53 / 80
旦那様Side②
しおりを挟む
明日ヴィーが王都にやってくる。
厄介な仕事を全部片づけて明日からはヴィーと過ごす時間を多く取ろうと、エリックに急に張り切ってどうしたと揶揄われながら事務処理にいそしんでいる時だった。
ヴィーの実家、クラリッド男爵家の使いの者が伝令を持ってきたとの知らせを受けて会いに行くと、思いもよらぬことを告げられた。
「ヴィクトリア様がマーシェスダンジョンでの討伐中に頭を強く打ち、意識不明の状態でクラリッド男爵家に運ばれました。現在、神官を呼んで治療中です」
脚の力が抜けそうになって、しっかりせねばと拳を強く握る。
「なぜダンジョンの近くで治療をしなかったのです?」
使いの男が言いにくそうに目を伏せる。
「ヴィクトリアお嬢様の登録情報にそう書かれていたそうです。いかなる状況でも実家に戻ってから治療を施すようにと……」
冒険者登録をする際に、万一の時のために緊急連絡先を記入しなければならない決まりがある。
これは冒険者の身元がバレてしまう可能性が極めて高い個人情報のため、緊急時以外は協会の職員でも閲覧できないようになっているし、それを見た職員は守秘義務を厳守しなければならない。
BAN姉さんのリフレクトでエリックの腹に大穴が開いた時には王城に連絡が行き大騒ぎになったが、それも完全に伏せられている。
その件で国王陛下が相当怒ってエリックの結婚が早まり、いまは気安くダンジョンに行かないよう監視がついている。
と言ってもその監視をかいくぐって行ってしまうため、近衛兵のトールだけは止めずにダンジョンに付き合って無茶しないようにフォローしろと言われているのだ。
ヴィーが連絡先を実家のままにし、さらに治療も実家でと指定していたのは、マーシェス家に連絡がいかないようにとの思惑があったのだろう。
ただの怪我であれば、こっそり治療を受けて何事もなかったように戻ればいいだけだが、こうして実家から使いが来たということは最悪の事態を覚悟しなければならないのかもしれない。
「わかりました。すぐに支度をしてクラリッド男爵家へ向かいます」
使いを先に帰して仕事場へ戻ると、エリックに何かあったのかと聞かれた。
事情を話すとひどく驚いて、
「ハットリにどういう状況でそうなったのか聞いてくるから!」
と言うや否や、止めるのも聞かずに空間移動で飛んで行ってしまった。
落ち着け。
ヴィーはきっと大丈夫だから。
こんなに動揺していては空間移動に失敗しそうだ。
何度も何度も、落ち着けと自分に言い聞かせた。
厄介な仕事を全部片づけて明日からはヴィーと過ごす時間を多く取ろうと、エリックに急に張り切ってどうしたと揶揄われながら事務処理にいそしんでいる時だった。
ヴィーの実家、クラリッド男爵家の使いの者が伝令を持ってきたとの知らせを受けて会いに行くと、思いもよらぬことを告げられた。
「ヴィクトリア様がマーシェスダンジョンでの討伐中に頭を強く打ち、意識不明の状態でクラリッド男爵家に運ばれました。現在、神官を呼んで治療中です」
脚の力が抜けそうになって、しっかりせねばと拳を強く握る。
「なぜダンジョンの近くで治療をしなかったのです?」
使いの男が言いにくそうに目を伏せる。
「ヴィクトリアお嬢様の登録情報にそう書かれていたそうです。いかなる状況でも実家に戻ってから治療を施すようにと……」
冒険者登録をする際に、万一の時のために緊急連絡先を記入しなければならない決まりがある。
これは冒険者の身元がバレてしまう可能性が極めて高い個人情報のため、緊急時以外は協会の職員でも閲覧できないようになっているし、それを見た職員は守秘義務を厳守しなければならない。
BAN姉さんのリフレクトでエリックの腹に大穴が開いた時には王城に連絡が行き大騒ぎになったが、それも完全に伏せられている。
その件で国王陛下が相当怒ってエリックの結婚が早まり、いまは気安くダンジョンに行かないよう監視がついている。
と言ってもその監視をかいくぐって行ってしまうため、近衛兵のトールだけは止めずにダンジョンに付き合って無茶しないようにフォローしろと言われているのだ。
ヴィーが連絡先を実家のままにし、さらに治療も実家でと指定していたのは、マーシェス家に連絡がいかないようにとの思惑があったのだろう。
ただの怪我であれば、こっそり治療を受けて何事もなかったように戻ればいいだけだが、こうして実家から使いが来たということは最悪の事態を覚悟しなければならないのかもしれない。
「わかりました。すぐに支度をしてクラリッド男爵家へ向かいます」
使いを先に帰して仕事場へ戻ると、エリックに何かあったのかと聞かれた。
事情を話すとひどく驚いて、
「ハットリにどういう状況でそうなったのか聞いてくるから!」
と言うや否や、止めるのも聞かずに空間移動で飛んで行ってしまった。
落ち着け。
ヴィーはきっと大丈夫だから。
こんなに動揺していては空間移動に失敗しそうだ。
何度も何度も、落ち着けと自分に言い聞かせた。
32
お気に入りに追加
1,910
あなたにおすすめの小説
宝箱の中のキラキラ ~悪役令嬢に仕立て上げられそうだけど回避します~
よーこ
ファンタジー
婚約者が男爵家の庶子に篭絡されていることには、前々から気付いていた伯爵令嬢マリアーナ。
しかもなぜか、やってもいない「マリアーナが嫉妬で男爵令嬢をイジメている」との噂が学園中に広まっている。
なんとかしなければならない、婚約者との関係も見直すべきかも、とマリアーナは思っていた。
そしたら婚約者がタイミングよく”あること”をやらかしてくれた。
この機会を逃す手はない!
ということで、マリアーナが友人たちの力を借りて婚約者と男爵令嬢にやり返し、幸せを手に入れるお話。
よくある断罪劇からの反撃です。
遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!
天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。
魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。
でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。
一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。
トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。
互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。
。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.
他サイトにも連載中
2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
嘘つきと呼ばれた精霊使いの私
ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)
婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる