34 / 75
5皿目 ワカヤシのフリッター
(7)
しおりを挟む
一週間後、ネリスがマリールを連れてやって来た。
「さあ、釣って釣って釣りまくって、食べるわよー!」
張りあげた声とともに、リリアナの白い息が煙のように舞った。
目の前にはガチガチに凍りつく湖が見える。
「わあっ!」
嬉しそうな声の主は、ネリスの婚約者マリールだ。
ふわふわの栗色の髪にカチューシャのような耳当てをつけ、大きなサファイアの目を大きく開いてこの光景を楽しんでいる。
隣に立つネリスが頬を赤らめているのは寒さのせいではなく、マリールが可愛らしいせいだろう。
「ネリス様! お誘いありがとうございます!」
マリールがネリスに笑顔を向ける。
「ああ……うん」
ネリスの返事はそっけなく、マリールがシュンとしてしまった。
そういうところよっ!
リリアナは、心の中でシャイなネリスにツッコミを入れる。
大衆食堂ではあんなに滑らかにしゃべっていたくせに、大好きな婚約者を前にすると上手く話せなくなるらしい。
マリールのほうは、ネリスにこんな態度ばかりとられて勘違いしているのだろう。彼は政略的な婚約を渋々受け入れただけだと。
将来が不安だと言われてしまうのも無理はない。
「任せてちょうだい。一緒に釣りをしてラブラブ度アップよ!」
「ちげーし。俺とあいつの釣り対決だろ」
まだそんなことを言っているのかとリリアナが呆れた顔をしても、テオはお構いなしに釣り道具一式を持って凍った湖面に向かって駆けていった。
リリアナたちも氷の上に立つ。
「エサはイモムシとスライムだんごの二種類があるけど、どっちにする?」
リリアナがネリスたちに木箱を差し出した。
イモムシが入っている箱は蓋を閉めたままだ。
本来ならばワカヤシ釣りのエサはイモムシだが、虫が苦手なリリアナはイモムシを素手で触ることに抵抗がある。
マリールもそうかもしれないと思い、代替品がないかと悩んだ末に思いついたのがスライムにエサと同じ味付けをすることだった。
スライムの味変魔法は、どんな味にしたいかを想像しながら魔力をこめるため、本来は味を知らなければかけられない。
この日のために、エサ用のイモムシを買ってテオに匂いをかがせ、ブルースライムのゼリーに味付けしてみる試行錯誤を繰り返した。
「あのなあ、自分で嗅いだ方が早いんじゃねーか?」
テオはそう言いつつも、直接イモムシに鼻を近づけて匂いをかぐことを断固拒否するリリアナに辛抱強く付き合ってくれた。
テオいわく、ワカヤシ釣りのエサとして使用するイモムシは、焼いてもいないのに香ばしい匂いがするらしい。
今朝、リリアナとテオはエサとなるスライムを調達するために初心者エリアへ行き、ハリスはワカヤシをフリッターにするための牛脂を調達しに草原エリアへ行って、それぞれ準備を整えてからネリスとマリールに合流した。
「両方もらっておこう」
「スライムのほうは、大きさも形を好きなように練って使ってね」
イモムシと遜色ないエサになったと自負しているリリアナだ。
ネリスに木箱をふたつとも渡し、次にアイスドリルの使い方を説明した。
実演しながら氷に穴を開け、もうひとつはふたりでやってみてとアイスドリルをマリールに手渡した。
氷の上で待機させるのはさすがに酷だろうと考え、コハクは湖の外側で調理に準備をするハリスのそばにいてもらった。
ハリスがマジックポーチから取り出した折り畳み式テーブルを組み立て、魔導コンロをセッティングするのを確認したリリアナは、次に視線を遠くに向ける。
そこではすでにテオが釣りを始めていた。
勝負とかいいながらフライングしてるじゃないの!
眉をひそめるリリアナの耳に、マリールの楽しそうな声が聞こえる。
「ネリス様、もう少しですわ!」
アイスドリルを懸命に回すネリスを、マリールが応援している。
「よし!」
貫通した手ごたえを感じたネリスがマリールに笑顔を向けた。
いい感じだわ!
リリアナは顔を綻ばせながら、少し離れた位置で釣りの用意を始めた。
「さあ、釣って釣って釣りまくって、食べるわよー!」
張りあげた声とともに、リリアナの白い息が煙のように舞った。
目の前にはガチガチに凍りつく湖が見える。
「わあっ!」
嬉しそうな声の主は、ネリスの婚約者マリールだ。
ふわふわの栗色の髪にカチューシャのような耳当てをつけ、大きなサファイアの目を大きく開いてこの光景を楽しんでいる。
隣に立つネリスが頬を赤らめているのは寒さのせいではなく、マリールが可愛らしいせいだろう。
「ネリス様! お誘いありがとうございます!」
マリールがネリスに笑顔を向ける。
「ああ……うん」
ネリスの返事はそっけなく、マリールがシュンとしてしまった。
そういうところよっ!
リリアナは、心の中でシャイなネリスにツッコミを入れる。
大衆食堂ではあんなに滑らかにしゃべっていたくせに、大好きな婚約者を前にすると上手く話せなくなるらしい。
マリールのほうは、ネリスにこんな態度ばかりとられて勘違いしているのだろう。彼は政略的な婚約を渋々受け入れただけだと。
将来が不安だと言われてしまうのも無理はない。
「任せてちょうだい。一緒に釣りをしてラブラブ度アップよ!」
「ちげーし。俺とあいつの釣り対決だろ」
まだそんなことを言っているのかとリリアナが呆れた顔をしても、テオはお構いなしに釣り道具一式を持って凍った湖面に向かって駆けていった。
リリアナたちも氷の上に立つ。
「エサはイモムシとスライムだんごの二種類があるけど、どっちにする?」
リリアナがネリスたちに木箱を差し出した。
イモムシが入っている箱は蓋を閉めたままだ。
本来ならばワカヤシ釣りのエサはイモムシだが、虫が苦手なリリアナはイモムシを素手で触ることに抵抗がある。
マリールもそうかもしれないと思い、代替品がないかと悩んだ末に思いついたのがスライムにエサと同じ味付けをすることだった。
スライムの味変魔法は、どんな味にしたいかを想像しながら魔力をこめるため、本来は味を知らなければかけられない。
この日のために、エサ用のイモムシを買ってテオに匂いをかがせ、ブルースライムのゼリーに味付けしてみる試行錯誤を繰り返した。
「あのなあ、自分で嗅いだ方が早いんじゃねーか?」
テオはそう言いつつも、直接イモムシに鼻を近づけて匂いをかぐことを断固拒否するリリアナに辛抱強く付き合ってくれた。
テオいわく、ワカヤシ釣りのエサとして使用するイモムシは、焼いてもいないのに香ばしい匂いがするらしい。
今朝、リリアナとテオはエサとなるスライムを調達するために初心者エリアへ行き、ハリスはワカヤシをフリッターにするための牛脂を調達しに草原エリアへ行って、それぞれ準備を整えてからネリスとマリールに合流した。
「両方もらっておこう」
「スライムのほうは、大きさも形を好きなように練って使ってね」
イモムシと遜色ないエサになったと自負しているリリアナだ。
ネリスに木箱をふたつとも渡し、次にアイスドリルの使い方を説明した。
実演しながら氷に穴を開け、もうひとつはふたりでやってみてとアイスドリルをマリールに手渡した。
氷の上で待機させるのはさすがに酷だろうと考え、コハクは湖の外側で調理に準備をするハリスのそばにいてもらった。
ハリスがマジックポーチから取り出した折り畳み式テーブルを組み立て、魔導コンロをセッティングするのを確認したリリアナは、次に視線を遠くに向ける。
そこではすでにテオが釣りを始めていた。
勝負とかいいながらフライングしてるじゃないの!
眉をひそめるリリアナの耳に、マリールの楽しそうな声が聞こえる。
「ネリス様、もう少しですわ!」
アイスドリルを懸命に回すネリスを、マリールが応援している。
「よし!」
貫通した手ごたえを感じたネリスがマリールに笑顔を向けた。
いい感じだわ!
リリアナは顔を綻ばせながら、少し離れた位置で釣りの用意を始めた。
10
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~
新米少尉
ファンタジー
「私は私の評価を他人に委ねるつもりはありません」
多くの者達が英雄を目指す中、彼はそんなことは望んでいなかった。
ただ一つ、自ら選択した道を黙々と歩むだけを目指した。
その道が他者からは忌み嫌われるものであろうとも彼には誇りと信念があった。
彼が自ら選んだのはネクロマンサーとしての生き方。
これは職業「死霊術師」を自ら選んだ男の物語。
~他のサイトで投稿していた小説の転載です。完結済の作品ですが、若干の修正をしながらきりのよい部分で一括投稿していきますので試しに覗いていただけると嬉しく思います~
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。
黒き叛竜の輪廻戦乱《リベンジマッチ》
Siranui
ファンタジー
そこは現代であり、剣や魔法が存在する――歪みきった世界。
遥か昔、恋人のエレイナ諸共神々が住む天界を焼き尽くし、厄災竜と呼ばれたヤマタノオロチは死後天罰として記憶を持ったまま現代の人間に転生した。そこで英雄と称えられるものの、ある日突如現れた少女二人によってその命の灯火を消された。
二度の死と英雄としての屈辱を味わい、宿命に弄ばれている事の絶望を悟ったオロチは、死後の世界で謎の少女アカネとの出会いをきっかけに再び人間として生まれ変わる事を決意する。
しかしそこは本来存在しないはずの未来……英雄と呼ばれた時代に誰もオロチに殺されていない世界線、即ち『歪みきった世界』であった。
そんな嘘偽りの世界で、オロチは今度こそエレイナを……大切な存在が生き続ける未来を取り戻すため、『死の宿命』との戦いに足を踏み入れる。
全ては過去の現実を変えるために――
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる