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水の都ルーセント編

別れ。第三大陸へ

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 灰色のフリューゲルがいなくなった後、俺は疲労の溜まった身体を引き摺って宿へと帰った。
 宿の扉を開けるとうちのパーティーの面々が此方に視線を向けていて、カプリスが飛び付いてきた。
 正面から抱き止めてゆっくり床へと足をつかせる。

「心配させたな」
「ホントだよ~!」

 そんな俺たちの周りに他の面々も集まってくる。

「ノアが逃げろと行ったので逃げましたが、こちらとしては気が気じゃなかったのですよ?」
「悪い。さすがに守りながらじゃアレは無理だったから」
「ん。アナライズでも測れなかった。アレは強い」

 俺の言葉に同意して言葉を紡いだウェル。

「わかってる。わかってるけど~!」

 ぎゅーっと力強く俺の胴を締め付けながら俺の胸に顔をうずめながら言うカプリス。
 そんな彼女にかける言葉が見つからず、俺は優しく撫でることしかできなかった。

「とりあえず、休みませんか? もう、夜も遅いですし」
「そうだな」
『私とフィズで辺りを警戒しておこう。また奴が来るかもしれないからな』
『ですね』

 そう言いながらお座りの状態から立ち上がるギルターと、その背に留まるフィズリール。

「? 倒したんじゃ?」

 そんな二匹を見て疑問を投げ掛けるウェル。

『いえ、警戒しておりましたが、主との戦闘中に突如として気配が消え失せたので逃げたかと。ですよね?』

 フィズは疑問に答え、確認のために俺へと視線を向けてきた。

「ああ、奴は何かメッセージを受け取ったのか、戦闘を打ち切って何処かへと消えたよ」
「そう」
「ギル、フィズ、よろしく頼む」
『任せろ』
『お任せを』

 二人は首肯すると外へと出ていった。

「警戒はあいつらに任せて俺たちは休むとしよう」

 こういう時、睡眠を必要としない魔物の彼らが羨ましい。
 俺は未だに抱き着いているカプリスを抱き上げる。

「カプリスはどうします?」
「離れそうにないから俺んとこで寝かせるよ」
「うらやま」
「ならお前も来るか?」
「卑猥ですね」
「そう取るお前がな」

 どうしてそちらの思考になるのか。

「やめとく。カプ心配してたから」
「そうか。おやすみ」
「ん」

 ウェルは頷くとリーリスに続くように部屋へと向かった。

「全く。心配しすぎだ」

 そう呟いて俺も部屋へと向かう。
 部屋に入り、カプリスを抱いたままベットに座る。

「カプリス」

 俺の言葉に服を握る力が更に強くなった。

「離してくれ」
「いや」
「・・・はあ」

 一言簡潔に拒否の意思を見せたカプリスに思わずため息が出た。
 とりあえず装備を解除しよう。
 UIを表示して装備の項目を展開、現在装備している死神シリーズを解除して寝間着でもある普段着に変える。
 最近気が付いたが、このUIは自分の意志で動かすことができるようで、いちいち手を使わずとも操作ができるらしい。
 これはチャットにも適用されていて、今まで謎だったカプリスの無操作チャットもこれだ。

 服装が変わったのにも関わらず握られたままのは謎だけどな。

「寝るぞ」
「ん」
「いや、離せって」

 頷くが手を離そうとしないカプリス。

「逃げろって言ったことに怒ってるのか」
「うん」
「心配してくれたのか」
「うん」
「そうか」

 未だに顔を上げないカプリスの頭を撫でる。

「心配させて悪かった。でもな、あの時はああするしかなかった」
「わかってる。わかってるけどっ!」

 そう言って服を強く握るカプリス。

「俺が死ぬかもしれないってか?」
「そうだよ! あのフリューゲル滅茶苦茶強いもん! 見ただけでわかるくらいにっ!」

 そう叫びながら顔を上げるカプリス。

「やっと顔を上げたな」

 そんな彼女に笑顔を向ける。慣れていない優しい笑顔を。

「っ!」

 カプリスは俺の顔を見てぽろぽろと涙をこぼす。

「俺は死なねぇよ」
「・・・死なない?」
「ああ。俺は死なない。お前を、お前らを置いて先には行きはしない。俺としては、むしろお前らの事が心配だよ」
「足手まとい?」
「いや、かなり助けられてる。ただな俺もカプリスと同じで怖いんだ。死んだら本当に死ぬこの世界。俺と同等か、それ以上の奴がいる。それも敵でな。カプリスが、仲間たちが死んだらと思うとどうしようもないくらい怖い。俺自信が死ぬよりもお前らが死ぬことの方が、な」

 アイツが言っていた言葉が頭をよぎる。

『どんな手を使ってでも』

 あの言葉を聞いたとき、俺はとても怖かった。
 アイツの牙がカプリス達に向くかもしれない。そう考えてしまったからだ。
 カプリス達が束になったところで悪足掻きにしかならないだろう。それくらい奴は強い。

「だから多分、次もああ言うことがあったら真っ先にお前らを逃がすと思う。また、心配させると思う」
「ダメ。一人で戦うのは許さない」
「それこそダメだ。強敵との戦いにお前らを巻き込みたくない。ただ、これだけは約束出来る。俺は絶対に死なない」
「ほんとに?」
「ああ」
「うちの、私の隣から居なくなったりしない?」
「約束する。俺はカプリスの隣から居なくなったりしない。必ず戻ってくるとも。お前も俺の前から居なくなってくれるなよ?」

 なんかプロポーズみたいになったのだが、今は気にしないでおこう。

「うん。約束」
「ああ。約束だ」

 俺達は小指同士を絡めて約束する。

「にしし」
「くくく」

 今さら来た恥ずかしさに、お互い照れ笑いで誤魔化す。

「落ち着いたなら部屋に戻りな」
「今日はここで寝る」
「襲うぞ?」
「マスターはそんなことしないって信頼してるもーん」
「・・・そう言われると弱いんだよなぁ。もういい、好きにしろ」
「そうしまーす」

 諦めてベッドに横になると、それに続くようにカプリスも寝転がり俺の腕に抱き付いてきた。
 若干の寝にくさもあるが、役得ってことで諦めることにする。
 暫くすると、カプリスの方から静かな寝息が聞こえてきた。
 見ると、幸せそうな笑みを浮かべて寝ているカプリスが目に入った。

「まったく、俺の気も知らないで」

 空いている右手で頭を軽く撫でた後俺も眠りについた。









『もどかしい奴等だ』
『まったくですよ』

 寝静まった真夜中。
 月明かりに照らされ、抱き合うように寝ている二人を窓から見つめる二匹。
 フィズリールと、首もとの肉を掴まれ一緒に飛んでいるギルターだ。

『さ、警戒の続きに行きますよ』
『ああ』

 二匹はそう言って月明かりで照らされる夜の街に飛んでいった。
 その後ろ姿がとても滑稽なのは言うまでもない。









 翌日、俺達は氷が少し残る港へとやって来ていた。

「本当にいいのか? ウェル」
「ん」

 第三大陸に、ウェルも一緒にどうかと誘ったのだが、断られてしまった。

「一度レグルスのところに行く」
「報告か? チャットじゃダメなのか」
「チャットじゃ資料は送れない」
「なるほど。んじゃ、ここでお別れだな」
「ん」
「助けてほしいことがあったら呼んでくれ」
「ん。逆も」
「ん?」
「ボクの助けが欲しかったら呼んで」
「っ!?」

 ボク・・・だとっ!?


ピコン
caprice:ボクっ娘! ボクっ娘だよマスター!!
noah:草忘れてるぞ
caprice:あwwwwww 


 案の定反応したな。

「?」
「い、いや気にすんな。わかった。助けが必要なときは連絡する」
「ん」
「じゃ、そろそろ出港の時間だ。ありがとな。ウェル」
「こちらこそ」
「ウェルちゃん寂しいよ~~!」
「ほら行くぞカプリス」
「ばいばーーーーい!」

 俺に引きずられながらウェルに手を振るカプリス。
 そんな彼女にウェルは微笑みを浮かべて小さく手を振り返していた。

 船が港から発つ。

「ウェルちゃーーーん!!」

 見送ってくれているウェルに必死に手を振るカプリス。

ピコン

 俺も手を振ろうとしたところでチャットが来た。


well:一つ情報。転移門復活してた


 いやいやいや。

「乗る前に言えよウェルううううううううううううっ!!!」
『うるさい』
『下に同じです』
「耳障りですね」

 どうりで一人で行けるって言って聞かないわけだ。
 つか、使い魔ども辛辣すぎ。

 まぁ、そんなこんなで俺達はウェルと別れ、第三大陸へと出航したのだった。


        水の都ルーセント編 ~fin~

─────────────────────

お読み頂きありがとうございます!
遅くなってしまい申し訳ありませんでしたっっ!!!(バク宙土下座)

これにて水の都ルーセント編完結となります!
お次は第三大陸編です!

お気に入り登録、感想、誤字脱字報告等もお待ちしておりますよ!!
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