恐怖! 土蜘蛛村

ミロrice

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第一話 恐怖! 土蜘蛛村

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「なんだぁ? 大和はまだ戻ってないのか?」
 笠原が辺りをフラッシュライトで照らした。木立や廃屋を闇に浮かび上がらせただけで、ふたりの姿は見えない。
「礼奈さんもいませんね」
 早月が不安気に言った。
「どこかでイイコトやってるとか?」
 輪之内がどこか引きつったにやにや笑いで言った。
「礼奈ちゃんが? そんなことある?」
 莉子が言った。
「うーん、ちょっと心配だな。大和を見てくるか、ひょっとして酔っぱらって寝てるのかも」
 真が言った。
「そんなに飲んでなかったと思いますけどねえ」
「笠原、一緒に行こう。なにかトラブルがあってたら、俺ひとりじゃしんどい」
「あ、ああ、わかった」
「莉子たちは近くに礼奈がいないか探してみてくれ」
「アイサー」
 真と笠原は海津が向かった建物の裏手へ歩いていった。
 建物の裏手は丈の高い草が生えていた。元は畑だったのだろうか。海津が踏み倒した跡がある。ふたりはそれを頼りに進んだ。
「おーい、大和ー!」
「大和ー! いるなら返事しろー!」
 少しいくと、地面に明かりが見えた。
「おい」
「ああ」
 真と笠原は、明かりに足早に近づいた。スイッチの入ったフラッシュライトが落ちていた。
「……な、なんでだ?」
 笠原の声は少し震えていた。
「……なんてこった」
 真が地面にフラッシュライトを向けた。赤いなにかに地面の小石と倒れた草が染まっていた。
「ま、まさか……血?」
 笠原が照らすフラッシュライトの輪が細かく震えた。
「大和! 近くにいるのか! 返事をしろ!」
 真が怒鳴って辺りを照らした。奥へ進もうとする真の肩を、後ろから笠原が掴む。
「待て待て! いったん戻ろう!」
「しかし──」
「いいから来い!」
 笠原は真のシャツの肩辺りを掴むと、強く引いた。真は後ろを照らしながらも、おとなしく笠原に引かれた。


「礼奈ちゃんは近くにいないみたいですねえ……どうしたんですか?」
 キャンプ地に戻った真と笠原に莉子が声を掛けたが、ふたりの様子を見て眉をひそめた。
「……大和は……多分怪我をしている……」
「えっ!」
 笠原の言葉に莉子ら三人は驚いた。
「姿もなかった」
 真が言った。
「ど、どうして……」
「わからん」
「も、もう帰ろうよ! こんなとこ、怖いよ!」
 奈由子が笠原に掛けよって体に触れた。
「ちょっと! 礼奈ちゃんはどうするんですか!」
 莉子が高い声で叫んだ。
「そうだ、礼奈を探さないと。莉子たちが礼奈と分かれたところまで行ってみよう」
 真が四ツ辻までの道に、早足で向かった。
「あっ、待ってくださいよう!」
 莉子と早月と輪之内があとを追う。
 それに続こうとした笠原の腕を、奈由子が両手で掴んだ。
「こ、航太っ!」
「礼奈やあいつらを置いていくわけにはいかないだろう? ここで待っとくか?」
「やだやだっ!」
 奈由子は激しく頭を振った。脚はがくがくと震えている。
「行くぞ」
 笠原と奈由子も真たちのあとを追った。


 いつの間にか、廃村には霧が立ちこめていた。フラッシュライトの明かりも霧を照らしてあまり視界が効かない。わずかに気温も下がった。
「まずいな、雨が降るかもしれん」
 真はつぶやくように言った。
 四人は礼奈の名を呼びながら、道路脇の草むらを照らしながら進んだ。
 真は早足に道を進む。
 うっかり落ちそうな段差は見当たらなかったが、莉子は、礼奈がなにかにつまずいたかもしれないと、丁寧に草むらを照らして進む。
「あれ?」
 いつの間にか、莉子はひとりぼっちになっていた。


「礼奈ー!」
 真たちは四ツ辻を過ぎて、まっすぐに進んでいた。
「どの辺りで分かれたんだ?」
 真が尋ねた。
「んー、霧で分かりにくいが、もうちょっと先かな」
 輪之内が答えた。
 しばらくして、真は礼奈が入った脇道を見つけた。
「礼奈?」
 真はフラッシュライトで脇道を照らした。やはり霧が白く光を反射して、視界は悪い。
「礼奈? いるのか?」
 左右から廃屋が迫ってくる細い路地だ。真はゆっくりと足を運んだ。風も強まったようで、霧が背中から奥の方へと流れていく。それでも、真はかすかな異臭を嗅ぎつけた。
「なんだ?」
 真は足を進め──。
「真さん、大変です!」
 後ろからの早月の声に、真はどきりとして振り返った。
「どうした!?」
 真は振り返って、脇道を戻った。
「莉子さんがいません!」
 早月が叫ぶように言った。
「ええっ?」
 確かに莉子の姿が見えなかった。
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