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第一話 恐怖! 土蜘蛛村
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しおりを挟む三十分ほど脇道を進むと、右際に背の高い雑草の生い茂る空き地があった。半ば草に埋もれるようにして、白い乗用車が駐められている。
「あーあ、放置されてるよ」
輪之内が言った。
車は木の葉や埃にまみれて汚れていた。しかし、ガラスは割れてもいないし、傷や錆びも見当たらないことに真は気づいた。
「ん? あれって──」
真の言葉は、
「おっ! 村が見えた!」
輪之内によって遮られた。
真も気を取られ、首を伸ばして前方を伺った。
かなり暗くなっていたが、建物の影がかろうじて見える。
「おおっ、すごい!」
「やだ、気持ち悪い……」
車内の反応は様々だったが、明かりや人の姿は見えず、さびれた様子は確かに廃村のようだ。
「やれやれ、やっと到着か」
笠原が深く息を吐いた。
村に入る前に倒木が道をふさいで、それ以上前に進めなくなった。笠原はブレーキを踏んでワゴン車を停めた。
「どうする?」
笠原が言った。倒木はさほど大きくはなく、男四人で動かせそうだった。
「もう車はここに置いとこう。村はすぐそこだし」
輪之内が言って、
「そうだな」
と笠原はパーキングブレーキを踏んだ。倒木のすぐ向こうに建物がいくつか並んでいる。
「よし! 荷物を運ぶぞ!」
「ホントにこんなとこでキャンプするのぉ?」
何人かは不平をもらすが、結局全員ワゴン車から降りると、ハッチを開けて荷物を取り出し始めた。ふたつの大きなクーラーボックスを男四人で運ぶ。
奈由子と莉子がフラッシュライトで前方を照らす。礼奈と早月がタープなどのキャンプ道具を抱えて男四人のあとをついてきた。
「ちょっと早月ちゃん、大丈夫?」
礼奈の声に真が後ろを見ると、早月が自分の荷物の他に大きな袋を抱えていた。安物のタープなので、結構な重量がある物だ。
「だ、大丈夫です」
「無理するなよ、あとでまた取りにくればいいんだから」
真が声をかけると、
「いえ、こう見えても、わたし、力持ちなんで」
そう言った早月の足元はかなり頼りない。
「ふらふらしてるじゃない」
と笑った礼奈が、タープ袋の端を持った。ふたりで運ぶことになった。
「ありがとうございます」
「ドンマイ」
早月と海津は二年生で、他は三年だ。
「うわー、かなり時間が経ってますねー」
莉子が辺りの建物をフラッシュライトで照らしながら、嬉しそうな声で言った。
建物はほとんどが木造で、玄関のないものも多く、ちらりと見える内部はかなり荒れ果てているようだ。傾いでいる家も多い。
「危ないぞ、中に入ったりするなよ」
真が言うと、
「ええっ? 本気ですか?」
莉子が笑いながらフラッシュライトで真の顔を照らした。
「こら、まぶしい」
「へへっ」
「廃村に来て探検するなとは酷ですねえ」
海津が笑った。
「おい」
「おっ、海津くんはわかってますねえ」
「まったく、お前らは」
そう言った真も笑った。
「ここら辺がよさそうだぞ」
笠原が声を上げた。
広い庭のある大きな家があって、庭には砂利が敷かれているからか、雑草もそれほど多くない。火を使うところの草を刈れば火を使っても問題ないだろうと真は思った。
荷物を置いて、ワゴン車に引き返し、残った荷物を運んだ。
テントやタープは他の者に任せて、真はバーベキューコンロをふたつ組み立てると、炭を熾すことにした。
バーベキューコンロの周りの雑草を適当に引っこ抜き、道路に放った。
新聞紙を雑巾のように硬くねじって三角形に立てかけ、その周りに炭を置いていく。こよりにした新聞紙に火を付け、その火をねじった新聞紙に移すと、炎が上がった。あとは炭が赤く燃えるのを待つだけだ。
辺りはすでに暗くなり、電池式のランタンに明かりを灯した。
テントはふたり用がふたつと、四人用がひとつが組み上がった。タープはバーベキューコンロから少し離れたところに立った。
炭もうまく火がついて、赤く燃え上がる。
折りたたみ式の椅子をバーベキューコンロの周りに置いて、テーブルをふたつ立てた。
「よし、準備完了だ」
「やった! 焼き肉焼き肉ぅ!」
「まずはビールで乾杯といこうぜ」
輪之内がクーラーボックスから冷えた缶ビールを出して、他の者に回していく。
「あ、わたしはウーロン茶で」
早月が言った。
「あれ? なんで?」
礼奈が言った。
「わたし、まだ十九です。あと十日は」
「十日くらい大丈夫だって」
奈由子が缶ビールを早月に差し出す。
「いえ、ダメです」
早月は両手を振った。
「真面目だなぁ」
「まあ、無理強いはよくないぞ」
「ちぇー」
「んじゃウーロン茶」
「すみません」
「じゃあ笠原、乾杯の挨拶を」
輪之内が言った。
「あ? まじ?」
笠原は咳払いをすると立ち上がった。
「えー、それではセンエツながら──」
「カンパーイ!」
莉子が缶ビールを突き出した。
「カンパーイ!」
「おいおい」
いつものやり取りだ。
「カンパイ」
真は隣に座る早月に缶ビールを差し出した。
「あ、カ、カンパイ」
早月がウーロン茶の入ったプラスチックのカップを真の缶ビールに合わせた。
「んじゃ、肉、焼くわよー」
礼奈がパックの牛肉をトングで焼き網に乗せていく。じゅうと音が上がった。
肉は焼けるそばから誰かの取り皿に消えていく。
笑い声が暗い空に吸い込まれていった。
それは、日が落ちるとねぐらから這いだした。
音もなく近くの木へ登っていく。
村に明かりが見えた。人の声もわずかに届く。
それは、木から滑るように降りると、明かりに向かって進んでいった。
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