恐怖! 土蜘蛛村

ミロrice

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第一話 恐怖! 土蜘蛛村

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「大丈夫か!? なにがあった!?」
 真が駆けつけると、莉子はよろけて膝をついた。真のポンチョを両手で掴む。
「ひいっ、かっ、かっ、あはははは」
 莉子は笑いはじめた。全身ずぶ濡れで激しく震えていた。ずり落ちそうな眼鏡には水滴がびっしり付いている。
「おい! しっかりしろ! 莉子!」
 追いついてきた早月が目を丸くした。
「くそっ」
 真は莉子を横抱きに抱えると、キャンプ地へ運んだ。早月が着替えたテントに運び入れる。
「着替えさせてくれるか?」
「は、はいっ」
 早月がテントに入ると、真は莉子のバッグをテントに運んだ。
 しばらくして、早月がテントから顔を出した。
「終わりました」
 真はテントに半分入ると、銀色の薄いシートをケースから出した。背中から莉子を覆う。
「莉子、なにがあった?」
 真が声をかけたが、莉子は虚ろな目でなに事かをぶつぶつとつぶやくばかりだ。
「莉子!」
 真が強く肩を揺さぶると、莉子は目が覚めたように眼を見開いた。
「真くん……」
「なにがあった?」
 真が優しく声をかけると、莉子の体が震えはじめた。
「かっ、怪物っ! ここには、人を食べる怪物がいるっ!」
 莉子は真のポンチョを掴んだ。
「怪物?」
「人を……食べる……?」
 早月が眼を見開く。
「笠原くんが食べられてた! きっと他のみんなも、あいつに食べられたんだっ!」
「落ち着け、莉子」
「か、怪物だって? 人を食べる? そんなバカな」
 テントの外で輪之内が言った。
「ホントだって! 逃げよう! 車で逃げようよう!」
「待て待て、莉子。車の鍵は笠原が持ってるんじゃないか? だとしたらあいつを探さないと」
「そんなっ! もうダメだ! もう……」
 莉子は濡れた髪に指を入れて、むちゃくちゃにかき混ぜた。うつむいて動かなくなる。
「り、莉子……そ、そうだ、なにかいるにしても、車の中の方が安全だろう。行ってみよう」
 莉子は勢いよく顔を上げた。
「行こう! 今すぐ!」
 すぐにテントから出ていこうとするのを、
「雨具を着てからだ、また濡れるぞ。早月ちゃん」
「はい」
 早月が莉子のバッグから取り出したのは、ド派手な紫色の奇妙な柄の入ったポンチョだった。


「早く早く」
 まだ足元が心もとない莉子を先頭にワゴン車に向かった。車が見えてくる。
「嘘だろ……」
 輪之内がつぶやくように言ったあと、
「どうなってんだ!」
 真も眼をうたがった。駆けつけて、ワゴン車が横様に倒れているのを確認できるところで足を止めた。
「まさか……」
「あいつだ! あいつがやったんだ!」
 莉子が金切り声を上げた。
「真さん……」
 早月が真のポンチョを二度引いた。
「ん?」
 真が早月の顔を見ると、早月は眼をまん丸にして、ワゴン車の向こう側を震える指で指差した。
「あれ、なんですかね……?」
 フラッシュライトに光る雨の幕を通して、海津が変化した怪物が頭をこちらに向けてうずくまっているのが見えた。
「……蜘蛛くも……なのか?」
「やっぱり! 逃げて! 食べられる!」
 莉子の叫び声に、真は我に返った。
「逃げるぞ!」
「えっ……」
 いまだに茫然としたままの早月の手を、真は強く引いた。手を繋いだままキャンプ地へ向かう。
「ひいいっ!」
 早月はいつの間にか、全力で走っていた。背後から水を蹴立てる足音が迫ってくる。
「なにやってんだ!」
 前方から輪之内の怒鳴る声が聞こえた。莉子がテントに潜り込もうとしているのを引っ張り出している。
「見えなきゃ平気だから! 離して!」
「そんなわけあるか!」
 莉子はパニクっている。真はそう思った。
「怪物! こっちだ!」
 真は叫んだ。怪物の標的が莉子たちにいかないようにだ。
 真と早月はキャンプ地の横を走り抜けた。怪物の足音は真たちを追ってくる。
「ごめんよ」
 真は言った。
「大丈夫です」
 早月は真の手を握る手に力を込めた。
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