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第1章 王宮侵入編

ジェッツに報告します!

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 会いたくなかった二人から逃げるように、私はジェッツの居場所を考える。

 この時間ならジェッツはハロルド殿下の執務室じゃなくて、宰相管理の資料室にいるはず!
 先程打ち合わせで聞いたスケジュールを思い出し、私は部屋へと駆け込んだ。


 突然部屋に入ってきた私にジェッツはとても驚いた。
 そして私は、暫く怒り混じりのお小言を聞くはめになってしまったのだった。

「で、ハロルド殿下とミラルド殿下に会ってしまったクレアは、耐えられなくてここに飛び込んで来たって?」
「本当その通りよ!!もうお家に帰りたいわ!」

 何しにここに来ているのかも忘れて、半泣き状態だ。
 でもハロルド殿下の元気そうな姿を見れたのは良かった……。

「って、ハロルド殿下のお顔を見忘れたわ!!」
「なんだ、突然。情緒不安定なのはわかったからおとなしくしていてくれ」
「私にとっては大事な事だったの……でも顔を見たら、私の顔もしっかり見られちゃうし」

 ぶつぶつとハロルド殿下に対する想いを口にする私を見て、ジェッツはため息をついた。

「それで、何か重大な情報を得たからここに来たんじゃないのか?」
「あ、そうだったわ!凄い情報を仕入れたんだからしっかり聞いて頂戴よ」

 そう言うとジェッツは資料をめくる手を止め、こちらを見た。


 私は先ほど見たメイドが窓に何かを仕掛けていたこと、そのメイドはプロンプト伯爵の指示を受けていること、そしてメイドが図書館に入ろうとしていたことを所々端折って話す。

 ミラルド殿下について話しても良かったかもしれないが、あの人は関わるどころかむしろ邪魔をしていたように見えたのだ。
 それに今探っても、何も出てこないどころか時間の無駄になりそうだと思い、伝える事はやめていた。


「成る程。プロンプト伯爵か……。わかった、ここからは僕達がやるからクレアは絶対に手を出さないように」
「わかってるわよ、私にあと出来る事なんて限られているもの」
「そう言っていつもやらかすのは君だろう!!」

 そう怒られつつも絶対大丈夫と念を押し、私は仕事の残りを片付けに部屋を飛び出したのだった。



 そして廊下を歩きながら、私はため息をつく。

 犯人はわかっているし、後は証拠を掴めれば良いんだろうけど……でもそれは私の分野じゃないわ。
 だからこれ以上はジェッツの言う通り大人しくしておこう。

 そう思ったのも束の間、掃除道具を片付けるため外にある道具置き場へ向かう途中、私は道に迷っていた。

 何で王宮内で道に迷うの!?
 それ以前に木が生い茂ってるここは何処?

 そう思いながらフラフラ歩いていると、突然木々の騒めきが途絶えたことに気がついた。
 私は緊張に足を止めて、状況を確認する。

 これは、隠密魔法!?
 でもこんな王宮内で使うなんて、普通はありえないわ。余程の命知らずなのかしら……。
 そういう私も、隠密魔法の中に簡単に入れてしまった事がおかしいのだけど、今は考えないようにしましょう。

 そう思っていると、何処からか話し声がすることに気がつく。
 なんだか妙に気になった私は、その声がする方へと気配を消して足を向けていた。


「いいか、決行は今日の深夜2時だ」

 急に聞こえてきたその声に私は足を止める。その先には男が誰かに向かって話しかけているのが見えた。
 私は足音がしないように、そっと木の上に飛び登り、姿を隠す。

 見た感じ喋っている男の周りにも、5人程いるようだ。しかしそいつらは姿を隠しているため、ハッキリとした人数は私ではわからない。
 そしてそのまま見ていると、その男は舌打ちをして続きを話始めた。

「全く、面倒な事にあのメイドは誰かの罠によって捕まってしまった。だがあの女がいなかろうが、図書館へは殿下を暗殺した後に無理やり押入ればいいからな」


 間違いない、こいつらは殿下を殺すために集められた暗殺集団だ!


 なんでこんな現場に偶然居合わせてしまうのかわからないが、昔からよく道に迷っていた私は、どんなに隠密魔法がかかっていようが、その場所にたどり着いてしまう程の方向音痴らしく、良く人を困らせていたのだ。

 そしてこんな場面を見てしまったら、さっきジェッツと約束したばかりだと言うのに、もう約束を破ってしまいそうな私がいた。
 しかし今日ならば、暗殺者を倒すのは私でも良いのではないかと思い始めてしまったのだ。
 だから情報を最大限得るため、私は観察を続けることにしたのだった。


「いいか、お前達はそれぞれのポイントからバラバラに侵入してもらう。そしてハロルド殿下を暗殺出来た者には、今回は特別ボーナスが貰えるのだそうだ」

 その言葉に周りから殺気が溢れ出る。

「まてまて気が早すぎる。仕掛けるのは深夜2時だ、絶対に間違えるな。そして侵入経路だが先ほど渡した紙に示された場所、またはメイドが細工を施したところでもいい。もし信用ならない場合は、それ以外からの侵入でも構わない」

 男は話しながら、その紙を広げていた。上にいた私にはバッチリ見えている。

「そしてこれ以降の接触は依頼達成時とする。では
、解散!」

 その声の後、殺気とともにその場には誰も居なくなっていた。
 そして隠密魔法も解かれたのか、木々の騒めきが私の耳にしっかり聞こえてきたのだ。



 その音を聞きながら、私は内心でジェッツごめんと思いつつ、満面の笑顔でキレていた。

 ハロルド殿下に手を出すだけじゃなく、まるでゲームみたいな感覚で暗殺しに来ようだなんて、絶対に許せない。


 全員後悔するような邪魔の仕方をしてやるわ!!


 そう決意し、私は夜まで王宮の屋根の上で待機する事を決めたのだった。
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