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第4章 暴走編
私の心は一つです!
しおりを挟む私を第二王子妃に?
ジラルド殿下の言葉に、どうしてそんな事を仰ったのか頭を捻っても全く答えが出ない。
確かにこの国の王族は種を守る為に第2王子妃、第3王子妃などを娶る事は許されている。だとしても、何故矛先がこちらに向くのかが理解できない。
まずジラルド殿下はまもなくご結婚なさるわけで、その相手が可哀想だ。それに特別私を好きと言う訳でもなさそうに見える。
何より騎士となった私を第2王子妃にしてもいい事が何もないのだ。
では何故ジラルド殿下は私を第2王子妃へと誘うのでしょう?考えられるのは私の侯爵家としての地位ぐらいしかない。
でもその地位さえも今の私には、姓を捨ててしまった私には無いのだけど……その事はまだ公に広がっていないため、殿下が知らなくてもしょうがない。
でも、もしジラルド殿下が王位継承権を手にしようとしているのなら、本来の私の家柄は役に立つのだろう。
納得しかけたそんな私を否定するかのように、ジラルド殿下は焦って話し始めた。
「いや、すまない!突然言われても困ってしまうのは当たり前だな。もし本当に困った事があれば俺はいつでもクレア嬢を助けると、そういう風に受け取って貰えたら助かる」
ジラルド殿下自身は相当焦っているのか、一人称が俺になってしまっている。
その事に驚きと、ジラルド殿下の人間臭さに触れた気がして私は吹き出してしまった。
「……クレア嬢?」
「ふふふ……おほん!いえ、大変申し訳ありませんでした。私ったらジラルド殿下が、スカーレット家の後ろ盾が必要なのかと思っていたのに、そんな事を仰るのでびっくりしてしまいまして……」
「そんな失礼な事はしないさ!それに私はどうしても王位を継ぎたい訳ではないからな。それに今はただ本当にクレア嬢を心配してだな、何というか私にとっては妹みたいな存在だったのだ。だから変な噂とかで苦しんでいないかと心配で……その……」
何をなさるにも完璧なジラルド殿下が、必死に私の事を心配してくださっている……。
きっと本気で妻に、と言っている訳では無いのはわかる。もし私が本当にどうしようもなくなったとき、第2王子妃になれば私を守る事が正式にできる。
そんな助けになりたいと言う、その気持ちがとても嬉しかった。そんなジラルド殿下をみて、私はこの方はとても優しい方なのだという事に微笑んでいた。
「そんな事態が、本当にもし万が一あれば考えさせて頂きますね」
今までジラルド殿下がハロルド殿下に刺客を送っていると私は思っていた。だから数回しかお会いした事のないジラルド殿下の事を勝手に冷徹な人物だと思っていたのだ。
でもこれはどうやら私の勘違いだったに違いない。
この方の内面にある優しさからは、弟に対する愛情しか感じられない。
だからなのか私の目にはどう見ても、ジラルド殿下は弟想いな一人の兄に見えたのだ……。
そう思うと自然に私は和かな表情をしてしまった。
それを見たジラルド殿下は、ホッと胸を撫で下ろすと改めて、こちらを真剣に見つめてきた。
まだ何かあるのだろうかと私は構える。
「いや、私は万が一は今この時だと判断したからこそ、ここにきたんだ。……はっき言わせて貰うが、君は今命を狙われているのだろう?」
「え……?何故それを」
それを知っているという事は多分、ジラルド殿下もあの指名手配書を見たという事だ。
ジラルド殿下が知っているとなると、もしかするとハロルド殿下もあの紙を見ているかもしれない。
その事に私の顔から血の気が引いていく。
「私が騎士団の入団試験に居たのを忘れたのか?あのときあった出来事に関係してそうな内容は全て把握している」
「ではそんなに多くの人が知っているわけではないと……?」
「ああ。その通りだ」
その言葉に少しホッとしたが、すぐに思い出す。
そういえばよく考えればあの日、私に御守りを渡したハロルド殿下は、私の暗殺の事を知っていた。
それってつまりもう既に紙は見てしまっているって事じゃ……。
ショックで思考が停止しそうになったが、ジラルド殿下の声でどうにか倒れる事だけは回避する。
「クレア嬢が私の第2王子妃になれば、確実に君を守る事が出来る。今のハロルドでは補えない所までな……それにあいつにはあいつなりの事情があるんだ。恨まないでやってくれ」
「いえ、恨むなんて絶対にあり得ません。それに私はジラルド殿下に守られるつもりもありません」
私は自分の意思を表すように、ジラルド殿下を見つめた。
今の私の精一杯の気持ちを込めて……。
「私はいずれハロルド殿下の近衛になるつもりです。それなのに簡単に殺されるような弱い騎士なんて私自身が許せません。もしこんなところで殺されるなら近衛になんてなれませんから……だからどうか、私の事は気になさらず見守っていて下さいませんか?」
殿下と見つめ合い、暫くの沈黙が続く。
どちらも相手の瞳を見つめ、逸らす事はできなかった。
ここで先に目をそらしたら、私の意志が全部殿下に伝わらない気がするわ。
それに殿下が無理矢理私を第2王子妃にする事は簡単だと思うわけで……。
だからこそ、どうかここで引いて下さい!
祈りが通じたのか、ジラルド殿下は目を逸らすと突然肩を震わせた。
「……ジラルド殿下?」
「くく……あはははは!全く君は面白いね。完敗だよ!いやぁ、これで私の婚約者殿に報告する話が増えたよ。ありがとう!」
「は、はあ……」
突然の爆笑の末に何故感謝されたのかわからないが、ジラルド殿下と婚約者であるアリアーゼ様は、どうやら不仲では無いようで良かった。
「君の本心も聞けた事だし、今日はこれで失礼するよ」
そう言うなり、颯爽と部屋を出て行くジラルド殿下には、つきそう侍従や護衛騎士が見当たらない。
まさかと思うが一人でここに来られたのでは無いかと、少しハラハラしてしまう。
ジラルド殿下も命を狙われる事があると聞くし心配だと、急いでその後を追おうと部屋をでた。
しかし扉の向こうにはもう既にジラルド殿下の姿はなかった。
そしてその代わりに、いつから居たのかライズが壁に寄りかかっていた。
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