55 / 66
ミヒャエルの病気(3)
しおりを挟む
青い小瓶。
色も形状も、デビュタントの舞踏会で飲み物に混入していた媚薬が入っていた瓶と瓜ふたつではないか……!
どういうこと? ドリスが持っていたのは毒ではなく媚薬だったってことかしら。
アルトがそこで小瓶の中身を調べるようなシーンはなかったと記憶している。
そしてゲームでは、ドリスの誕生日パーティー当日にミヒャエルが亡くなった。
『ミヒャエル様は本当にご病気だったのかしら?』
ヒロインがオスカーへ語り掛ける選択肢にこのセリフが表示されたら、そこから一気にドリス追放劇へと向かう。
ドリスが毒を持ち歩いていた――アルトがそう証言し、ミヒャエルを病死に見せかけて毒殺した線が濃厚となる。
プレーヤーは何の疑問も抱かずに青い小瓶の中身が毒だったと思わされていただけだ。
もしもあの中身が媚薬だったのなら……ドリスはそれをオスカーに盛るつもりだったのではないだろうか。
ドリスはオスカーの気持ちがヒロインに向いていることに当然気付いていた。
だからヒロインを毛嫌いしていじめていたのだから。
オスカーとは形式上の婚約関係にあるだけで、彼からドリスへの愛情表現は一切ない。
「これで決着をつけるつもり」
そう語ったドリスの狙いは、オスカーに媚薬を飲ませて既成事実を作ってしまうことだったのかもしれない。
だからこそドリスは、オスカーたちに糾弾された時に、
「知らないわっ!」
と激しく抵抗したのだ。
しかし日ごろから嘘ばかりついていた悪役令嬢の言い分に耳を傾ける者はいない。
「あなたを……愛してるの。オスカー!」
ドリスの悲痛な叫びは、紛れもなく本心だったのだ。
苦しんでいたのはドリスだって一緒だ。
ヒロインと想い合っているオスカーの様子を何度となく見せつけられたのだから。
そんな彼を、媚薬を使うような卑怯な真似をしてでも自分のもとにつなぎとめておきたかったのだろう。
そこまで考えて、ふと気付いた。
わたしは涙を流して泣いていたのだ。
「ドリス……。あなたって、不器用な人だったのね」
頬を伝う涙を手で拭う。
わたしの仮説が合っているとしたら、ハルアカのミヒャエルが死んだのはなぜだろうか。
本当に病気だったのかそれとも別の理由があるのか……?
ミヒャエルの熱が下がらないまま3日が過ぎた。
わたしは心配で、学校を休んでつきっきりで看病している。
侍医も毎日往診に来て熱冷ましの薬を出してくれる一方で、首を傾げている。
「なかなか熱が下がりませんね」
「本当にただの風邪でしょうか?」
「しばらく様子を見ましょう。徐々に良くなるはずです」
さっき首傾げてたじゃない!
そう思いながら帰る侍医を見送る。
入れ違いに騎士団からの見舞いとしてアルトがやって来た。
「こんにちは!」
人懐っこい笑顔を睨みつけてしまったのは許してほしい。
だって、ハルアカではこの人が媚薬と毒を勘違いしたんだもの。それとも、勘違いではなくわざと……?
この裏表の激しい性格なら、ドリスを追い落としてオスカーとヒロインをくっつけるためにそれぐらいのことをしてもおかしくない。
「なにしに来たの?」
「今日のドリスちゃん、なんだか僕に対するあたりが強くない?」
アルトが戸惑っている。
色も形状も、デビュタントの舞踏会で飲み物に混入していた媚薬が入っていた瓶と瓜ふたつではないか……!
どういうこと? ドリスが持っていたのは毒ではなく媚薬だったってことかしら。
アルトがそこで小瓶の中身を調べるようなシーンはなかったと記憶している。
そしてゲームでは、ドリスの誕生日パーティー当日にミヒャエルが亡くなった。
『ミヒャエル様は本当にご病気だったのかしら?』
ヒロインがオスカーへ語り掛ける選択肢にこのセリフが表示されたら、そこから一気にドリス追放劇へと向かう。
ドリスが毒を持ち歩いていた――アルトがそう証言し、ミヒャエルを病死に見せかけて毒殺した線が濃厚となる。
プレーヤーは何の疑問も抱かずに青い小瓶の中身が毒だったと思わされていただけだ。
もしもあの中身が媚薬だったのなら……ドリスはそれをオスカーに盛るつもりだったのではないだろうか。
ドリスはオスカーの気持ちがヒロインに向いていることに当然気付いていた。
だからヒロインを毛嫌いしていじめていたのだから。
オスカーとは形式上の婚約関係にあるだけで、彼からドリスへの愛情表現は一切ない。
「これで決着をつけるつもり」
そう語ったドリスの狙いは、オスカーに媚薬を飲ませて既成事実を作ってしまうことだったのかもしれない。
だからこそドリスは、オスカーたちに糾弾された時に、
「知らないわっ!」
と激しく抵抗したのだ。
しかし日ごろから嘘ばかりついていた悪役令嬢の言い分に耳を傾ける者はいない。
「あなたを……愛してるの。オスカー!」
ドリスの悲痛な叫びは、紛れもなく本心だったのだ。
苦しんでいたのはドリスだって一緒だ。
ヒロインと想い合っているオスカーの様子を何度となく見せつけられたのだから。
そんな彼を、媚薬を使うような卑怯な真似をしてでも自分のもとにつなぎとめておきたかったのだろう。
そこまで考えて、ふと気付いた。
わたしは涙を流して泣いていたのだ。
「ドリス……。あなたって、不器用な人だったのね」
頬を伝う涙を手で拭う。
わたしの仮説が合っているとしたら、ハルアカのミヒャエルが死んだのはなぜだろうか。
本当に病気だったのかそれとも別の理由があるのか……?
ミヒャエルの熱が下がらないまま3日が過ぎた。
わたしは心配で、学校を休んでつきっきりで看病している。
侍医も毎日往診に来て熱冷ましの薬を出してくれる一方で、首を傾げている。
「なかなか熱が下がりませんね」
「本当にただの風邪でしょうか?」
「しばらく様子を見ましょう。徐々に良くなるはずです」
さっき首傾げてたじゃない!
そう思いながら帰る侍医を見送る。
入れ違いに騎士団からの見舞いとしてアルトがやって来た。
「こんにちは!」
人懐っこい笑顔を睨みつけてしまったのは許してほしい。
だって、ハルアカではこの人が媚薬と毒を勘違いしたんだもの。それとも、勘違いではなくわざと……?
この裏表の激しい性格なら、ドリスを追い落としてオスカーとヒロインをくっつけるためにそれぐらいのことをしてもおかしくない。
「なにしに来たの?」
「今日のドリスちゃん、なんだか僕に対するあたりが強くない?」
アルトが戸惑っている。
37
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。
貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。
そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい?
あんまり内容覚えてないけど…
悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった!
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドを堪能してくださいませ?
********************
初投稿です。
転生侍女シリーズ第一弾。
短編全4話で、投稿予約済みです。
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました
夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、
そなたとサミュエルは離縁をし
サミュエルは新しい妃を迎えて
世継ぎを作ることとする。」
陛下が夫に出すという条件を
事前に聞かされた事により
わたくしの心は粉々に砕けました。
わたくしを愛していないあなたに対して
わたくしが出来ることは〇〇だけです…
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる