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10皿目 試練の塔とクッキー型の秘密

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 デザートまで全て食べ終えてレオナルドが淹れてくれた紅茶を飲む頃には、窓から見える空がオレンジ色に染まっていた。

「ところで、さっき『大食いの呪い』って言ってたけど、どういった経緯で?」
 レオナルドが首を傾げる。
 大食いの呪いにかかる魔道具は、クッキー型だけではないらしい。
 リリアナはマジックポーチから、大食いの呪いをもたらした星の形のクッキー型を取り出しテーブルの上に置く。
「これよ」
 レオナルドはクッキー型を持ち上げると、手首を動かして外側と内側を見てまたテーブルに戻した。

「説明書、読まなかったの?」
「なかったの」
 リリアナはテオとは違い、説明書を読まないタイプではない。ごく普通に見えるこのクッキー型が実は魔道具だと最初から知っていれば、触れることさえしなかったはずだ。
「お父様の誕生日にクッキーを焼いてプレゼントしようと思ったの。そしたらどういう訳かこのクッキー型が混ざっていて、呪われちゃったってこと」
 実家で起きた不幸な事故について、かいつまんで説明した。

「ふうん。それで、大食いを解除していいんだね?」
 レオナルドが口の片方だけを上げてなにか言いたげな顔をしている。
「どういう意味?」
 眉を顰めるリリアナに、レオナルドはくくっと笑って椅子の背にもたれた。
「大食いでなくなったら、このクッキー型を活かせなくなるって意味だよ」

 思わせぶりな言い方に戸惑うリリアナだ。
「知らないままで構わないわ。わたしは大食いの呪いを解いてもらって、冒険者を引退するつもり……」
 ふとハリス、テオ、コハクの顔が浮かんできて、言葉が尻すぼみになった。

「特別に教えてあげよう。その上で決めるといいよ」
 レオナルドが立ち上がってクッキー型を手に取る。
「これはね――」

 ******

「またおいで」
 クッキー型を握るリリアナを、レオナルドが優しく抱きしめる。
 リリアナが別れの言葉を告げる前に視界が暗転した。
 数回の瞬きの後、リリアナはガーデンの門の外に立っていることに気づいた。
 まだレオナルドの温もりが残っていて、まるで夢を見ていたかのようだ。

「リリアナ!」
 テオの声が聞こえた瞬間、ぎゅうっと抱きしめられる。
「日が暮れても戻ってこないから心配してた」
 テオの吐息が耳に当たってくすぐったい。リリアナは、うふふっと笑った。
「レオナルドに会ってきたわ。顔を合わせるなり殴ってやったわよ」

 テオの肩越しに、ハリスとコハクが見える。
「そうか。じゃあこれから祝賀会だな」
 ハリスが破顔し、コハクが足元にすり寄ってきた。
 
「腹減ってるだろ、さっそく……」
 体を離したテオが張り切った様子でリリアナの手を引こうとして動きを止め、顔をくしゃりとゆがめる。
「そうか。もう大食いじゃなくなったんだよな」
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