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第三大陸編

虫地獄②

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 とても。そう、とても気持ち悪い光景だ。

『狩がいがありますね!』

 そんな俺の心境など知らないフィズリールは楽しそうにそう言った。
 だがまあ、気持ち悪いのは確かなのだが、これだけ条件が揃った環境ならば殲滅は一瞬で済ませられるだろう。

「フィズ。形態変化土。んで、後ろにいな」
『了解しました』

 俺はフィズに指示をして、魔術を唱える。

「”Needle hell針地獄”」

 魔術名のまんま。
 地属性の魔術で周辺の地面。洞窟だったら壁や天井から無数の針を突出させる範囲魔術だ。
 効果範囲は魔力値の高さによって広くなっていく。
 カンステならその範囲は相当な広範囲となる。
 今いるこのエリアならば全面覆うことが出来るだろう。

「よし」

 予想通りの結果だ。
 辺りを見回すと、無数の針が洞窟の全面から突出し、エリア内にいた虫を全て射抜いていた。
 虫の生命力という物は恐ろしく強く。全身を串刺しにされているのにも関わらず足がギチギチ動いている奴もいる。
 恐ろしいね。

 針を出現させたまま俺とフィズは奥へと歩みを進めた。

『さすがですね。あの量の針を出現させるとは』
「レベルのおかげだよ」

 この世界がユグドラシルの世界まんまで助かったよ。まったく。
 ステータス引き継がれてなかったら普通に死んでたわ。
 自分の幸運さに感謝しながら進むこと数分。
 やたらと広い空間にたどり着いた。
 その空間は他の場所と違い、明かりが設置されており空間全体が明るかった。
 天井や壁に目をやると、そこには直径二メートルはありそうな大穴が複数空いていた。
 周りを見回していたら俺以外の足音が奥から響き、共に声がかけられた。

「まさか、あの大軍勢を乗り越えてここまでたどり着く冒険者がいるとは思わなかったよ」

 そう言うそいつは上等な防具を身に着けた冒険者風の若者。

「いや、冒険者と言うよりプレイヤーか。それも噂に名高いノアだとはね。そりゃ抜けられるわけだ」

 ヘラヘラと笑うそいつは俺の事を知っていた。
 冒険者と言うより、プレイヤーの線が高くなった。

「お前はプレイヤーなのか?」
「ええ。僕はプレイヤー。【虫の軍勢】と言ったほうがわかりやすいね」

 【虫の軍勢】。
 ユグドラシルでは虫系のテイマーとしてかなり有名なプレイヤーだ。
 テイムした虫系の魔物は数えきれないほど。
 テイムランキングで常にトップに君臨していた。
 戦闘において虫の軍勢を用いた殲滅が得意と記憶している。

「【虫の軍勢】と名高いプレイヤーが盗賊まがいの行為をしてるとはな」
「盗賊まがいとは酷い。僕はあなたを探していたんだ」
「俺を?」
「ええ。神と名乗る女性から依頼されてね。道行く人を襲っていたのはあなたをおびき寄せるため。いやぁ、数打てば当たるもんだねぇ」

 ニヤニヤと嬉しそうに笑う【虫の軍勢】。

「それで? その女神になんて依頼されたんだ?」
「あなたを殺せ」
「――へぇ」

 あの翼野郎から俺の事を聞いたのか。
 んで、原初の神の力片を取り戻すためにプレイヤーに依頼したわけね。
 そんなに原初の神に復活されたくないのか。

「報酬は? 俺たちプレイヤー――いや、冒険者が報酬を蹴るようなことはしないだろ?」

 ゲームの時だって、今だってそれは変わらない。
 俺たち冒険者は稼ぐために冒険者をしていた。
 依頼をされたのならば、それなりの見返りが提示されているはず。

「レベルのカンスト。それからこの世界での苦のない人生」
「なるほど。元の世界じゃいい人生ではなかったのか。可哀そうに」

 面白いことを言うので完全無意識に口が動いた。
 いや、癖って怖いね。
 ゲームでは揚げ足取りに煽りなどやりまくってたせいか、ノアの身体に染み付いてしまっているようだ。

 それにしてもカンストね。
 努力もなしで手に入れた莫大な力。何が楽しいのだろう?

「黙れッ! 昔の人生なんて忘れたッ!!」

 軽い煽りにも関わらず、彼は激高した。
 煽り耐性無さすぎない?
 それともそんなに酷い人生だったのかな?
 もしそうだとしたら申し訳ないな。如何せん癖なもので。
 許してクレメンス。

「来いッ!」

 激高した彼は何かを呼び出す。
 周りに魔法陣が現れる様子はないが、その代わりに洞窟全体が大きく揺れだした。
 何かを掘り進める音が近づいてくる。
 そして、すぐそこまで来たところで急に揺れと音が収まる。
 次の瞬間だ。彼の後ろの地面が爆発したように弾け、巨大なミミズが姿を現した。

『ワームっ!』

 後ろで歓喜に満ちた声が上がったが気にしないことにしよう。
 その巨大なミミズはワーム系統の魔物。
 その気持ち悪さや倒しにくさからプレイヤーが嫌う魔物ランキング上位の魔物だ。
 通常のワームとは違い、大きさがけた違いでいて色が黒いのでヘル種だとわかる。

「僕のミミは強いよぉ? なんたってカンストして手に入れた強化スキルで最大強化してるからね」

 ヘル・ワームを呼び出したことにより余裕を取り戻したのか、またニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべる【虫の軍勢】。

「ほーん。最大強化ね。そりゃ強そうだ」

 最大強化された。
 確かにそれは脅威となり得るだろう。

「お前、テイマー以外のジョブは?」
「はぁ? サブジョブなんて弱虫がやることじゃないか。真のテイマーはテイマーのみだ」

 当然とばかりに言い張る【虫の軍勢】。

「なるほど」

 確かに一つのジョブを極めると言うプレイヤーは少なくない。
 他のジョブによそ見をせずに上り詰めるのはカッコいいもんな。
 だが、メインとサブのジョブによるステータス上昇を甘く見すぎだ。

「お前は純粋なテイマーなんだな?」
「当たり前だッ!」
「そっかぁ」

 なら、カンストだろうと――

「――敵にすらならないな。フィズ。ワームをやれ」
『了解しました』

 指示をした直後、フィズリールは炎属性に形態変化。
 真後ろで形態変化されたのでその身に纏う炎の熱さがよくわかる。
 いや、熱すぎ。もっと離れて。

 そう思うも一瞬のこと。
 フェニックスのように燃え盛るフィズリールは高速でヘル・ワームに接近すると、身に纏う炎を大きく広げヘル・ワームを包み込んだ。
 声帯を持たないヘル・ワームは断末魔を上げないが、激しく炎が揺れている辺り抵抗しているようだ。
 だが、それも長くはもたない。
 一分も経たないうちに抵抗はなくなり、包み込む炎が弾けると通常形態のフィズが姿を現した。

「な・・・っ!?」

 その光景に言葉も出ない【虫の軍勢】。
 どんなにヘル種を強化しようとも、魔物の頂点に君臨するオリジンに勝てるわけがない。
 レベルもステータスも何もかもが桁違い。

「テイマーとして俺に挑むならレイドボスを五、六匹連れてこい」

 一体じゃ話にならねぇ。

『戻りました』
「おつかれ」
『遊びにすらならないので疲れませんよ』

 それもそうか。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございます!
PvPですね!
カンストで浮かれてんじゃねぇ!
因みにうるふさんはミミズは嫌いじゃないです。素手で捕まえられるくらいには!


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