30 / 66
お茶会(4)
しおりを挟む
オスカーは、アデルとカタリナの間に座ってもらった。
ここでわたしは、ヒロインたちをうんと誉めそやした。
リリカの天然なかわいらしさ、カタリナの聡明さ、そしてアデルの勇敢さを。
もちろん、少しでもオスカーに彼女たちへの興味をひかせるためだ。
しかしオスカーは感情のこもらない整った笑みを浮かべて相槌を打つだけで、興味がないのがバレバレだ。
もっと愛想よくしなさいよっ!
楽しみにしているような態度は一体なんだったわけ?
仕方ない、ちょっと奇抜な一手を繰り出してみようではないか。
「アデルはトカゲを飼っているのよ。わたしたち、よく学校の中庭でエサのバッタを捕まえているの」
草をかき分けるような仕草をしながら説明する。
「いまどきの学校では、トカゲをペットとして飼う流行が……?」
オスカーがいぶかしげに首を傾げた。
そんなわけあるか!
「ええっと……どういうわけか私のバッグの中にトカゲが入っていまして、ずっとお世話をしているんです」
わたしたちの会話を聞いていたアデルがおずおずと答えた。
「田舎育ちなものですから、トカゲに愛着がわいてしまって……」
「なるほど」
オスカーがアデルに向かって微笑む。
すると、アデルの顔がこれまで見たこともないほど真っ赤に染まった。
これはいい感じだわ。もうひと押しね!
「アデルは将来、騎士になりたいのよね? いい機会だからオスカーに話を聞くといいわ」
3人のうち誰がオスカーに見初められてもオッケーと言いつつ、ハードモードのアデルについ肩入れしてしまう。
「アデルさんは騎士を目指しているのですか?」
オスカーに真っすぐ見つめられたアデルが、はにかみながら答える。
「はい。幼い頃に父からミヒャエル様の英雄伝説を話してもらうたびに、将来私もこうなりたいと思ったんです」
アデルが緊張した声で語る様子を見て、オスカーは微笑んだ。
「最近は年々、騎士団に入団する女性も増えているのでいいと思いますよ」
ここまで聞いて思い出した。
このふたりのやり取りは、ゲームのセリフのまんまだわ!
そういえば、アデルルートではいつごろから朝の剣稽古を始めるんだったっけ……?
ふと頭に浮かんだ疑問がそのまま口に出る。
「ねえ、アデルって剣のお稽古はしているの?」
「まだ体力づくりしかしていなくて……。剣術は我流だと変な癖がつくと言いますから」
それならば、アデルに剣稽古をつけてやってほしいとオスカーに頼もうかと考えていると、横から能天気な声がした。
「アデルちゃん、せっかくだからオスカー様に教えてもらえばいいんじゃなーい?」
声の主は首をこてんと傾げてにこにこしている。
そう、リリカだ。
その背後ではカタリナが「なんて厚かましいことを!」という驚愕の表情でふわふわのハニーピンクの髪を見つめている。
カタリナはバッタ探しにオスカーが加わることにもひどく困惑している様子だった。
オスカーがアッヘンバッハ男爵の長男であることや、ミヒャエルが将来的に彼をエーレンベルク伯爵家の後継者にしたがっていることを、情報通のカタリナは知っているのだろう。
オスカーに気安く願い事などするなと言いたいのだろうけど仕方ない。リリカは天真爛漫な聖女様なのだから。
それに、これでオスカーとアデルの親密度が上がるのならわたしとしても大歓迎だ。
「そうね! ちょうどいいじゃない、教えてもらうといいわ。ね、オスカー、やってくれるでしょう?」
拒否は許さないわよと思いながら見やると、目が合ったオスカーが余裕の笑みを見せる。
「ドリスのお嬢様のご命令とあらば喜んで」
オスカーがハンナに稽古用の木剣を持ってくるよう指示した。
肝心のアデルは、急展開にどうしていいかわからない様子でオロオロしている。
アデル、チャンスよ!
しっかりオスカーのハートを掴んでちょうだい!
心の中で応援しながらアデルの背中を押した。
ここでわたしは、ヒロインたちをうんと誉めそやした。
リリカの天然なかわいらしさ、カタリナの聡明さ、そしてアデルの勇敢さを。
もちろん、少しでもオスカーに彼女たちへの興味をひかせるためだ。
しかしオスカーは感情のこもらない整った笑みを浮かべて相槌を打つだけで、興味がないのがバレバレだ。
もっと愛想よくしなさいよっ!
楽しみにしているような態度は一体なんだったわけ?
仕方ない、ちょっと奇抜な一手を繰り出してみようではないか。
「アデルはトカゲを飼っているのよ。わたしたち、よく学校の中庭でエサのバッタを捕まえているの」
草をかき分けるような仕草をしながら説明する。
「いまどきの学校では、トカゲをペットとして飼う流行が……?」
オスカーがいぶかしげに首を傾げた。
そんなわけあるか!
「ええっと……どういうわけか私のバッグの中にトカゲが入っていまして、ずっとお世話をしているんです」
わたしたちの会話を聞いていたアデルがおずおずと答えた。
「田舎育ちなものですから、トカゲに愛着がわいてしまって……」
「なるほど」
オスカーがアデルに向かって微笑む。
すると、アデルの顔がこれまで見たこともないほど真っ赤に染まった。
これはいい感じだわ。もうひと押しね!
「アデルは将来、騎士になりたいのよね? いい機会だからオスカーに話を聞くといいわ」
3人のうち誰がオスカーに見初められてもオッケーと言いつつ、ハードモードのアデルについ肩入れしてしまう。
「アデルさんは騎士を目指しているのですか?」
オスカーに真っすぐ見つめられたアデルが、はにかみながら答える。
「はい。幼い頃に父からミヒャエル様の英雄伝説を話してもらうたびに、将来私もこうなりたいと思ったんです」
アデルが緊張した声で語る様子を見て、オスカーは微笑んだ。
「最近は年々、騎士団に入団する女性も増えているのでいいと思いますよ」
ここまで聞いて思い出した。
このふたりのやり取りは、ゲームのセリフのまんまだわ!
そういえば、アデルルートではいつごろから朝の剣稽古を始めるんだったっけ……?
ふと頭に浮かんだ疑問がそのまま口に出る。
「ねえ、アデルって剣のお稽古はしているの?」
「まだ体力づくりしかしていなくて……。剣術は我流だと変な癖がつくと言いますから」
それならば、アデルに剣稽古をつけてやってほしいとオスカーに頼もうかと考えていると、横から能天気な声がした。
「アデルちゃん、せっかくだからオスカー様に教えてもらえばいいんじゃなーい?」
声の主は首をこてんと傾げてにこにこしている。
そう、リリカだ。
その背後ではカタリナが「なんて厚かましいことを!」という驚愕の表情でふわふわのハニーピンクの髪を見つめている。
カタリナはバッタ探しにオスカーが加わることにもひどく困惑している様子だった。
オスカーがアッヘンバッハ男爵の長男であることや、ミヒャエルが将来的に彼をエーレンベルク伯爵家の後継者にしたがっていることを、情報通のカタリナは知っているのだろう。
オスカーに気安く願い事などするなと言いたいのだろうけど仕方ない。リリカは天真爛漫な聖女様なのだから。
それに、これでオスカーとアデルの親密度が上がるのならわたしとしても大歓迎だ。
「そうね! ちょうどいいじゃない、教えてもらうといいわ。ね、オスカー、やってくれるでしょう?」
拒否は許さないわよと思いながら見やると、目が合ったオスカーが余裕の笑みを見せる。
「ドリスのお嬢様のご命令とあらば喜んで」
オスカーがハンナに稽古用の木剣を持ってくるよう指示した。
肝心のアデルは、急展開にどうしていいかわからない様子でオロオロしている。
アデル、チャンスよ!
しっかりオスカーのハートを掴んでちょうだい!
心の中で応援しながらアデルの背中を押した。
21
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
断罪されるヒロインに転生したので、退学して本物の聖女を目指します!
オレンジ方解石
ファンタジー
『アリシア・ソル!! お前は偽聖女だ!!』
黒髪の青年がアリシアを糾弾する。
『本物の聖女は、このデラクルス公爵令嬢セレスティナだ!! お前は卑しい平民でありながら、公太子をたぶらかし、罪のない高貴なセレスティナに「悪役令嬢」の汚名を着せて処刑し、自分が公太子妃になろうと画策した!! よって、希代の悪女にふさわしい罰を下す!!』
幼い頃、魔王に命を助けられた平民の少女アリシア。
成長した彼女は、癒しの聖魔力を認められて王立学院へ入学するものの、公爵令嬢セレスティナとの出会いにより、この世界が前世で読んだ漫画の世界であり、セレスティナこそが主人公の悪役令嬢で、アリシアはセレスティナの婚約者である公太子レオポルドを誘惑して、セレスティナを陥れようとするものの、セレスティナの真の恋人である隣国の第三皇子に断罪される、偽聖女ことゲームヒロインであることを思い出す。
処刑の未来を回避するため、魔王に助けられた代償を払うため、学院を退学して本物の聖女を目指すアリシア。
だがセレスティナはアリシア以上の癒しの聖魔力を発現させたうえ、彼女を愛する執事の工作で、アリシアは危険な戦場へ行かされる羽目になる。
さらに、セレスティナを愛していたはずのレオポルドも、漫画どおりアリシアに求婚して来て……。
※病人、怪我人、戦場描写があるため、念のためにR15に設定しています。
※この話は『断罪されるヒロインに転生したので、退学します』(非公開中)の長編版です。長編化にあたってキャラクターを増やし、一部のモブキャラの性格や設定も少し変更しています。
※アリシア、セレスティナ、レオポルドといったメインキャラの性格はそのままです。
※キャラクターが増えた分、特に中盤以降はストーリーが大きく変化しており、ラストも前作とは異なる展開となっています。
※そのため「前作のほうが好き」という方はお気をつけください。
※投稿再開にあたり、タイトルも少し変更しました。
モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)
優摘
ファンタジー
※プロローグ以降の各話に題名をつけて、加筆、減筆、修正をしています。(’23.9.11)
<内容紹介>
ある日目覚めた「私」は、自分が乙女ゲームの意地悪で傲慢な悪役令嬢アリアナになっている事に気付いて愕然とする。
しかもアリアナは第一部のモブ系悪役令嬢!。悪役なのに魔力がゼロの最弱キャラだ。
このままではゲームの第一部で婚約者のディーンに断罪され、学園卒業後にロリコン親父と結婚させられてしまう!
「私」はロリコン回避の為にヒロインや婚約者、乙女ゲームの他の攻略対象と関わらないようにするが、なぜかうまく行かない。
しかもこの乙女ゲームは、未知の第3部まであり、先が読めない事ばかり。
意地悪で傲慢な悪役令嬢から、お人よしで要領の悪い公爵令嬢になったアリアナは、頭脳だけを武器にロリコンから逃げる為に奮闘する。
だけど、アリアナの身体の中にはゲームの知識を持つ「私」以外に本物の「アリアナ」が存在するみたい。
さらに自分と同じ世界の前世を持つ、登場人物も現れる。
しかも超がつく鈍感な「私」は周りからのラブに全く気付かない。
そして「私」とその登場人物がゲーム通りの動きをしないせいか、どんどんストーリーが変化していって・・・。
一年以上かかりましたがようやく完結しました。
また番外編を書きたいと思ってます。
カクヨムさんで加筆修正したものを、少しずつアップしています。
城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
転生ガチャで悪役令嬢になりました
みおな
恋愛
前世で死んだと思ったら、乙女ゲームの中に転生してました。
なんていうのが、一般的だと思うのだけど。
気がついたら、神様の前に立っていました。
神様が言うには、転生先はガチャで決めるらしいです。
初めて聞きました、そんなこと。
で、なんで何度回しても、悪役令嬢としかでないんですか?
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる