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「じゃあ、親戚の子が遊びに来ていたりしない……?」
青ざめるわたしを見て藤堂君も気づいたらしい。
みけんにしわを寄せて低い声で聞いてくる。
「どんなヤツがいた?」
「6歳ぐらいの男の子で、白いポロシャツと黒い半ズボンで、いつも細い棒を持ってて……マモルって自分で名乗ってたけど」
声がふるえてしまう。
「マモル? 本当に?」
「藤堂君のことを『弥一』って親し気に呼んでた。マモル君のこと知ってるの?」
「ちょっと待ってて!」
藤堂君は何か思い当たることがあったようで、あわててどこかへ行ってしまった。
バタバタという足音がだんだん遠ざかっていく。
待って! 置いていかないでえぇぇぇっ!
間取りのよくわからない家でへたに動くのは怖い。
立ち上がることすらできないまま、ただじっと藤堂君がもどってくるのを待つほかない。
早くもどってきて!
そう祈り続けていたのに――。
「ねえ」
背後から聞こえた声に肩がビクっとなった。
来た! ほら来ちゃったじゃない!
藤堂君のばかあっ!
さっき普通に話していたのだから、いまさら聞こえないふりはできない。
そんなことをすれば逆に怒らせて何かよくないことをされる可能性だってある。
しかたなく、まるで壊れかけたロボットのようなぎこちない動きで後ろを向いた。
そこに立っているのは予想通りマモル君だ。
「マモル君って藤堂君の弟じゃなかったんだね」
座ったまま体をマモル君のほうへ向ける。
ちょっと責めるような口調になってしまった。
藤堂君には「マモル」がだれなのか、あるいは何なのか心当たりがあるようだったけど、もう正直そんなことはどうだっていいからお引き取りねがいたい。
何度かこの家で見かけたことがあるのに、この子の表情がまったく動かないことにどうして気づかなかったんだろう。
「なんで弥一のこと『弥一』って呼ばないの?」
またそれ?
「だからね、それは……」
「なんでいっしょに試験勉強しなかったの?」
「はっ!?」
マモル君が一歩こっちに近づいて来る。
部屋の温度が少し下がった気がした。
今すぐに逃げ出したいところだけど、足の力が抜けて立ち上がれそうにない。
「なんでケンカになっちゃったの?」
「なんでほかの人に物理を教えてもらったの?」
「いつになったら、もう付き合ってるってことでよろしくって言った返事をしてくれるの?」
マモル君はわたしが答える間もあたえてくれずに矢継ぎ早に質問しながら一歩一歩近寄ってくる。
「ねえ、答えて?」
最後は手に持っていた細い棒――間近で見るとそれは指揮者の持つタクトだった――の先端をわたしの鼻先に突きつけてきた。
マモル君のガラス玉のような目は感情が読めないけれど、どうやら怒っていらっしゃるようだ。
「わかった! わかりました! これから藤堂君のことは『弥一君』って呼ぶことにするから。試験勉強もいっしょにするって約束する!」
大きな声で宣言すると、マモル君は無表情のままタクトを下ろしてくれた。
それにホッとするよりも、気がかりなことがある。
マモル君が人間ではないことはわかったけど、やけにわたしと藤堂君の事情にくわしいのはなぜだろう。
ふだんは藤堂君の背中にいる子なんだろうか。
それにしたって、まるで藤堂君の気持ちを代弁するかのような口ぶりだし、しかもその内容がまた気になる。
マモル君が言っていることが本当なら、藤堂君はわたしに下の名前で呼ばれたいと思っていて、いっしょに中間テストの勉強をしたがっていたことになる。
そしてわたしと同じようにあの勝負をケンカしたんじゃないかと気にしていて、物理の勉強で藤堂君を頼らなかったことが不満で、さらには冗談なのか本気なのかよくわからなくてわたしが保留していた「初カレ宣言」への返事をずっと待っていたということだ。
それってやっぱり……。
「あのね、マモル君。藤堂君ってもしかして……わたしのこと好きなの?」
返事を聞く前にマモル君の姿がフッと消える。
――と思ったら、後ろから声がした。
「好きだよ」
「うわあっ!」
びっくりして振り返るとそこには、人形を手にした藤堂君が立っていた。
「なんだよ、俺のせっかくの告白の返事がそれ?」
腰を抜かすわたしを見て藤堂君がムスっとしている。
いやいや、タイミングが悪すぎるでしょ!
こんなホラーな告白があってたまるかっ!
青ざめるわたしを見て藤堂君も気づいたらしい。
みけんにしわを寄せて低い声で聞いてくる。
「どんなヤツがいた?」
「6歳ぐらいの男の子で、白いポロシャツと黒い半ズボンで、いつも細い棒を持ってて……マモルって自分で名乗ってたけど」
声がふるえてしまう。
「マモル? 本当に?」
「藤堂君のことを『弥一』って親し気に呼んでた。マモル君のこと知ってるの?」
「ちょっと待ってて!」
藤堂君は何か思い当たることがあったようで、あわててどこかへ行ってしまった。
バタバタという足音がだんだん遠ざかっていく。
待って! 置いていかないでえぇぇぇっ!
間取りのよくわからない家でへたに動くのは怖い。
立ち上がることすらできないまま、ただじっと藤堂君がもどってくるのを待つほかない。
早くもどってきて!
そう祈り続けていたのに――。
「ねえ」
背後から聞こえた声に肩がビクっとなった。
来た! ほら来ちゃったじゃない!
藤堂君のばかあっ!
さっき普通に話していたのだから、いまさら聞こえないふりはできない。
そんなことをすれば逆に怒らせて何かよくないことをされる可能性だってある。
しかたなく、まるで壊れかけたロボットのようなぎこちない動きで後ろを向いた。
そこに立っているのは予想通りマモル君だ。
「マモル君って藤堂君の弟じゃなかったんだね」
座ったまま体をマモル君のほうへ向ける。
ちょっと責めるような口調になってしまった。
藤堂君には「マモル」がだれなのか、あるいは何なのか心当たりがあるようだったけど、もう正直そんなことはどうだっていいからお引き取りねがいたい。
何度かこの家で見かけたことがあるのに、この子の表情がまったく動かないことにどうして気づかなかったんだろう。
「なんで弥一のこと『弥一』って呼ばないの?」
またそれ?
「だからね、それは……」
「なんでいっしょに試験勉強しなかったの?」
「はっ!?」
マモル君が一歩こっちに近づいて来る。
部屋の温度が少し下がった気がした。
今すぐに逃げ出したいところだけど、足の力が抜けて立ち上がれそうにない。
「なんでケンカになっちゃったの?」
「なんでほかの人に物理を教えてもらったの?」
「いつになったら、もう付き合ってるってことでよろしくって言った返事をしてくれるの?」
マモル君はわたしが答える間もあたえてくれずに矢継ぎ早に質問しながら一歩一歩近寄ってくる。
「ねえ、答えて?」
最後は手に持っていた細い棒――間近で見るとそれは指揮者の持つタクトだった――の先端をわたしの鼻先に突きつけてきた。
マモル君のガラス玉のような目は感情が読めないけれど、どうやら怒っていらっしゃるようだ。
「わかった! わかりました! これから藤堂君のことは『弥一君』って呼ぶことにするから。試験勉強もいっしょにするって約束する!」
大きな声で宣言すると、マモル君は無表情のままタクトを下ろしてくれた。
それにホッとするよりも、気がかりなことがある。
マモル君が人間ではないことはわかったけど、やけにわたしと藤堂君の事情にくわしいのはなぜだろう。
ふだんは藤堂君の背中にいる子なんだろうか。
それにしたって、まるで藤堂君の気持ちを代弁するかのような口ぶりだし、しかもその内容がまた気になる。
マモル君が言っていることが本当なら、藤堂君はわたしに下の名前で呼ばれたいと思っていて、いっしょに中間テストの勉強をしたがっていたことになる。
そしてわたしと同じようにあの勝負をケンカしたんじゃないかと気にしていて、物理の勉強で藤堂君を頼らなかったことが不満で、さらには冗談なのか本気なのかよくわからなくてわたしが保留していた「初カレ宣言」への返事をずっと待っていたということだ。
それってやっぱり……。
「あのね、マモル君。藤堂君ってもしかして……わたしのこと好きなの?」
返事を聞く前にマモル君の姿がフッと消える。
――と思ったら、後ろから声がした。
「好きだよ」
「うわあっ!」
びっくりして振り返るとそこには、人形を手にした藤堂君が立っていた。
「なんだよ、俺のせっかくの告白の返事がそれ?」
腰を抜かすわたしを見て藤堂君がムスっとしている。
いやいや、タイミングが悪すぎるでしょ!
こんなホラーな告白があってたまるかっ!
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