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第1章 王宮侵入編
王宮で侵入捜査開始!
しおりを挟む王宮侵入捜査当日。
私はジェッツに言われた通りコソッと王宮に侵入していた。そして今はジェッツの専属メイドをしているユリアーナに、説明を受けているところだった。
ジェッツはハロルド殿下の侍従だけど侯爵家の者であることから、個人の部屋を用意されている。
そのため、ジェッツの許可があれば専属メイドをつける事を認められていた。
因みにユリアーナはジェッツがマーソン侯爵家にいた頃から世話になっているメイドさんである。
そして今回、私の仕事は専属メイドとして普通にメイドをしながら、王宮内の人々が話す情報を集める事。怪しい会話は全てジェッツに報告する事。
その二つを守るだけで良いと、ジェッツにはキツく言われている。
護衛をするわけじゃ無かったのは少し残念だけど、これが殿下を守るために必要な事なのよね。
よし、殿下のために頑張るわよ~!!
こうしてやる気を出した私は、まずユリアーナのもとで普通に掃除の仕方等を教えて貰っていた。そして話し合った結果、私が担当するのは廊下の掃除という事になったのだ。
本来ならば専属メイドがやる事ではないが、王宮のメイドが人手不足の場合手伝ったりしているそうなので、掃除をしていても不思議がられないんだそうだ。
そして廊下の掃除と聞いて、ハロルド殿下と遭遇する可能性についてジェッツに訴えたら、髪の色が見えないように髪を白い帽子にしっかりと入れて、伊達眼鏡をすればすぐには分からないだろうという事になった。
もしバレた場合はすぐにジェッツを呼ぶようにと、キツく何度も言われたのでなるべく合わないように気をつけたい。
そんな感じで、私はさっそく王宮内でもハロルド殿下の執務室がある階の廊下を中心に掃除を開始していた。
なにより、人が多くいる場所を掃除しているので、色々な噂話が聞こえて来るから楽しいのだ。
誰かの不正やら、浮気の話とか本当に貴族は噂話が大好きね、と思いつつ場所を移動していく。
そしてたまに誰もいない場所に出ると、ちょっとだけズルをする。さっと風魔法を使って素早く終わらせてしまうのだ。
問題は少し音が煩い事だろう。だから誰か来る前に次の場所に移動を開始する。
そんな事をしている間になかなか楽しくなってきた私は、今度は休憩を取るメイドの話を聞く為に、休憩室に来ていた。
端の方で誰にも話しかけられないように瞑想をする私を気にせず、3人ぐらいのメイドがワイワイと話をしていた。
「ねえ、聞いて~。最近入ってきたメイドの話」
一瞬私の事かと思ったけれど、すぐ近くにいる人物の話をするとは思えない。それにきっとこの子達に私は認識されても無いはずだ。
そう思いつつ、メイド達の話に耳を傾ける。
「あのね、その子は仕事は凄く完璧なのよ。それなのに私が話しかけても全く返事はしてくれないし、態度だって私のが先輩なのに素っ気ないんだもの」
「あんたよりその子のが出来るから先輩と思われて無いんじゃない?」
「確かにそうかもしれないけど、でもおかしいのはここからよ!」
少しイラッとしたのか、メイドは机をドンと叩くと力強く話し始めた。
「なんでも完璧だから、誰よりも早く仕事を終わらせているんだけど、いつも用事があるってすぐに何処かに行ってしまうらしいの」
「完璧にこなしてるんじゃメイド長も文句はいえないわよねぇ」
「でもね、何故か荷物はずっと残っていて帰るのは一番最後なんですって!」
「なにそれ、こわ~い!!」
その話をキャイキャイ話すメイド達に気づかれないよう、私はそっと部屋を出る。
今の話、どう考えてもジェッツが持っていたあのチラシの募集者に間違いない。
そう思った私は、ユリアーナに噂のメイドについて教えてもらうと、すぐに居場所を突き止めていた。
そしてコッソリと、メイドの後をつける事にしたのだった。
噂のメイドは、本当に噂通り異常なほど素早くテキパキと仕事をこなしていた。普通の人から見たならただの働き者にしか見えないだろう。
だけど騎士を目指す私にはわかる。
普通のメイドはそんな素早く動けないという事に。
誰かの専属メイドであれば、護身術や暗殺が出来ても不思議ではないかもしれないが、それにしても早すぎる。
普通の動きの他に、何か別の作業を挟んでいるように見えたのだ。
そして私は気がついてしまった。メイドが窓を拭きながらその窓に仕掛けを施した事に。
窓に仕掛けを施しているという事は、暗殺者を中に入れるための準備をしているということだろう。
これは早めにジェッツに伝えて、王宮内全ての窓を確認してもらう必要があるかもしれない。
でもこれは後で報告する事にして、今はメイドを追いかける方が先である。
そう思い尾行していると、メイドは全ての掃除が終わったのか、メイド長に報告しに行くようだった。
その姿をじっと見て、先程の噂を思い出す。
あのメイドは掃除を終わらせた後、何処かに行っていると言われていた。
つまり、ここからが本番というわけね……慎重に行きましょう。
そう思っていると、報告を終わらせたメイドがメイド長の部屋から出てくるのが見えた。
そして暫く尾行を続けていると、そのメイドは王宮から図書館へと繋がる渡り廊下を進み始めていた。
もしかするとメイドの目的地は図書館なのかもしれない。
因みに王宮内には、図書室と図書館がある。
図書室は誰でも閲覧が出来るようになっているため、資料を探す人が忙しなく行き来している場所である。
それとは別に図書館とは王国に関わる機密文書や、禁書が置かれている場所のことだ。もちろん国王や重鎮である誰かの許可が無いと入れない場所である。
そんな場所に一体なんの用が……?
雇い主が必要としているのかしら。そうだとしてもあそこは簡単に入れないはず、ならば目的は人気の少ないこの場所とか?
そっと離れすぎないように円柱の柱に隠れて尾行をしている間に、私達の周りには誰もいなくなっていた。どうやら図書館へ向かうための渡り廊下にも終わりが見えてきたようだ。
それなのにそのメイドは突然立ち止まると、こちらを振り向いたのだ。
尾行がバレたのかと一瞬ドキリとしたが、メイドはその場から動くことはない。どうやら誰かを待っているのか、来た道をじっと見つめていた。
そして気がつくとメイドが見つめる先、つまり私の後方から足音が聞こえてきたのだ。
ど、どうしよう!?
まだどちらにも認識されてはいないようだけど、見つかるのは時間の問題だわ。
何処か隠れるところは……?
背後からの足音は徐々に近づいてきている。なるべく柱に沿って移動しているとはいえ、もうすぐ目視できる距離にいるはずだ。
このままだと挟み撃ちに会ってしまうわ!
私は咄嗟に周りを見回す。
どう見ても隠れる場所なんてない事に一瞬落胆しかけたが、私は諦めていなかった。
こうなったら一か八かよ!そう思った私の視線は、天上へと向いていたのだった。
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