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第1章 王宮侵入編

絶対に騎士団に入って見せます!

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「ジェッツ、もう一度言って!」

 先程の言葉が信じられなかった私は、ジェッツに聞き返していた。
 そんな私の態度を見たジェッツは少し元気を取り戻したのか、嬉しそうに顔を緩めると腰に手を当てて私に言い放った。

「クレアを騎士団の入団試験に受けられるように手配したと言ったんだ。この僕が直々に頑張ったんだから一応感謝して欲しい。とはいえ、これは償いのつもりだからいつもみたいにとは言わないけど……少しなら感謝されてやってもいい」

 話をしていて少し恥ずかしくなったのか、ジェッツは頬をポリっとかくと顔を背けてしまった。
 だけど私は余りにも嬉しくて、ジェッツを抱きしめていた。

「ジェッツ!!!」
「お、おい!俺に抱きつくのはいつもやめろって……」

 嫌がるジェッツの声なんて聞こえない私は、盛大に感謝の気持ちを伝える。

「ありがとうーーー!!!!」
「お、おいこれ以上こっちに体重をかけるな!!これ以上は……ってうわぁ!!!」

 余りにも私が体重を傾けてしまったせいで、私達はスッテンと倒れてしまった。
 それなのに、私は嬉しくてジェッツの上で笑い始めたのだった。

「クレアー!!お前と言うやつはいつもいつも、僕を困らせやがって!今度という今度は許さないぞ!!」

 真下でジェッツがなにか騒いでいるけど、私の耳には全く聞こえなかった。
 それよりも、周りに雪が舞っていて私の世界まで輝き始めたように思えてしまったのだ。


 そして、数分後。
 下にいるジェッツの事を思い出した私は、またまたジェッツに盛大に叱られていた。

「全くお前は周りの話を聞かなすぎる。もう少し考えてから行動しろ!」
「はい、すみません……」

 そして今現在、場所を客間に移動していた。
 椅子に座るジェッツはなるべく私から遠ざかりたいのか、テーブルの端と端の席に座っている。
 それでも、叫ぶジェッツの声はよく聞こえるのでとくに困らない。

「それから、お前が報告してくれたプランプト伯爵についてだが、財務内で不正をしていたため知らない間に処分と左遷をされていた」
「まさか、証拠隠滅?」
「そうだろうな。だからもしプランプト伯爵の後ろに誰かがいたとしても、すでに調べようがない」
「そうなのね……」

 ハロルド殿下の暗殺に関わる事件は、いつもこうやって有耶無耶にされてしまうのだ。
 犯人を捕まえるのが一番早いのだけど、でもその前にやはり暗殺を阻止する事が大事である。
 それにこれ以上私が関わっても仕方がない。だから後はジェッツ達に任せておけば、今回も大丈夫だろう。

「安心しろ、こんな大規模な暗殺は当分起きる事はない。だからそれまでにクレアが何をしなくてはならないか、わかっているな」

 私はジェッツが掴んでくれたチャンスを思い出し、力強く頷いていた。

「絶対にハロルド殿下の近衛になってみせるわ。ここでジェッツに誓ってもいい」
「この先、何を言われるかわからないぞ?」
「言わせておけばいいのよ、私は絶対に諦めないから……疑っているのなら私の本気を見せてあげるわ!」

 そう言って私は携帯していた短剣を取り出す。
 その様子に焦ったのはジェッツだった!

「お、おい!何をするつもりだ!」
「騎士になったらこの長い髪は邪魔になるでしょ?だからジェッツにはこの髪にかけて誓うわ」
「まて、髪だって!?」

 そう言うと、私は勢いよく髪を切った。
 誰かに褒められた長い髪も、もう褒めてくれる人がいないのだから意味がない。
 そしていまだに唖然としているジェッツに、私は髪を差し出した。

「ジェッツに持っていて欲しいの」
「……本当に、僕が預かってていいんだな?」

 頷く私を見て、ジェッツはそっとそれを受け取った。そして胸ポケットからハンカチを取り出すと、髪を大事そうに包み込んだ。

「これでわかってくれたかしら?」
「ああ、お前がとんだバカだと言うことがな」
「何よ、もうジェッツに何を言われても落ち込まないわ!だってこれからは、もっともっと酷いことを言われるかもしれないんだから……でも、私は絶対にハロルド殿下の騎士になって見せるから見てなさいよ!」

 そう言いながら握り拳を作る私を見て、ジェッツは軽く笑うと安心したのか席を立った。

「ふん、この様子なら大丈夫そうだな。この先僕はお前を助ける事はできないからな。だから後は一人で頑張れよ」
「……ジェッツ、入団試験を受けられるようにしてくれて、本当にありがとう」
「それから、入団試験に受けられるのは僕だけじゃなくて、お前の父君も手伝ってくださったからだ。ちゃんとお礼を言っておくのだな」
「お父様が……」

 お父様も頑張ってくれていたことに、私はとても嬉しくなっていた。
 そして私の横まで歩いて来たジェッツは、微妙な顔をすると最後まで照れ隠しのような言葉を言って、立ち去ったのだった。

「どうせお前の事だ、すぐに近衛になれる。正直そうなったらまた毎日顔を合わせないといけなくなるから、僕としては嬉しくないんだがな」

 全く、素直じゃないんだから。
 でも本心では私と会えるのを楽しみにしてくれているんだわ。

 ジェッツの事は、子供の頃からハロルド殿下を崇拝している者同士として、ライバルだと私が勝手に思っているので、早くハロルド殿下のお側に行けるように頑張らなくてはならない。

 そう思ったら、俄然やる気が湧いて来た私は入団試験に向けてさらに訓練を続ける事にしたのだった。


 でも入団試験であんな騒動が起きるなんて、このときの私は全く思ってもいなかったのだった。
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