかされている妹を逆に私も甘やかしたら、とてもまともになりました。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるウルティナは、妹であるエルリナに手をこまねいていた。
年の離れた妹である彼女は、両親から溺愛されており、わがままな性格になっていたのだ。
それを矯正するために、ウルティナは努力してきた。しかしいくら注意しても、エルリナには効果がなかったのである。
そこでウルティナは、自身が最も信頼している婚約者シルファルドに相談した。
すると彼からは、押して駄目なら引いてみること、つまりエルリナを甘やかすことを提案してきた。
戸惑いながらも、ウルティナは信頼している婚約者の案に乗ってみることにした。
元々は仲が良い姉妹だったこともあって、ウルティナは意図も簡単にエルリナのことを甘やかすことができた。
それに対して、エルリナはひどく困惑するのだった。
結果として、エルリナの性格はどんどんと矯正されていった。
厳しくしてくれていた姉に見放されてしまったのではないか。彼女はそのような思考から、まともにならなければ自分に未来がないと思い始めていたのである。
今日で都合の良い嫁は辞めます!後は家族で仲良くしてください!
ユウ
恋愛
三年前、夫の願いにより義両親との同居を求められた私はは悩みながらも同意した。
苦労すると周りから止められながらも受け入れたけれど、待っていたのは我慢を強いられる日々だった。
それでもなんとななれ始めたのだが、
目下の悩みは子供がなかなか授からない事だった。
そんなある日、義姉が里帰りをするようになり、生活は一変した。
義姉は子供を私に預け、育児を丸投げをするようになった。
仕事と家事と育児すべてをこなすのが困難になった夫に助けを求めるも。
「子供一人ぐらい楽勝だろ」
夫はリサに残酷な事を言葉を投げ。
「家族なんだから助けてあげないと」
「家族なんだから助けあうべきだ」
夫のみならず、義両親までもリサの味方をすることなく行動はエスカレートする。
「仕事を少し休んでくれる?娘が旅行にいきたいそうだから」
「あの子は大変なんだ」
「母親ならできて当然よ」
シンパシー家は私が黙っていることをいいことに育児をすべて丸投げさせ、義姉を大事にするあまり家族の団欒から外され、我慢できなくなり夫と口論となる。
その末に。
「母性がなさすぎるよ!家族なんだから協力すべきだろ」
この言葉でもう無理だと思った私は決断をした。
【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です
灰銀猫
恋愛
両親と妹にはいない者として扱われながらも、王子の婚約者の肩書のお陰で何とか暮らしていたアレクシア。
顔だけの婚約者を実妹に奪われ、顔も性格も醜いと噂の辺境伯との結婚を命じられる。
辺境に追いやられ、婚約者からは白い結婚を打診されるも、婚約も結婚もこりごりと思っていたアレクシアには好都合で、しかも婚約者の義父は初恋の相手だった。
王都にいた時よりも好待遇で意外にも快適な日々を送る事に…でも、厄介事は向こうからやってきて…
婚約破棄物を書いてみたくなったので、書いてみました。
ありがちな内容ですが、よろしくお願いします。
設定は緩いしご都合主義です。難しく考えずにお読みいただけると嬉しいです。
他サイトでも掲載しています。
コミカライズ決定しました。申し訳ございませんが配信開始後は削除いたします。
婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています
葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。
そこはど田舎だった。
住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。
レコンティーニ王国は猫に優しい国です。
小説家になろう様にも掲載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる