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狐祭り当日の土曜日。
藤堂君は書道部の練習に出たあと、夕方の約束の時間に間に合うように待ち合わせ場所の駅前に来てくれた。
「おまたせ」
そう言ったっきり藤堂君が黙り込んでわたしの姿を眺めている。
浴衣がなにかおかしいだろうか。
いとこの美紀ちゃんからもらった浴衣は、白地に赤とミント色の花の柄があしらわれたかわいいデザインだった。
社会人になった美紀ちゃんにはたしかにちょっと子供っぽい柄だと思ったけど、わたしには年相応のはずなのに。
それとも、もしかすると張り切りすぎって思われたかもしれない。
藤堂君はジーンズにグレーのTシャツという普段着だ。
「おかしいかな……?」
不安になって思わず小声で尋ねると、藤堂君は慌てた様子で首を横に振った。
「かわいい。俺も浴衣にすればよかった」
ぶすくれたように言った藤堂君がわたしの手を取る。
「歩きにくいだろ」
これまたぶっきらぼうに言いながらも、優しくわたしの手を引いて駅の改札へと向かう。
藤堂君の耳が赤いように見えるのは、気のせいだろうか。
かわいいと言ってもらえたことと手を握られたことで、わたしも顔が火照るのを抑えられない。心臓もドキドキしっぱなしだ。
電車の乗り降りも手をつないだまましっかりエスコートしてもらった。
照れくさいしうれしいけれど、ここでふとある疑問が頭の中をかすめた。
ずいぶん慣れてない?
藤堂君が妖背負いこむことになったのは2年前からだと聞いている。
ということは、それまでは女の子とこんなふうにデートしていたのかもしれない。
だからどうした。
そう思いながらも、なんだかモヤモヤしてしまう。
2駅先、稲荷神社の最寄り駅には、わたしたちと同じようにお祭りに来たと思われる人たちであふれていた。
駅前のロータリー広場は、すっかりお祭りムードだった。
露店が並び、ソースやしょうゆの香ばしいにおいが漂っている。
「やべ、腹減ってきた」
藤堂君はやきとりを買い、わたしはピカピカ光る容器に入ったソーダをふたり分買った。
駅のロータリーを抜けて大通りに出ると、両側の歩道に人がたくさん待機している。
「こっち」
藤堂君が人の少ないところを見つけて手を引いてくれた。
「もう少ししたら、お狐様の行列がここを通るから」
藤堂君がやきとりを食べ終わるころには沿道の観客がさらに増えて、詰めるために藤堂君と体をぴったり寄せ合うようになった。
「大丈夫?」
「うん、平気」
気遣ってくれる藤堂君に笑顔で答えるものの、本当は心臓がうるさくて仕方ない。
藤堂君は書道部の練習に出たあと、夕方の約束の時間に間に合うように待ち合わせ場所の駅前に来てくれた。
「おまたせ」
そう言ったっきり藤堂君が黙り込んでわたしの姿を眺めている。
浴衣がなにかおかしいだろうか。
いとこの美紀ちゃんからもらった浴衣は、白地に赤とミント色の花の柄があしらわれたかわいいデザインだった。
社会人になった美紀ちゃんにはたしかにちょっと子供っぽい柄だと思ったけど、わたしには年相応のはずなのに。
それとも、もしかすると張り切りすぎって思われたかもしれない。
藤堂君はジーンズにグレーのTシャツという普段着だ。
「おかしいかな……?」
不安になって思わず小声で尋ねると、藤堂君は慌てた様子で首を横に振った。
「かわいい。俺も浴衣にすればよかった」
ぶすくれたように言った藤堂君がわたしの手を取る。
「歩きにくいだろ」
これまたぶっきらぼうに言いながらも、優しくわたしの手を引いて駅の改札へと向かう。
藤堂君の耳が赤いように見えるのは、気のせいだろうか。
かわいいと言ってもらえたことと手を握られたことで、わたしも顔が火照るのを抑えられない。心臓もドキドキしっぱなしだ。
電車の乗り降りも手をつないだまましっかりエスコートしてもらった。
照れくさいしうれしいけれど、ここでふとある疑問が頭の中をかすめた。
ずいぶん慣れてない?
藤堂君が妖背負いこむことになったのは2年前からだと聞いている。
ということは、それまでは女の子とこんなふうにデートしていたのかもしれない。
だからどうした。
そう思いながらも、なんだかモヤモヤしてしまう。
2駅先、稲荷神社の最寄り駅には、わたしたちと同じようにお祭りに来たと思われる人たちであふれていた。
駅前のロータリー広場は、すっかりお祭りムードだった。
露店が並び、ソースやしょうゆの香ばしいにおいが漂っている。
「やべ、腹減ってきた」
藤堂君はやきとりを買い、わたしはピカピカ光る容器に入ったソーダをふたり分買った。
駅のロータリーを抜けて大通りに出ると、両側の歩道に人がたくさん待機している。
「こっち」
藤堂君が人の少ないところを見つけて手を引いてくれた。
「もう少ししたら、お狐様の行列がここを通るから」
藤堂君がやきとりを食べ終わるころには沿道の観客がさらに増えて、詰めるために藤堂君と体をぴったり寄せ合うようになった。
「大丈夫?」
「うん、平気」
気遣ってくれる藤堂君に笑顔で答えるものの、本当は心臓がうるさくて仕方ない。
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