上 下
103 / 121
第4章【水曜の湖畔《時雨》】

すきま風のような寒さと切なさ

しおりを挟む
 智美特製アツアツのラーメンを美味しく完食したと言うのに、お腹は満たされていても私達の心はなぜか満たされず気分がイマイチ晴れぬまま午後の仕事に取り掛からなくてはならなくなった。
 泣きながらでも完食した軍曹はあのあと説得された智美に抱き抱えられて一旦リタイア宣言を彼女から告知されたあと離脱し、結愛との2人でまたしても砦作りに励むもののどうしても気になって作業どころの話じゃない。

 だって軍曹も私達の仲間だから、出来ることなら寄り添って元気を分け与えて笑顔にしたい……そんな気持ちでいっぱいなのに、どうしてこうなったのか考えても答えは出てこずこっちまでモヤモヤが引きずりそう。



 ……もしかして魔法が使えなくて劣等感を抱いてしまったから?



 むろんそれもあるだろう、けれども誰しも初めからできる人はほぼ居ないしここの人達は元より本能で出来るから例外だとしても軍曹にとってはこの島の部外者……いきなり魔法が使えたならアッと驚いてド肝抜かすだろう。
 けど考えるだけ事態は深刻なのに変わりはなく、きっとおにーさんとやらの役に立ちたくて……褒めて欲しくて頑張ってるのに突如として無能を実感させられたらそりゃ純粋な子供は泣くわ。
 努力や理想が報われないのを実感するにはまだ速い、子供にそんなの見せつけたら夢がぶっ壊れるってね。

「軍曹はきっと操れるようになるわ!! 昨日の今日よ、だから私信じてる……ううん、なぜか確信がわいてきちゃってね。」

 おっと……言うのが恥ずかしくて頬を染めつつ視線をそらしてくれた結愛だが、実は常に自分が1番じゃないと気が済まないタイプだからか他人をそうやって褒めたり観察したりするのは非常に珍しい。
 でも軍曹が来てからなのか妹分ができて嬉しかったんだろうな、気配りやら何やら少しずつ大切で温かな感情が育ってきた証拠なんだと私は私の方で信じたい。

「私もなぜか信じてみたくなってね。 今は心が不安定なんだろうけど落ち着いたらなんとかなる。 ……うん、なんとかしか言えないが直感がそう呼び掛けてくれるのさ。」

 私らしからぬことを言いながらアイスキューブを積み重ねていた砦の壁に腰掛け太陽を見つめる。
 悔しいけど智美は人を育てる……または心を育てたりするのが非常に上手く、あんな過酷な燎煉の発電所でも従業員を引っ張っていくカリスマを持ち合わせてる、となると預けて正解だったんじゃないかって少しばかり思え無い胸を今は撫で下ろして安堵、私も少しばかり気が晴れてきた。
 それにしても連行されてしまったがどんなことをされるのか考えるとすれば【いつまでもメソメソするなっ!!】なんて活力を入れられるか【初めからできるヤツなんて居ないっ!!】とか言って元気付けるのかは定かじゃないけどどちらのシチュエーションもリアルに想像できる辺りたぶんすぐに軍曹の事を立ち直らせてくれるに違いない。
 ごもっとも智美がたとえ冷たい時雨の水曜力に切り替わっても心までは冷えきった訳じゃない、私も見習わないとな。















 アイスキューブを積み重ねては最後の1つのスペースにさしあたったところで、私が設置しようとした時だった……【なるほど】とつい頷きたくなる言葉が結愛の口から飛び出てきた。

「最後のそこは軍曹にやらせたいから、取っておいて欲しいのっ!! じゃなきゃ意味ないじゃない。」

「ふふっ、結愛もすっかりお姉さんだねぇ。 わかった、ここは保留と行こうじゃないか。」

 作ったアイスキューブを踏みつけては元の雪に還元するが、改めて見ればほぼ砦は完成形に近くなったからこれ以上はやるべき事も無ければ陽も傾いてきたことだから撤収を決める込むも、少し後ろを振り返っては密度の濃い1日だったとフッとそんなことを思っていたら右手が突然ニギニギと温かな触感があたっているのに気がついた。

 無意識だろうか、結愛が手を繋いでくれている。

 思い返せばここに来る時に軍曹と手を繋いでいたから少しまだ寂しいんだろう……けどそれで良いんだよ。
 少しの間友達を失って大切なものに気がつく経験というのも今の結愛には必要なのかもと、皮肉めいた思考が一瞬だが脳裏をよぎった。
 こんなことを今さらになって考える私はどうにかしていると思うかい?
 まぁ、思ってくれても構わない。

 なぜなら私には思い浮かべる友なんて居ないから結愛に先を越され嫉妬してあんなことを考えてしまったのかもしれないって思っただけさ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?

ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。 しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。 しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

【R18】通学路ですれ違うお姉さんに僕は食べられてしまった

ねんごろ
恋愛
小学4年生の頃。 僕は通学路で毎朝すれ違うお姉さんに… 食べられてしまったんだ……

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...