58 / 86
第4章 暴走編
話し合いしましょうか!
しおりを挟む「おいクレア!お前家から勘当されたって本当か?」
もうすぐ演習試合で気が抜けないというのに、ヨシュアときたら私と組み手の練習中にも関わらず、呑気に話しかけてきたのだ。
きっとあれだ。話しかける事で私の集中を削ぐ事が狙いに違いない。
そんな策には騙されません!
「おい、クレア!話を聞けったら!」
「そんな手にはのりません!」
「なにいって……て、うわっ!」
どうやら私の一本が綺麗に決まったようだ。
ふふん、ヨシュアの作戦に引っかかる私ではないわ!
前回の決闘からと言うものすっかり仲良くなってしまったヨシュアと、気がつけば毎回こうして練習をする仲になってしまった。
まあ他に相手してくれる人が居ないのだから、ヨシュアで我慢してあげている。
「ヨシュア、私に話しかける作戦が上手くいかなくて残念だったわね!」
「なにいってるんだ。僕はお前を心配してだな……あのだな、その……」
何が言いたいのかハッキリしないヨシュアは、もじもじと俯いてしまった。
そのまま待っていると動くこともやめてしまったヨシュアに、とりあえず先程の答えは返しておこうと今更答えを返す。
「さっきの、勘当の事なら事実よ」
「え!?」
勢いよく顔を上げたヨシュアは私を見ると、すっごく可哀想な人を見る目をしていた。
「なにその顔?」
「だってお前家を追い出されたんじゃ……」
「自分から家を出たのよ……迷惑をかけたくない人が沢山いたから。あんたには関係ない話よ!」
その返しに納得いかなかったのか、相変わらず可哀想な人を見る目でこちらを見ないで欲しい。
「前話したと思うけどさ、僕は騎士にならなかったら家を追い出されるかもしれないって言ってただろ?そんな僕より先にクレアが家を出るなんて思ってなかったから……」
「だからってヨシュアまでそんな悲しそうな顔しなくても」
「僕はそんな顔してない!」
そんな同情されるような事でもないのに……と、私はため息をつく。
顔を上げるとじっとこちらを見つめるヨシュアと目があう。やはり何か言いたいのかじっとこちらを見つめている。
そして何か意を決したように口を開いた。
「もし、もしお前がこのまま行き倒れるような事があったらなんだが……こ、この僕が貰ってやってもいいんだぞ!」
「は?いやよ」
「そんなキッパリ断らなくても!!本来は僕の方がお断りなんだぞ!」
ならなんで言ってきたのか全くわからない所がヨシュアらしい。
きっとヨシュアなりに心配して言ってくれているのだろうけど、何故かそう聞こえないのがヨシュアなのよね……。
「ヨシュアならもっといい貰い手があるでしょう」
「僕は次男だから、結婚する予定はない」
「だからって愛のない告白するのは良くないわよ」
「うるさい!僕だっていつか理想の女性が現れるのを待ってるんだ」
ヨシュアの事だから理想が高過ぎるのだろう。
なんだか馬鹿らしくなってきて私は話を切り替える。
「それで?理想のお嫁さんを探しているヨシュアの演習相手は誰なんだっけ?」
「なんだその言い方は……まあ、僕は寛大だから許してやる。僕の相手はルーサーだ」
「誰だったかしらそれ?」
名前は聞いた事あるような気がするのだけど、正直最近皆同じ顔に見えてきて、違いがよく分からなくなっていている。
「お前は同じ班なのに、全く名前を覚える気がないのだな」
「あんたは顔を覚えてないじゃない!」
「うるさい!どうせお前は次の演習相手のカールの事も覚えて無いんだろう?」
カール?全く覚えていない、と首を捻る。
その様子にヨシュアが呆れてため息をついた。
「流石にカールの名前は覚えておけ、あれは騎士団第三部隊隊長イルダー・ヘリンツ伯爵様の息子だ」
「イルダー・ヘリンツ様?何処かで名前を聞いたような?」
「お前なぁ……。騎士団の入団式でスピーチしてた人だよ」
「ああ!あのスキンヘッドの!?」
スキンヘッド?その言葉に何故か既視感を覚えて私はまた首を傾げる。
その様子に気づいていないヨシュアは一応は覚えていたかと、ホッとしていた。
「まあ、覚えてたようでよかったよ」
安心しているヨシュアを無視して、わたしはどうにか思い出そうと考えていた。
すっごく何かひっかかっているのよね。最近何処かでスキンヘッドの男を見たようなきがするのだけど?
うーん、確かあれは……城下街に遊びに行ったときに道に迷ってしまって、それから樽を倒したときの…………一瞬見えたスキンヘッド!!
「ああ!!!」
驚いた私を見てヨシュアが顔を顔を上げた。
「ど、どうした!?」
「えっと……」
言い淀んだ私は、その事をヨシュアに言うべきか悩んでいた。あのとき一瞬見えただけで、本人と考えるのはまだ早いと思ったからだ。
それでもスキンヘッドという情報は間違いない。
だから、私は一応気づいたことをそのままヨシュアに話す事にした。
「ヨシュア、今からする話は内緒にしてほいのだけど……」
そう言って私はこの間城下街で起きたことを、ヨシュアにかいつまんで話していた。
「お前、命狙われてるの知ってたのか!?」
「ええ。……ってヨシュアは何で知ってるの?」
「い、いや僕は偶然聞いただけだ!」
一番に気にするところそこなんだ。と、意外に思ってヨシュアを見ると、腕を組みながら何かを考えているようだった。
「ヨシュアはその人が犯人だと思う?」
「僕は実際あって話した訳じゃないから確信できないが、あの日僕に魔力増強剤を渡したのがカールの可能性は充分あると思う。それに次のお前の演習相手はカールだ。それだけでも充分怪しいからな、気をつけた方がいいだろう」
「確かにそうよね」
「それから、お前と決闘でかけたリーダーの件だけど……」
「リーダー?」
決闘で何かかけたような気がするけど、結構前の事なのですでに忘れていた。
「いや、覚えていないならそのまま忘れてくれ。僕は僕で忙しいからな!」
「ふーん。そうなんだー」
「もう少し気になるとかないのかよ!」
ない!ときっぱりヨシュアに伝えると、ヨシュアは盛大にため息をついた。
「私はこれ以上、首を突っ込まない事にしたのよ」
「まあ、その方がいいと僕は思うぞ!」
うんうんと頷くヨシュアを見ながら自分でもそうだと思う。だってこれについては全部お父様に任せたつもりなのだ。
だから私はあまり関わらない方が良いに違いない。
それならばこれから起こり得るカールとの戦いに備える方が大事だ。と、私はヨシュアに気になっている事を聞いてみた。
「ところでカールは何使いなの?」
「あいつは土属性が得意と聞いているが、実際戦闘で使ったところは見た事がない。魔法に頼らずとも剣の腕は確かだ。だからこそ奥の手で、魔法を使ってくる可能性がある」
「土属性は少し苦手だわ……ずっと飛べるほどの魔力を維持できれば話は別なんだけどなぁ」
「少しの魔力で飛ぶ練習でもしたらどうだ?」
少しの魔力で飛ぶ?
確かに今の魔力の放出の仕方では無駄が余りにも多い。それに、ずっと飛んでいる必要はないのかも知れない。
そう考えるとやって見る価値はありそうだ。
「ヨシュア、凄いじゃない!その案いいわよ!じゃあ、早速練習してくるわね」
ヨシュアを勢いよく褒めて、すぐに空いてる訓練場を聞きに行く事にした。
訓練時間も終わってるはずだし、手が空いてる人がいるかもしれない。
私はウキウキしながら、ヨシュアの前から立ち去る。
そのときヨシュアがどんな顔をしているかなんて、私は全く気がつかなったのだ。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
コパスな殺人鬼の兄に転生したのでどうにか生き延びたい
ベポ田
BL
高倉陽介
前世見ていた「降霊ゲーム」の世界に転生した(享年25歳)、元会社員。弟が作中の黒幕殺人鬼で日々胃痛に悩まされている。
高倉明希
「降霊ゲーム」の黒幕殺人鬼となる予定の男。頭脳明晰、容姿端麗、篤実温厚の三拍子揃った優等生と評価されるが、実態は共感性に欠けたサイコパス野郎。
モブなのに巻き込まれています ~王子の胃袋を掴んだらしい~
ミズメ
恋愛
【書籍 全2巻】
【コミックス 全3巻】
転生先は、乙女ゲームのヒロイン……ではなく、その友人のモブでした——。
「ベラトリクス、貴女との婚約を破棄する!」とある学園の卒業パーティ。婚約破棄を告げる王子の声がする。私は今、王子たち集団には関わらずに、パーティー会場の隅でメイドに扮してゲームヒロインの友人を見守っている。ご飯を用意しながら。
◇異世界もの乙女ゲーム小説大好きアラサーが、モブに転生して友人の電波ヒロインを救うべく奔走したりご飯を作ったり巻き込まれたりした結果、溺愛されるおはなし。
◇『悪役令嬢のおかあさま』と同じ世界の、少し後のお話です。ネタバレがあるかもしれませんので、興味がありましたらそちらから覗いて見てください。
◇スピンオフ作品『悪役令嬢なのに下町にいます』
本作の悪役令嬢ベラトリクスからみた世界。
毎秒告白したい溺愛王子と、悪女になりたくないエイミーの激おこツッコミ劇場
ゆきぶた
恋愛
毎日毎日、同じように少しおバカな王太子殿下に告白されては、お断りをしているエイミーはそろそろ我慢の限界。
「君が好きだ!」
「お断りします!!」
だって、殿下には婚約者がいるじゃないですか!!
このままだと、私は悪女と呼ばれるようになっちゃうわ!それだけはいやぁぁぁあぁ!!
と思ったのに、何故か殿下は周りかの人たちから少しずつ凋落させて囲ってきていて……。
なんで周りは賛成モードなの〜〜〜〜!?
誰かこの状態にツッコミ入れて!!!
今日もエイミーはおバカな殿下に振り回されて、嫌われる方法を模索中!
エイミーが殿下に絆される日はくるのか!?
ー ー ー →
恋愛ハイテンションギャグ、ラブコメ。
頭空っぽにしてサクッと読んでください。
語彙力、文章力がないのだけは許してください。
小説家になろう、カクヨムでも投稿してます。
【父親視点】悪役令息の弟に転生した俺は今まで愛を知らなかった悪役令息をとことん甘やかします!
匿名希望ショタ
BL
悪役令息の弟に転生した俺は今まで愛を知らなかった悪役令息をとことん甘やかします!の父親視点です。
本編を読んでない方はそちらをご覧になってからの方より楽しめるようになっています。
地味で冴えない俺の最高なポディション。
どらやき
BL
前髪は目までかかり、身長は160cm台。
オマケに丸い伊達メガネ。
高校2年生になった今でも俺は立派な陰キャとしてクラスの片隅にいる。
そして、今日も相変わらずクラスのイケメン男子達は尊い。
あぁ。やばい。イケメン×イケメンって最高。
俺のポディションは片隅に限るな。
実の弟が、運命の番だった。
いちの瀬
BL
「おれ、おっきくなったら、兄様と結婚する!」
ウィルとあの約束をしてから、
もう10年も経ってしまった。
約束は、もう3年も前に時効がきれている。
ウィルは、あの約束を覚えているだろうか?
覚えてるわけないか。
約束に縛られているのは、
僕だけだ。
ひたすら片思いの話です。
ハッピーエンドですが、エロ少なめなのでご注意ください
無理やり、暴力がちょこっとあります。苦手な方はご遠慮下さい
取り敢えず完結しましたが、気が向いたら番外編書きます。
一般人な僕は、冒険者な親友について行く
ひまり
ファンタジー
気が付くと、そこは異世界だった。 しかも幼馴染にして親友を巻き込んで。
「ごめん春樹、なんか巻き込ん――
「っっしゃあ――っ!! 異世界テンプレチートきたコレぇぇぇ!!」
――だのは問題ないんだね。よくわかったとりあえず落ち着いてくれ話し合おう」
「ヒャッホ――っっ!!」
これは、観光したりダンジョンに入ったり何かに暴走したりしながら地味に周りを振り回しつつ、たまに元の世界に帰る方法を探すかもしれない物語である。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる